第九十四話 三日目昼/ピアノよりもパイプオルガンの方がいい曲目
入り口から正面、教卓の右手にお目当てのものはあった。
黒塗りのピアノが一台と
その対面には骨董品になりつつある足踏み式のオルガン。
もちろんだけど、ぼくの選択肢はピアノだ。
外でどんなやり取りが行われているかわからない。
最悪なケースとしてエリスが! ベルチェとカミラが捕まり酷い暴行をうけてるのかもしれない。
ほーちゃんがこの世界で微妙な扱いだからといって、パニック化した集団は恐ろしい。
今ごろ食肉にされてるのかもしれない……。
ありもしない未来の姿をイメージしながらも、ピアノの天板をあげる。
ピアノの天板には膝を着き手を組み誰かに祈りを捧げるマリアか? それとも別人か? 祈りを捧げるヌードモデルの彫像。
ピアノの旋律を確かめるためにすこしだけ、音を鳴らす。
ーーポロンポロンピロロロ~ンーー
正確に音が響き天板に跳ね返って満たされる音色。
本当なら挨拶変わりに昨夜の運命。
昨夜の騒ぎを聞いた人も何人かいて、覚えているかもしれない。
ダから、カミラのダダダダーンはそれを思い出させるためのフラグ。
偶然とはいえ、ぼくはそれを信じて飛び込んだ。
鍵盤を強めに叩き音を強くだす!
下から盛り上がりでも落ちていくような、テラリ~テラリラリーラ~……。
伝わるかな? 教会や聖堂でよく演奏されてる。 それと、悪役のイメージ。
ちょっと不吉で、雰囲気が重いバッハ作曲のトッカータとフーガ!
ピアノでももちろんいい雰囲気が出るんだけど、この曲の真骨頂はパイプオルガンだと思う。
まあ、最近のエレクトーンならそれに近い雰囲気はもちろんだせる。
だけど今はパイプオルガンもエレクトーンもないからピアノで強弱をつけてシビアなテンポ調整でドラマチックに荘厳に演奏するしかない。
鍵盤の上、左手の薬指にはめたブルードロップの指輪が燭台の灯りを反射させる。
光りの尾を引きながら右手の動きに合わせるように軌跡を描く。
聞く人のいない教会の中。
否!
膝を着き誰かのために祈る誰かの彫像が特等席に居座る。
もちろんぼくは彫像に音楽を聞かせているわけではない。
今ごろ、外の誰かがピアノに気付く頃だろう。




