第六十三話 二日目/夜、メアリーの楽譜の検分、屋根を叩く雨音の下で……
あれからアイスの余韻に浸りながら食休み。
エリスが「食った食った~」と大きなお腹をポンポンと叩き幸せそうな顔をうかべていた一方。
「あとの片付けはやっておきますね」
と、率先して仕事を引き受けるベルチェ。
「カミラもリュウとエリス様を困らせないようにね!」 と、付け加え母親全快のベルチェ。
竈にくべられた薪が火の粉を吹き、その名残がパチッと音を立てる静かな時間。
そこへベルチェが片付けの合間に早速仕事をしたらしく、薄汚れた一冊のノート。
ベートーベンの楽曲を中心に書き写された楽譜に続き2冊目の楽譜。
このまま外で食休みしながら楽譜の検分をしようと思ったのだけど、ポツポツと空から落ちてくる雨粒。
「こんなタイミングに雨なぞ! 聞いておらんぞ~」
幸せな余韻に浸っていたエリスは叫ぶ!
ピチャッ、ピチャッ!と 頬を濡らす冷たい雨。 本降りになる前に用意してもらったログハウスへ避難。
楽しかった時間が雨によって中断。
こんな時、なにをしたらいいかわからない。
「お天気だけは仕方ありませんね。 それにこの時期ですから季節の変わり目かもしれません。」
ベルチェがこの世界には天気予報というものがないことを暗にいう。
そして季節の変わり目だと……。
故郷でのキャンプと言えば小学校や中学校での林間学校と呼ばれるキャンプ体験。
林間学校での最大のイベントはキャンプファイアー。
だけど異世界にはそんな文化もイベントもなさそうな雰囲気。
「もうすぐ雪の季節か~、やだなぁ~」
と、雪の季節というと冬のことだろう。
カミラは冬が嫌いらしい。
こんなときはボクの出番!?
残念なことにこのログハウスにはピアノなんてありもしなかった。
ポツポツと降ってきた雨粒は次第にザァザァと滝のような土砂降りにかわる。
賢者の石の証明で明るく照らされた室内。
三人にとっては暇でやることがなくなってしまい、あとは寝るしかないという状態。
だけどボクは逆にやることが増えていた。
パラリと音をを立ててページを捲る。
色褪せて書かれている内容もところどころかすれ、所々に何かを溢したような染みや破れ。
「リュウ、何をみているんだ?」
「ロスカートが、持っていたメアリーの楽譜なんだけど……」
確かこの世界の文字も賢者の石の力で読めたハズ。
領主館の貴賓室にあったピアノの上。
しかもぼくを召喚するための出会い系魔法の禁書。
「おお! アイツが楽譜を持っていたのか!?」
ホントならぼくがこの楽譜で喜ばなければならない。
だけどボクの心情を表すかのように感情を表すエリス。
もちろんぼくだって喜びたいよ。
だけどページを開くとそこには謎の模様……。
というよりも、ぐちゃぐちゃとした落書きのようなものだった。
「ベルチェが回収してくれたみたいなんだけど……」
と、エリスにも見せる。
「これは……」
エリスは中身を見て意味深につぶやく。
エリスならばこの世界で産まれ育ち、領主という役職。
だからわかると思って期待した! だけど、「全くわからん!」
期待させておいて地獄に落とすような回答。
おい……。 肩をあげて心の中でツッコむ。
「そもそもわたしは楽譜なんてわからないし、読めるわけがない!」
肩を落として納得。
「正確にはあのピアノに隠されてました」 と、ベルチェ。
どうやら、ピアノを綺麗にしようと拭きあげてくれたみたいだ!
いつの間に……。
賢者の石の灯りを揺らすような激しい雨粒が屋根を叩きつけている。
ザァァァ! と全ての音を飲み込みさらっていくような強烈な雨音。
日本でもこのくらいの雨は日常茶飯事だから大丈夫だろうと思った。
ページをパラリと捲り次のページに眉を寄せて想像力を総動員していた時だ!
ポタッッ……!
周囲から聞き慣れない何かが落ちる小さな音……。
ポタッ……ポタポタ!




