第五十六話 二日目/ エリス様!それはディスられてます!
「リュウの演奏すごかっただろう?」
湯煙が立ち上る広い温泉にゆっくり浸かっていると、エリスと他二人、落ち着いた大人の女性とキャッキャッ! とはしゃぐ子供の声。
三人の声が響き、キャッキャウフフと笑い声とともにチャプンと響く。
もしかして。ボクは男湯と女湯を間違えた!?
一人湯船でくつろいであたんだけど、湯船を、間違えたことに、ジンジンと身体を温まってきた心身が一気に凍りつく。
幸いなことに湯船から立ち上る暖かい湯気がベールとなり、余程の至近距離じゃなければお互いを認識できない状態。
もしかしたら男湯と女湯の境界があり、どこかで区切られているのだろうと淡い期待。
だけど、水面が揺れ三人の声が近付いてくる。
今まで、何人も拐ってはアチコチに売り飛ばしていた自分がホントにバカだった」
チャプン、チャプンと水面が揺れて伝わり波紋……。
どうしよう! 境界があると思っていたけど、もしかしてない!?
「それだけではないんだけどな……」
話の内容がハッキリと聞こえるようになり……。
エリスは、ベルチェとカミラにボクとの馴れ初め話をしているかのようだ。
「ちょっっ! ……ぬまぁぁぁ!」
ザブンッ! と、慌てて立ち上がり三人に背中を向けてお湯から上がろうとした。
「おぉ! リュウ! 入ってたのか?」
「ここが女湯だなんて! ごめんなさーい!」 と一言……。 逃げ出そうとした。
ザブ~ン!
逃げようとするボクの手は捕まれ、ぼくの視界が傾きその場に転倒。
ザブンッと再び! 今度は頭から湯船に突っ込む。
「ブハッ」 と顔をあげると、手を掴んだのはエリス。
「ヒィィィィ!」、 ボクは思わず叫ぶ!
「まぁ待て、リュウ!」
湯船から上がろうと……、否。 この場から逃げ出そうとしたけどエリスに手を掴まれ脱出失敗。
ボクの運命は女湯に入ってしまったことで変態のレッテルを貼られてしまうことになる。
そしてこのまま亡霊団と同じ、牢獄行きのなるのでは?
と、お湯に浸かってるのに顔を青くさせてガグガグしていると
「どうして逃げる必要がある?」 と、エリス。
座されてエリスが正面で仁王立ち。絶体絶命のピンチ。
しかも、そこにベルチェとカミラに挟まれて拘束。
「温泉はみんなでワイワイ楽しく入るのがモットーなのだろう? 異世界ではこれがあたりまえだと聞いたぞ!」
なるほど、みんなでワイワイすると言うことを転移者に教わったわけだ……。
「それに裸の付き合いは相互理解を深めるために凄く大事だとリュウと同じ転移者は言ってたぞ!」
「ああ、確か日本だったか? 地球では男女共に風呂に入るのが当たり前だとな……!」
と、ベルチェ。
この母と娘も転移者との接触があったのだろう。
「お兄ちゃんと一緒にお風呂~」
カミラとベルチェの場合は転移者を誘拐したんだから当然か……。
正面のエリスを一瞥して直ぐに目を逸らす。
右を向けばお湯の上でニモツをドーンと浮かせて巨乳のベルチェ。
左を向けば……。
お子さまだから問題ないだろうと金色の瞳と目が合う。
うん、お子さまであったことに感謝しかない。
「どうした、リュウ!
やはりおまえも巨乳の方がいいのか?」
エリスが盛大に爆弾を落としてくる!
「そういえば、転移者のやつら全員巨乳好きだったな!」
「最後の望みとか言って興奮してた~!」
カミラまでも爆弾を落としてくる始末。
「ふん! やはりリュウも大きい方がいいのか!?」
ボクの目の前で身体を近付け腰に手を当ててふんぞり返る。
「そんなデカイだけのモノより、私のような貧乳の方がステータスなんだぞ! 知らないのか!?」
エリスは一体何を言っているんだ?
「わ……、わ、わっわっかった、わかったから!!」
目を両手で覆うように隠し、そのスキマから見えるエリスの謎アピール。
エリスの身体については領主舘の真下で少し見た程度。
「 『貧乳はステータスだ!』 と、日本からの転移者が言っていたぞ! 知らないのか?」 とさらに巨大な爆弾を投下!
…………!!
日本で流行った茶番劇から始まり箸の使い方まで……、エリスはボクの故郷に憧れている。
だけどそれ以前にだ!
間違った形で日本の文化や美学を覚えてしまったのではないか?
「さすがエリス様~大きいだけのわたしと違い、素晴らしい貧乳です!」
ちょっと待て!
それはエリスをディスっていることになると声を大にして言いたいなんて言えない。
「貧乳はステータス~♪ 貧乳はステータスだ~♪」
カミラがリズミカルにエリスの貧乳を称える。
もうなにも言えない……。
もちろん、今までの転移者が独特な性癖や趣向で間違った知識を植え付けていった可能性もある。
もしかしたら、ボクがこの世界に呼ばれた真の使命は間違って植え付けられた知識や価値観を正す事なのではないだろうか?




