第五十三話 二日目/夢と現実の境界
本来は音を反響させて一定の方向に音を向けさせる役割を持つ天板。
だけど、音響効果を使うためだけの天板ではない。
鏡としての役割も担う天板。
その天板にエリスの姿を写し、ボクにエールを送っているというわけではない。
本来、ボクの近くににいなければならないはずのエリスは別行動。
素顔を隠すためのフード付きのローブで素顔を隠し、バーダックの人間を装っている。
亡霊団を警戒しているというよりもベルチェとカミラの動向を警戒しているのだ。
「どうした~転移者のピアニスト! メアリーが聴きたいっていってるぞ!」
「それとも怖じけついたか?」
外野からボクを挑発する声!
本音をいえば、怖じけ付いている。
椅子をおりたい。
「プレドちゃんのピアノ聴かせて~」
周囲の挑発に紛れてエリスの声援。
だけど、ボクの心は既にポッキリと折れてしまっている……。
(神様……。メアリーでもいい……、ボクに力を貸して!)
困った時の神頼みとはいったものの、そう簡単に神様も力を貸してくれるはずはない。
メアリーに関しても論外……。
チカチカと周囲を照らす灯りが点滅。
不意に視線だけで上を見上げると天板に一羽の蝶。
漆黒の天板に溶け込むように黒い羽根が特徴的なカラスアゲハ。
この世界に蝶?! しかもこの寒い時期に……。
「あっ……。」
だけど、カラスアゲハはすぐに羽根を拡げドコかヘ飛び立ってしまった。
思わず、カラスアゲハを追いたくなってしまったけど今はそんな場合ではない。
次の瞬間……。
ボクは気づく。
心が軽くなっていた。 それだけじゃない。
人食いピアノと呼ばれたピアノの鍵盤が新品同様様の耀き。
今まで幻を見ていたのか?
それとも今のこの光景が幻なのか?
夢と現実の境界が曖昧になる不思議な感触。
「弾けぬならもう終わりだぁっ!」
だけど現実はそうも甘いわけではなく、ロスカートが痺れを切らし鍵盤蓋に指を掛けようとした瞬間。
(小僧! 最後のチャンスだ!)
ボクの心にふと響く声。
ロスカートの威圧からはじまり血まみれの鍵盤……。 ボクは半ば諦めかけていた。




