第四十話★ 二日目/エリスの変貌
「流石にこの私もその蛮行! 許すことが出来ぬ!」
ベルチェを腹部から跨ぐように仁王立ち! 頭上に掲げるナイフの刃先が光る!
「まって!」
瞬時に全てを理解したボクはエリスがベルチェを殺そうとしていることを知る。
恐らく、はらわたが煮え繰り、飲み込むすべてのモノがその燃料になる勢い!
「おかあさん!」
僕がテーブルに手をつくと同時に一緒に立ちあがったカミラも叫ぶ!
気が付けば喉がカラカラ。
エリスはこのままナイフを振り下ろすつもりなのは明白。
なんとかしなければ!
エリスがヒトを殺めるところなんてみたくない。
それに、目が見えるようになったカミラとベルチェを引き裂くなんてできない!
(エリスの蛮行を止めて欲しい! ベルチェの命も助けて欲しい!)
ボクは強く思った。
その時だ!
ボクが第二楽章の演奏を躊躇った時に見えた手。
白くて長い綺麗な指の手がエリスの背後、襟首を掴む左手とナイフを握る右手首を右手が掴む。
「ナニッ!?」
突然のことにエリスが驚愕の声をあげてナイフを落とす。
ドスっとそのまま自由落下して足元に刺さる。
エリスの心情を表していたかのような濁流の音が遠ざかったような感覚。
鬼気迫る視線から凍りつくような冷徹な視線が向けられる
「リュウ……、 これは貴様か?」
白い手に羽交い締めにされるように拘束されているエリス。
ボクはなにもしてない! 思わず首をプルプルと振って否定。
でも一度目。
それが自分に振り掛かったことならただの気のせいや幻覚だったならわかる。
だけど二度目……。
エリスを引き止めて拘束したとなると状況が変わってくる。
しかも、ハッキリと見えたその手は細く、指の長い白磁の白い手だった。
もしかしたらこれがボクに与えられた魔法の片鱗?
“癒しの手” とか、“コマンダーハンド” とか?
そんなボクに与えられた魔法についてあれこれ考えている
一方で状況は進展する。
感情を露にしていたエリスの腕がダラリと落ちると再び出現した謎の手はサラサラと崩れるように消滅。
エリスが跨いでいたベルチェから一歩下がる。
「ふふふふふふ!」
と、何がおかしいのか鼻で笑い、身を屈め殺そうとしたベルチェに手をさしのべる。
エリスの威圧的な剣幕に差し伸べられた手を緊張しながら握り立ち上がる。
急場が凌げたことでボクは一呼吸、「ふ~……」 と、ため息。
「お兄ちゃんありがとう!」
カミラに感謝され、そのまま袖を摘ままれ着座。
エリスもベルチェも椅子に戻る。
「リュウ!」
エリスは座ろうとしながら髪を揺らし前屈みで襟首から手を入れて、取り出した皮袋を投げてよこす。
ピチャンと中身が揺れ、その重さと感触でそれが水袋だと判断。
「喉が乾いただろう?」
エリスの言う通り、ボクは喉がカラカラだ。
エリスの気遣いに甘えてごくりと喉を鳴らす。
ベルチェからの視線に気付いて、???! となりながらも飲んだ水袋をそのままエリスに投げて返す。
今度は、カミラがそれをキャッチしたエリスを見つめる。
エリスは気にした素振りを見せず、返された水袋のそのまま口を着けて喉を鳴らす。
「どうした、リュウ?」
ボクの視線に気付いたエリス
「ふふふ……」
エリスは全てを悟ったように楽しそうに鼻で笑う。
ーーパサリーー
譜面台に立て掛けてあったノートが落下。




