第三十七話☆ 二日目/持ち上げられたぼくの両腕。輝跡が与えた奇跡
両腕に感じた確かな感触に視線を戻すと、それを形作っていたものがサラサラと崩れて消滅。
目の錯覚?
だけど、そんな幻影も錯覚も吹き飛ばすような心の中で響く声!
(弾いて!) と…………!
響く一言。
ボクの両腕は鍵盤の中央、 目の前のノートも第二楽章の譜面。
そして、指先が無意識的に鍵盤の上で演奏を始める。
ゆっくりとしたテンポ、まるでワルツでも踊るかのように右手と左手が音を奏でる。
無意識的に動き出した指先に意識を向ける。
ゆっくりとしたワルツのように聴こえるかも知れないけど、ゆっくりと演奏しているワケではない。
この第二楽章はゆっくりと聴こえるかもしれないけど鍵盤の上は大忙しだ。
演奏が始まり、天板の裏側から見詰められているのがわかる。
涙を袖で拭いて抱き合うベルチェとカミラ。
月光第二楽章は第一楽章があんなに切なく悲しい、やや暗い雰囲気だったからこそ映えるメロディー!
何度も聴いて見えるのは二人の男女が手を繋いでワルツを踊っているかのような情景。
そして天上にら大きな月が昇り二人に陰を落とすように幻想的な光り。
「母さん……。」
カミラがボクを見詰めたま目をしばたたかせながら呟く。
右手と左手が鍵盤の上を右へ左へ、指輪の青い光りが幾筋もの奇跡を作る。
「なんだいカミラ?」
カミラが、見詰める視線の先にあるボクを見詰めるベルチェが、こたえる。
月明かりの照らされた幻想的な湖面の上、若い男女が踊るかのような光景が脳裏に浮かぶ。
鍵盤を叩き、耳障りのいいリズミカルに奏でられる音色に重なるように、自分の母親によびかける娘……。
「見えるの……」
と、カミラが呟くようにポカンと口にすると、「母さんにも若い男女が二人、踊っているのが見えるよ」 と、……。
ベルチェがこたえる。
第二楽章は極僅かな演奏時間。
すぐに演奏が終わってしまう。
「違うの……」
第二楽章が終わってすぐ、ゴーゴーと激しい濁流の音を背景にカミラが再びポカンと返す。
第二楽章が終わり、終止符を打った直後だ。
間をおいて作法にのっとり礼。
母と、娘のやりとりは続く。
ベルチェが返す。 「違うって何が違うのさ?」
真っ直ぐに顔を向けられていたカミラの視線が、ベルチェに向けられる。




