第三十四話☆ 二日目/拉致されました! ベルチェと盲目のカミラ。カミラの親心
ギッシギッシと何かが軋む音と、身体が揺すられるような感触で目覚める。
「ふふふ。気付いたかい? 異世界からの転移者君……」
ついさっき聞いたばかりの甘く妖艶な声。
目隠しをされて後ろ手に縛られて拘束。
壁際の隅に雑に座らされてるようだ。
「ピアノが得意な転移者君はぁ、愛を誓いあってぇ、初めての彼女にぃ……」
直前のボクは調子に乗って一体何をしゃべったんだ~!
そう、白煙が立ち込める人力車ギルドの食堂内。
ボクの目の前に現れたのは、旅商を名乗る胸が大きく露出の多い扇情的な衣装の美人。
銀色の整った長い髪の商人とその連れ子だろうか?
目隠しをしたままの赤いワンピースに手入れの行き届いた長い金髪の小さな女の子。
だった……。
ボクは異世界から転移してきたばかり。
出会って数日のエリス様と親密な関係に……。
「はじまりの街で異世界から召喚された噂の転移者だろ?」
ボクの正体を知っているかのような口ぶりに
「初めての彼女になにか贈りたいんだろ?」
まるでボクの心情を代弁するかのような銀髪の女。
初めて『愛してる』 と言われた言葉だけの関係。
だけどその関係を証明するためにもなにか形のあるものをと思っていた。
「言葉だけの関係じゃなくて形あるものを贈りたくてプレゼントを選ぼうと思ったのよねぇ~?」
目隠しをしていた女の子が引きずっていた入れ物には、女の子が喜びそうな光り物が沢山入っていた。
金色や銀色はもちろん、赤く輝くアクセサリーや、おしゃれなアクセサリーの数々に目を奪われ、気が付けば今の状況。
そう言ってなにがあったのかわからないけど、いつの間にか眠らされたか気絶させられて運ばれたのは確かだ。
「目がさめたかい?」
聞き覚えのある妖艶な声、目隠しされているけど身体つきのいい銀髪の女だった気がする。
「私は奴隷商人のベルチェ。 こっちは娘のカミラ」
「転移者が現れたって聞いてね、この世界じゃ転移者は高く取り引きされるのは知らないかい?」
確か、ルフィが転移者が必ず行方不明になるとか言ってたのを思いだす。
まさか自分がこうして拐われるなんて思ってなかった。
「おっと……、目隠しを外すのを忘れてたね、カミラ……」
体中のあちこちをペタペタと触られながら、おぼつかない手つきで目隠しを外されると……。
透き通るようは白い肌に美少女を思わせる顔立ち……。
だけど、それをうちけすような焦点のあってない青い瞳。
「カミラ……。 彼女は?」
「カミラは獣人とのハーフ。 生まれつき目が見えなくてね」
「暴れないって約束するなら自由にしてやるよ」
暴れる暴れないはおいといて、非力なボクじゃ脱出は無理だしベルチェに抗うことなんて出来ない。
否定も肯定もせずにいると、
「無言は肯定ととらえるからね!」
と、カミラに指図するベルチェ。
後ろ手に拘束されていたものがほどかれて自由になった手。
「ピアニスト?」
エッジの効いた幼いアルトボイス。
カミラは一言呟き、ボクの手、特に指先を確めるように触っていたのだ。
そして……。
「母さん! この人! ピアニストの手!」
と…………。
自由になった手はカミラの小さな指先がボクの手を掴んだまま離さなかった。
「ほほう! あんたピアニストかい? なら、いい話をしようじゃないかい?」
と、一度背中を向けて、何かを探す。
「この世界じゃねぇ、ピアノを使える人間は高く売れるのさ!」
そう良いながら取り出したなにかを足下にパサリと投げる。
見覚えのある古ぼけた赤い表紙の大学ノート。
思わず拾いあげると、文字が掠れて正確に読み取れなかったけど誰かの名前。
パラパラと中身を捲るとボクは息を飲む。
色褪せて茶色くなった紙質。
文字も掠れ判読できないけど、五線譜に手書きのおたまじゃくし……。
楽譜だ!
譜面を見て思わず脳内演奏。
ボクが知らない曲目でオリジナリティーのある曲調。
ページを捲るとこっちも手書き!
だけど、こっちは有名な作曲家ベートーベンの月光の模写!
「もちろん金になるならアンタを高値で売ってやりたい……」
奴隷商人である彼女が何故こんなものを?
楽譜を持っている経緯を聞きたかったけどベルチェは続ける。
「だけどね、こう見えても人の親なんだよ!」
何かに縋るような声色と哀愁を感じさせる瞳。
「母さん……」
カミラは自分の親がなにをしやべり、なにをしようとしてるか理解してない様子。
ギシギシと揺れていた空間が静かに止まる。
「取り引きだよ! うちのカミラに月を見せてあげて欲しい!」




