第三十二話☆ 二日目/逃避行、この世界での移動手段は人力車。
カラカラカラ! と……。
小気味いい車輪の音を奏でながら「えいほっ! えいほっ! えいほっ!えいほっ!」
と掛け声をあげながら人力車を引くのはマッチョな車夫と犬の獣人。
足元は賢者の石による行灯。
すっかりと日が落ち、夜の帳が落ちた街道。
宵闇を照らす月明かりはなく、幻想的な星空が広がっている。
「ふふふ♪ これが駆け落ちというものか……」
人力車に揺られて間もなく。
座席を照らす行灯の灯りで目深にかぶった帽子の下、顔を赤く染めながらエリス。
「ブッ……!」
エリスの口から放たれた言葉に思わず吹き出してしまう。
冷静に考えてて見ればそうだ。
エリスとの関係のついては周囲からの反対は今のところない。
だけど、こうしてお互いに愛し合う中にまでになったということも、公言してはいない。
もちろん、周囲からの反対やそれに伴うなんらかの被害は今のところはない。
ただ、今回はボクが元で騒動になっているのは確かなのかもしれない。
「えいほっ! えいほっ! えいほっ! えいほっ!」
人力車を引く車夫の掛け声が宵闇に響く。
そう、ギルド長の提案でエリスと三日、四日ウェーンを離れ、逃避行という名の温泉旅行。
「昔、この世界に駆け落ちしてきた若い二人組がいてな、凄く幸せそうにしてたのだが、まさかこの私が駆け落ちとはなぁ……」
まぁ、駆け落ちになるかどうかわからないけど、騒動から逃れるための逃避行であるのは間違いない。
「えいほっ! えいほっ! えいほっ! えいほっ!」
この逃避行のための着替えや路銀、全てこうなるとしっていたかのような準備の良さは、アンおばあちゃんが画策したかのような展開。
まるで、ボクとエリスの行動を大物フィクサーのような手引き。
そう感じるのはボクだけだろうか?
出発する直前に、行き先は徒歩でまる四日以上かかる商人の街であると同時に温泉街であるバーダックという名の町。
始まりの町ウェーンを一歩外にでるとそこは盗賊や野犬が出没する危険地帯なのだそうだ。
いくら魔王が存在しない世界でもその手の危険な物はわんさと出没するらしい。
「えいほっ! えいほっ! えいほっ!えいほっ!」
人力車の車夫が人間と獣人の二人なのも盗賊や野犬からの襲撃の対策なのだそうだ。
、リズミカルな音で回っていた車輪がゆっくりとなり、車夫の掛け声が止まる。
「お客様~本日は人力車ギルドの利用ありがとうございます」
と、獣人ではないマッチョがなにもない街道に建てられたログハウスの前で車体を傾かせる。
獣人が鼻をヒクヒクさせながら険しい目付きで周囲を警戒。
確か温泉街には徒歩で3日以上かかるとかどうとか?
「リュウ、獣人がフォローしてくれる人力車でも、一組で長距離はさすがに無理がある」
と、傾けられた客席からぴょん! と跳び跳ねて降車。
「それに腹も減っただろ?」
そういいながら、人力車から降りるように手を差し出す。
確かに朝からいろいろあり過ぎて領主館を飛び出してからポーション以外何も口にしていない。
ーーグルグルグルーー
空腹を意識させられと、何故か腹の虫が咆哮をあげる。
アレ? 車両から降りるこの場合、エリスがボクに手を差し出すのは間違いじゃないか?
本来はこの役目はボクの役目……。
「車夫が交代してる間、ここで腹ごしらえだ!」
と、なんだか焼肉の香ばしい匂い。




