第二十九話 二日目/全回復のポーションは馬のオシッコ
「これは、死んでなければどんな怪我でも即座に回復するポーションです」
ミチルは笑顔を崩さず、まったく動けない寝たきりのボクに無色透明なガラス瓶入っていた黄色い液体を飲ませてくる。
ドロッとした触感と酸味に顔を歪めながらゴクリと飲み込む……。
ツツーと冷たい感触が食道をを抜けるころには全身の痛みがウソのように消えていた。
元の世界ではエナジードリンクか薬に頼らなければならないし、効果についても即効性はない。
薬に関しては時間が経たなければ効果はないしエナジードリンクもほとんどが眠気覚まし。
飲んだ後の空き瓶を受け取り、珍しそうにながめていた時だ。
確か、ミチルはポーションとかいっていたよね?
一度は飲んでみたいとおもっていたあのポーション! ポーションといえば、ファンタジー世界の最たるもの!
「どうだ? この世界のポーションは最高だろう?」
と、兎の獣人が親指を立てて話してかけてくる。
「俺達にとっては当たり前のポーションだけどな、クエスト受けるならダースで持ち歩いた方がいいぜ」
と、爬虫類の獣人が親切に教えてくれる。
そして……! 「知ってるか? このポーションは馬のションベンなんだゼ!」
夢の国の獣人が爆弾を落とし、その場の空気が凍りつくと同じく、ボクの時間も止まった。
……。
『馬のションベン!』
頭の中でネズミの獣人の言葉がループ。
確かに、おしっこみたいな黄色で苦味もあって酸味もある独特な味。
おしっこなんて舐めたことも無いし飲んだ事もない!
臭いはまぁ在るかもしれないけど……。
凍りついていた空気、止まっていた時間、ループする思考……。
夢の国の獣人の一言!
…………。
「グェェェェ!」
それらの全てを破りぼくは喉に指を入れて吐き出そうとした。
「ケホッケホッケホッケホッケホッ!」
飲み干して身体に染み渡ってしまったのだろうか? 吐き出そうともがいてた時だ。
「このドブネズミはいっぺん締めるかぁ!?」
床を蹴るように足音と共にドスの効いた嗄れた声。
ルフィだ。
「ヒィィィィィ~! ウソですウソです冗談デスゥゥゥ!」
夢の国の獣人は声を震わせて縮こまる。
「リュウ、安心してください。」
安心させるようなミチルのゆっくりな声。
「昔は特別な馬のおしっこを原料としてましたが、今は馬のおしっこではないから安心してください」
と、安心させるように背中を擦ってくれるミチル。
「後であのドブネズミはしっかり駆除してよるやから、これを飲んで落ち着け!」
と、ルフィがわざわざボクと視線を合わせるようにしゃがみ、水袋を渡してくる。
「エリス様から預かった水袋だ!」
水袋を受け取りながら何度もまばたきしながらルフィの目を見つめる。
ルフィのおちくぼんだつぶらな瞳はウソをついてない。
「アヒィィィィィ~」
どこかで、なにかが悲鳴をあげながらフェードアウトしていく。
蓋をあけてゴクゴクと喉を鳴らすとエリス様の味。
違う! あの時飲んだ水の味。
もしかしたらポーションよりも効果があるんじゃないかと思うほどの冷たさとスッキリしたクリアな味。
「エリス様に頼まれてるからな!」 と……。
スッと立ち上がり、踵を返し、「ケッ、軟弱ものめ!」、と吐き捨てた。
だけどここでミチル。
「エリス様のヘルプにいち早く気がついたのはルフィなんですよ!」
と教えてくれた……。
広い部屋を見回し、沢山の人と獣人がいてもなお広い部屋。
窓辺から差し込む夕日が赤く染める。
元の世界と同じ赤く染まった世界にどこか侘しさを覚えた時だ……。




