第二十七話 二日目/天国から地獄……、バーチカルチャレンジ
「ほんとなら私もリュウについていきたいけど……」
と、髪飾りの一つを外しながら僕の左手をチャプンと水中から引き揚げる。
「少しでもリュウの力になりたい!」
そういいながらぼくの薬指に嵌められたリングに髪飾りを近付ける。
「ブルードロップ?」
聞くまでもなかったかもしれないけど、それはブルードロップと呼ばれる珍しい鉱石。
「……」
自分の胸に引き付け、大きいとは言えないふっくらとした柔らかい乳房に押し付けるように抱きしめる。
モゴモゴモゴと賢者の石の力でこの世界の言葉が理解できるはずが、聞き取れないような謎の言語。
必死に聞き取ろうとするけどふっくらとした胸の感触がやばすぎ!
水中で密着してたけどそれ以上の衝撃!
次の瞬間、僕の薬指に嵌めていた指輪と混ざるようにひとつとなる。
「この世界のごく一部の人間と獣人のほとんどが魔法を使える」
「魔法……?」
「そうだ、魔法だ。 全く……。 鉱山に続き魔法に関する事に興味を抱くのも全く同じだな」
と、エリスはふふふと笑う。
魔法が使える? ってことはあのゲームや漫画みたいに?
それって凄くテンションあがるよね? 心の中で思わず興奮してしまう。
だけどそれ以上にエリスの胸の感触がやばすぎたなんて言えない!
「だが、使える魔法は一つだけだ!」
ーー!!ーー
エリスの胸の感触を忘却させるような一言。
そしてエリスのいうことには続きがあって、 一つだけしか魔法が使えないらしい。
「本来魔法がつかえない種族に無理矢理魔法を使える力をあたえてるんだ、しかたなかろう?」 と……。
それもそうだ。
特殊な世界や特殊な人種ならともかく普通の人間には魔法なんて本来使えるはずがない。
「だけど私は例外中の例外だからな!」
と、エリスも魔法が使えない人種の類いだと思ったけどどうやらエリス様はいろんな魔法が使えるらしい。
「どれ……」
と、エリスはボクの頭におでこを当てる。
エリスの顔が近いっ!
にんまりとした笑顔でバニラの香りが広がる。
初対面じゃないし、こんなに距離が近くても、もうドキドキなんてしない。
目を合わせると、思わずエリスの唇に軽くキス。
ちょっと待ってね……。
と、心のなかに響く声。
微笑み見詰められ、そっと何かに集中するように瞳を閉じる
そしておでこを離して眉根を寄せると
「既に魔法を取得してるではないかリュウ!」 と……。
ーー!?っ!?ーー
魔法を取得してる?
びっくりした表情!
「もしかしたら転移魔法でもと思ったが違うみたいだ」
転移魔法と言われ、そんな高度な魔法取得した憶えは全くないし見た憶えもない。
「一度体験した魔法しか身に付かないはずなのになぁ……」
転移と言われて思い出すのが、転移魔法で召還。
なるほど、そういうことか、ボクは納得した。
一体なんの魔法を取得しているのかわからないけど、エリスがいうにはこの魔法がボクの目的である楽譜捜しにあたり大いに役立つらしい。
「そろそろ上の準備も終わっただろう……、戻るか?」
と、川の中から這い上がる。
白髪に絡み付いていた水滴が落ちると、指輪と同じデザインの髪留めが目に止まる。
この空洞の入り口の掘っ建て小屋。
上へ伸びる階段と簡単な椅子とテーブルだけ。
「一応この空洞は坑道からつながってるけどな、上の領主館から直接これるようにしてある」
領主館から直接これるならわざわざわざジェットーコースターみたいなスリル体験しなくてもいいのに?
と思ったけど、
「ここに来る一番の近道は鉱山ギルドからしかない」
と一旦区切る。
脱ぎ捨てた服に着替えると「それ以外はな……」
ギルドで借りた装備を抱えたまま人差し指で天井を指差し見上げる。
「ちとめんどくさいんだ」
と、片目を瞑る。
掘っ建て小屋にある階段をみてなんとなく察したけどやっぱりその通りだったとしか言えない。
ヒョイヒョイと軽い足取り、揺れる髪の間からチラチラとみえる青い髪飾り。
階段をのぼるエリス、「それに鉱山見たかっただろ?」
と、数段下で早速息を切らして脚をガクガクさせながら……。
「ゼェーハァー、ゼェーハァー……」 としか答えられない。
途中に踊り場のスペースがあって、休憩しながらだけどキツイ!
ピアノの演奏しか取り柄のないボクはインドア派! こんな時にこそ、賢者の石じゃないのか? と思わず叫びたくなる。
だけど、(その場合は戦士の指輪だよ!) とエリスの声が心の中に響く。
「リュウの細くて長い指は鍵盤の上では凄いのに脚はダメダメだな!」
三度目の踊り場に備えつけらた椅子に座り、気を利かせたエリス。
どこからともなく水袋をだしながらクスクスと笑う。
冷たい水が心地よく喉を通りすぎて熱くなった身体を冷却。
返した水袋にそのまま口をつける。
キスを済ませた後のせいか、その仕草に目を奪われて思わずドキッと胸が高鳴る。
「どうした?」
首を傾げ目を細めるエリス。
「間接キスとか言ったっけ? 全く、異世界人はおかしなものだ……」
少し前のエリスとの抱擁が懐かしい! あとどれくらいこの苦行がつづくのか?
思わず上を見上げる。
「あともう少しだ」
項垂れるボクに「さぁ、いこうか?」
手を引っ張られるとエリスの胸の感触を思いだす。
…………。
あ……、あともう少しじゃなかったっけ?
別の意味で身体が熱くなった直後に、疲労からくる熱。
ペタん、ペタンと階段を踏む足音とリズミカルにタンタンと響く足音。
さらにふたつ目、計五回目? 六回目? 七回目?
「ほ~ら! あと少し♪ あと少し」
と、発破をかけてくるけど、答える余裕がなくなる。
「地上に戻ったら続きをしようか?」
と、あの時のピアノの続きを求めるニュアンスと違う艶かしいニュアンス。
それはご褒美? と思ったけど、気持ちが追い付かない。
これもこの世界に持ち込まれた文化…、いや入れ知恵か……。
もう考えることができず踊り場に大の字で倒れ込む。
天国と地獄とはこの事か……。
頭の中に流れる天国と地獄のメロディ-。
(今はそんな気分じゃない)
たしかバーチカルマラソンなんてあったっけ?
そんな事を想いながらボクの意識はスゥっと薄れていく…………。
気がつくと見知らぬ天井と壁。
起きあがろうとするけど身体中が痛くて動けない。
目だけで辺りを見回すけど全く知らない広い部屋。
頭上からヌゥっと影が視界を覆う。
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