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第11話 一日目/彼女のリクエストあの幻想即興曲をもう一度


「ホントは【ベルガマスク組曲】 として最初から演奏したかったんだけどゴメン」 


 月の光り】は プレリュード、メヌエット、セレナーデ、月の光り、パスピエ。 


 本来は、この五つの楽章が揃ってこそ、ベルガマスク組曲は完成する。


「ベルガマスク組曲?」 


 椅子に座ったままのボクの直ぐ横で、エリス様はベルガマスク組曲という単語にキョトンと僅かに首を倒す。


「いいの……。 この曲目だけでも凄くよかった」


 と、首を戻して満足げな表情を浮。


「本来はいくつかの曲目と合わせて成り立つんだけど、曖昧な記憶で変な演奏にしたくなかったんだ、ゴメン」


 月の光りはこの楽章だけでも完成された一曲だけど、それ以外は記憶が曖昧だから仕方がない。


「でもこんなに胸が熱くなる曲が別の世界にあると思うと、リュウの世界が凄く羨ましい」



 エリス様が羨望の眼差しを向ける。


「今演奏したのは月の光りという曲目なんだけど少しでも月の光りを感じてもらえたら嬉しいな……。」


 窓辺から差し込む月明かりに照らされてなにかを言いたげな表情。


 曲目もキチンと説明したんだけどどうしたんだろう?


 正直にいうけど、ぼくは女の子と話したことなんてあまりない! だからこういうとき、どんな回答が正確なのかわからない!


 誰か助けて~!


 「ねぇ、あの時……。 あの時リュウが弾いた曲!」


 エリス様は幻想即興曲の事を口にした。


 「幻想即興曲?」

 

 ボクは彼女がいいたい事を理解すると力強く、身体の芯に響く一音を響かせる。


  幻想即興曲の最初の一音は重要だ!

 力強く弾かれた重低音をさらにフットペダルで響かせると、そこに音を重ねるように耳に響く音色を奏でる。


 ボクにとってもっとも練習し、骨の髄まで染み込ませた一曲。


 そして、それと同時にこの曲にあわせて踊る彼女の姿は忘れられない!


 彼女のしなやかな躍り、ピアノの周りを華麗なステップで舞う彼女。

 

 何度と何度も目が合いボクは虜にされた。


  その時のことを思いだすようにボクの指先は鍵盤の上で指先を踊らせる。


 そう、彼女はこの曲を聞きたかったのだとボクは気付く。

 

 あの時と変わらない演奏。

 

 今回は焦る必要はない。


  周囲を見渡す余裕がうまれ、鍵盤の上ではいく筋もの光りの尾。

それは流星群のように明るく眩しく幻想的だった。



 彼女がすでにピアノの周りでステップを踏み華麗に舞う。

 

 ボクも彼女と同じ。


 エリス様の踊りをもう一度見たかった。


 甘いバニラの香りを振り撒く彼女の魅力が月明かりに照らさされて何倍も魅力的に見える。


 あの時、彼女の瞳と目を合わせるしかできなかったけど今は違う。


 


 彼女の踊る姿に加え、イキイキとした表情。


そして彼女の瞳が何度もボクを見つめてボクの心を鷲掴みにしている。


 まるで月夜に踊る妖精のように美しい!

 彼女の手を取って一緒に踊りたいと思うのは願いすぎかもしれない。


 だけどその分、僕の指先はエリス様と踊るように鍵盤の上で流星群の軌跡と激しい旋律を奏でる。 




 それだけでもボクは彼女と一つになったような不思議な感覚。


 こんな時間がずっと続けられたらいいのに……。



 



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