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第七十五話 「ヤマモトヒュウガ②」

荒野を進むこと1時間。どうやらこの場で軽い争いがあったのか、まだ使えそうな剣や防具を身に纏った死体がいくつか転がっており、異世界生活開始直後に基本装備は拾うことが出来た。


(この調子じゃ正義のヒーローとは決して言えないな)


「構わん。どのみち俺は主人公なんて目指してないからな」


そんなこんなであてのない旅を続けていると、こじんまりとした農村にたどり着いた。食料調達も兼ねて少し立ち寄るとするか。


「や~い。白髪の悪魔の子~。目の色も俺たちと違うし気持ち悪いんだ~」


街の中心部に向かうために路地裏を進んでいた俺たちだったが、道中どこか聞き覚えのある抑揚の言葉が聞こえてきた。……俺も浴びせられたことのあるこの雰囲気はおそらくいじめの類だろう。


「…………」


「黙ってないで言い返してみろよ! もっとも、こっちは五人でお前は一人だけどな」


……嫌になるな。だが俺は正義のヒーローでも何でもない。助けてやる義理はないぞ。


「……! 誰か来た。お前ら逃げるぞ!」


ただ、そんな俺の思惑も杞憂に終わり、いじめっ子たちは離散したようだ。そして、そんな彼らに続くようにいじめられっ子━━白髪と華奢な体が特徴的な少年も涙を拭い立ち去っていった。


「どの世界でも、弱者は蹂躙される定めというわけか。だが、この世界において俺は圧倒的強者の立場にある。……自分の思うがままに振る舞える強者の立場にな」


……年齢は俺よりほんの少し下といったところか。そんな、かつての自分を想起させるようないじめられっ子の少年に、思うことが無かったわけではないが、今の俺はかつての俺とは違う。力を持たない者が悪で、力を持つ者が正義なのだ。十数年の短い命だが、これまでの人生で体感してきたこの現実はどの世界にいようとも変わらない事実だろう。


(へっ、そうだぜ。今のお前はこの世界で最強の戦闘力を持つ男だ。逆らうものはすべて薙ぎ倒してしまえばいい)


そうして俺たちは路地裏を抜け、街の中心部に向かうのであった。


***


荒野で無念の最期を遂げた者たちから、装備品だけでなく金銭を頂戴していたこともあり、欲しかった生活必需品は一通り買い揃えることが出来た。目的を終えた俺たちが街を後にしようとしたところ、通り道にあった年季の入った家屋からヒステリックな怒号が聞こえてきた。


「なんで帰ってきたのよ! そんなボロボロになるならそのまま死んでしまえばよかったのに! その白髪、あんたなんて産むんじゃなかった!」


甲高い怒号に続いて、物を壊したのか、けたたましい破砕音も聞こえ始める。このままいけば人死にが出てもおかしくないような勢いだ。


「ご、ごめんなさい」


窓からチラリと見えたが、暴力のターゲットとなっているのは先ほどのいじめられっ子のようだ。同年代との関係性だけでなく、家族との関係性まで劣悪という感じか。


「あんたが普通の子供だったら、私も普通の人生を送れたはずなのに……。あんたみたいな悪魔の子、死んじゃえ!」


母親らしき人物がその場にあった食器を手に取り、息子に向けて……投げた。


「……!?」


だが、その食器は息子に命中することは無かった。なぜなら、幹部の加護を使い、正確無比な精度で俺が投げた石ころが、窓を突き破った後、食器の軌道を変えたからだ。


(助けないんじゃなかったのか。……ヘヘッ、面白い奴だ)


俺以外の全員が謎の現象に戸惑っている間に、俺は家の扉を蹴破り中に入る。


「これ以上やったら息子が死ぬぜ。あんたも殺人犯にはなりたくないだろう」


「あんた何者!? でも、そんな態度を取るなら私にだって……」


母親の毒牙から息子を守るように、俺は二人の間に体を入れた。だが、そんな俺に対して、母親は別の食器を手に取り投擲フォームに入る。


「別に攻撃しても構わないぜ。もっとも、俺の投げナイフとあんたの食器。どっちが先に喉元に届くかな?」


「…………」


俺の啖呵に対して戦意を喪失した母親は食器をその場に投げ捨てる。その姿を確認した俺は、咄嗟に構えた投げナイフを懐にしまう。


「分かったわよ! 私が出ていけばいいんでしょ、私が!」


ヒステリーのように怒号を撒き散らした母親は、感情に身を任せる形で家を後にする。……となると、その場に残されたのは俺と少年の二人となる。


「なあお前、名前は何と言う?」


少年の見せる、この世に絶望したような目や自身の出生を恨むような顔つき。どこか見覚えのある様子を目の当たりにし、俺は少年自身に興味を持ってしまったのだろうか。


「……ネルソンです」


「ネルソン。この世界において弱者とは悪だ。おそらく今のお前は弱者と称される存在だろう。……だが、俺の仲間になると誓うのであれば、一瞬にしてお前を強者にしてやることが出来る。俺と共に来ないか?」


「……仲間……。ずっと孤独に生きてきた自分にとっては未知の感覚ですが、命の恩人である貴方の元で働けるのであればどのようなことでもしてみせます」


「……決まりだな」


そうして俺は、自身の体内から幹部の精神核を取り出し、ネルソンに授ける。


「これでお前は【幹部】の精神核保持者となり、【武芸全能】の加護を使えるようになったはずだ。存分に俺の元で働いてくれ」


一連の儀式を終え、正式に幹部の精神核は俺からネルソンの元に引き継がれる。


(あれほど異世界での無双を夢見ていたお前なら、幹部の精神核は何があっても手放したくないものだと思ったが)


指揮官の精神核の言う通り、俺だってその考えのはずだった。だが、ネルソンの置かれた立場を直に目の当たりにして、彼を救いたいと思ったのか、はたまた俺と似た境遇の人間と()になりたいと思ったのか。真相は俺自身にもよく分からない。


「……武芸全能の加護についてハッキリと理解しました。この力、貴方様のためだけに使う所存でございます」


恭しく膝をつくネルソンに顔を上げるように促し、俺は新しい仲間と共に旅を再開する。……それにしても仲間か。俺自身、人生で初めて構築した関係性に戸惑いながらも、次の目的に向けて決意を新たにした。

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