第七十四話 「ヤマモトヒュウガ①」
俺の人生はずっと孤独だった。母親は水商売に勤しむ女で、父親は誰かも分からない。そんな環境に生を受けた俺の幼少期は随分と凄惨なものだった。小学校から帰っても、家に残されているのは腹を満たすための菓子パンが置かれているのみ。仕事か男漁りか分からないが母親は常に家にはおらず、家族の愛情を受けるなんてもってのほかだった。
「……ごちそうさま」
服もランドセルもボロボロで、風呂に入れるのは数日に一回。そのような生活を送る俺に友人などできるはずもなく、学校終わりは家で一人で過ごすことが多かった。
「……さて、今日は5話からかな」
そんな俺にとって、唯一の楽しみは自宅でアニメを見ること。それも、こんなくだらない世界を忘れられる異世界転移作品が好きだった。……人生のどん底にいる主人公が異世界転移で新しい人生を送れる、……そんな作品が。
「……俺にもこんな奇跡起こらないかな」
***
2年3年とそのような絶望の日々を送っていた俺も、気付けば中学生となる。もちろん進学を機に環境が変わることなんてなく、家族関係も友人関係も今までと全く同じ。……あの声が聞こえてくるまでは。
(山本日向、俺の声が聞こえるか?)
布団に入り、眠りに就こうとしたある日。聞き覚えのない声が脳内に響いてきた。
「……!?」
不審者が入ってきたのか、俺の頭が狂ったのか。摩訶不思議な現象に困惑するも、俺の脳内からあるひとつの可能性を捨て去ることはできなかった。……アニメでさんざん見てきた異世界召喚の儀式である可能性を。
(フフフ。俺は、お前が期待しているその可能性を叶えに来たんだぜ。俺と共に異世界で大暴れしないか?)
「お、大暴れ?」
(俺はお前に特別なチカラを授けてやることが出来る。大多数の人間は持つことの出来ないトクベツなチカラをな。それがあれば世界は俺たちのものだぜ)
この男の発言が真意であれば、俺は特別なチカラを持った状態で異世界転移ができる。正直怪しさ満点だが、俺にはこの世界にとどまり続ける理由は微塵もない。1%でも可能性があるのならその誘いに乗ってもいい。
「……わ、分かった。その誘いに乗ろう。俺にチカラをくれるんだよな?」
(ヘッヘッヘ。その言葉が聞きたかった! 俺は指揮官の精神核。これからよろしくな)
男が指揮官の精神核と名乗った瞬間、俺の意識が一瞬奪われる。意識を取り戻すと、人気のない荒野の中に俺はいた。だが、俺にとって一番気になるのはそんなことではない。
「……なるほど、【精神核の譲受】とやらが俺に与えられた加護なわけか。精神核を集めれば集めるほど強くなれるという、分かりやすくていい加護だ」
場所も現在時刻も分からないが、俺に与えられた加護については本能的にハッキリ分かる。【指揮官】の精神核が直々に俺に授けてくれた【精神核の譲受】が俺のチカラのようだ。
(理解が早くて助かる。だが、俺からのプレゼントはそれだけじゃないぜ。懐を見てみろ)
指揮官の精神核に言われるがまま懐に手を伸ばすと、手のひらサイズの何かが紛れていることに気が付く。取り出してみると、それは蒼く輝く結晶だった。
(それは幹部の精神核。その結晶を宿した人間は、人知を超えた戦闘力を手にすることが出来る。さあ、それを使って俺と世界征服をしようではないか)
「ほう、早速最初の精神核発見ということか。……なるほど、幹部の精神核、ずいぶんと便利なものだな」
幹部の精神核を体内に取り入れると、本能的に加護の使い方は理解できた。そのあたりに落ちていた木の棒を拾いブンブンと振り回すと、伝説の剣豪の如き軌道が空に描かれる。
(それでは早速出発するとするか。俺とお前なら何だってできるはずだぜ)
そうして俺たちは、それぞれの思惑を胸に異世界生活に身を投じるのであった。




