第七十三話 「幹部」
「……主人公は来ないか。何を企んでいるか知らんが、私を倒そうなど100年早いな」
「へっ、それはどうかな。サンドクラウド!」
いざ戦闘開始。開戦の火蓋を切ったのはアクイラによるサンドクラウド━━土の聖霊の力を使った土煙による視界妨害だ。
「……その作戦、自分たちの視界も狭める自殺行為だぞ」
「へっ、そう考えるのはバカヤロウなんだぜ。ボクたちにはシャルンがいるっていうのによ!」
確かにネルソンの言う通り、通常であれば、戦場に土煙を巻き起こすという行為は敵味方関係なく視界をジャミングする。……通常であればな。
「皆様の位置はしっかり把握しております! わたしの指示通りに動いていただければ同士討ちはありえません!」
シャルンの感覚共有がある以上、彼女を経由して全員の位置は手に取るように把握できる。彼女の疑似テレパシーを使えば、同士討ちなんてもちろんしないし、なんなら抜群のタイミングでのコンビネーションだって難しいことではない。
「……ほう、初めて見るそこの女子も加護が使えるのか。……ぬっ!」
「よそ見している暇はないよ!」
「これが僕たちの全力です!」
シャルンを一瞥したネルソンに対して、左側からハルナによる刺突が、右側からティルピッツによるハイキックが牙を向ける。流石のネルソンといえど、土煙を前にして反応が遅れたのか、若干体勢を崩しながらの防御になる。
「……やるな。……だが、あと一歩足りん」
初めて見るネルソンののけ反った姿。しかし、そうまでしてもハルナとティルピッツの攻撃はヤツの体に届くことは無く、器用に抱えた大剣により受けられる。……ハルナとティルピッツの攻撃は……な。
「私たちの攻撃は牽制……! ヤマトくん!」
アクイラのサンドクラウドにより視界が制限されている環境にプラスして、ハルナとティルピッツによる上半身への攻撃。下方向は死角だよな。
「任せろ! バニッシュメントジェム!」
敵の間合いに潜り込むように俺は距離を詰め、バニッシュメントジェムを掲げる。掲げた宝石が光を放ち、砕け落ちた瞬間にすぐさま旭光を握り追撃を繰り出す。
「……!? ……力が抜けていく」
「リットリオ、助かったぜ! 行くぞ、十烈紅華!」
眼前のネルソンの雰囲気からも、バニッシュメントジェムの効果がてきめんだったことが伝わってくる。武芸全能の加護が無ければ、決して勝てない相手ではない。渾身の必殺技でトドメを刺してやる。
「……ぬぅ」
俺の繰り出した十烈紅華が次々と鎧に傷跡を付ける。今まで感じたことの無かったダメージを与えているという手ごたえ。確実にこちらが有利な戦局だ。
「これが十撃目だ!」
息の根を止めるつもりで繰り出した十撃目。しかし、そんな最後の一撃は、すんでのところで反応できたネルソンの大剣により弾き返される。……武芸全能の加護に頼らないネルソン自身の反応速度で。
「……! ……当たりどころが悪かったか。加護があったころには考えられなかった事象だな」
だが、その防御は完璧ではなかったようで、俺の渾身の一撃を受けた大剣は真っ二つに割れる。こうなってしまったら、この大剣による攻撃は不可能だろう。あと一押し!
「こっちには時間制限があるんでね。次で決めさせてもらう!」
旭光を握り直し、俺は、十……いや百にも千にも見える速度での連続攻撃で攻め立てる。そんな俺の攻撃に対して、折れた大剣で防御を試みるネルソンだったが、壊れた武器で完璧に受けることなどできず、半分以上の攻撃が敵の体にモロに直撃する。だが、そんな光景を目にして黙っていられるヤマモトヒュウガでは無かったようだ。
「ネルソン! 俺と代われ! 場所交換の加護で、……なにっ!」
数十メートル先にいるヤマモトヒュウガが、威勢のいい声と共に腰に携えた片手剣を抜く姿がチラリと見えた。しかし、
「……ヒュウガ様、交換の許可は出せません。幹部の精神核保持者は私である必要はないのですから。私の死後、精神核さえ確保して逃げればいくらでもやり直せます。貴方は貴方自身を第一に考えてください!」
何か不都合があったのか、ヤマモトヒュウガの顔には焦りの表情が見られる。おそらく、
今まで聞いたことの無い声量で叫んだネルソンが何かしたのだろうが、言葉の内容から察するに、自分を犠牲にしてまでヤマモトヒュウガを守ろうとしたのだろう。
「……その心意気。敵である俺も忘れないぜ」
そんなネルソンに対して、俺は正真正銘最後の一撃を繰り出す。もう、ネルソンの纏った鎧も抱えた大剣もボロボロで彼に抵抗のしようはない。俺の放った渾身の垂直斬りがネルソンの胴体を切り裂くと、その体は見慣れた蒼い結晶をひとつ残し消え去った。
「……! ネルソン……!!」
だが、その光景を目にしたヤマモトヒュウガは、ネルソンの想いと裏腹にこちらに駆け寄ってくる。剣先をこちらに向けつつ発した、怒気のこもった口調からは、俺たちに対する全力の敵意が感じられる。そのような調子のまま距離を詰めてくるヤマモトヒュウガだが、風によって被っていたフードが翻され、その正体があらわになった。
「……イソロク!?」
「……もう容赦はしない。俺の手でお前たちを倒す」




