第六十七話 「加護の使い方」
「ハルナ様! アクイラ様! 助けが遅くなって申し訳ございません。ですが、これからはわたしがお二人の感覚を繋ぎます! これで、お互いの行動が手に取るように分かるはずです!」
そんな時、100メートルほど向こう━━バレンタイン村がある方向から聞き覚えのある声が聞こえてきた。全身を使って、慣れない声量で発破をかけてくれたのは他でもないシャルンちゃんだった。
「三人目ェ? 二人と聞いていたが何者ダァ? ……まあいいや、君たち二人を倒してからのデザートとしようカァ」
「それはシャルンちゃんを甘く見すぎだよ! やあっ!」
二人の感覚を繋ぐ。その言葉を聞いた瞬間に、私の足は相手に向かって走り出していた。
「おおっ! ハルナの考えていることがハッキリ分かるんだぜ! その量の精霊なら、詠唱が無くても呼べるんだぜ!」
シャルンちゃんを媒介にして、私の作戦━━レイピアの剣先にのみ炎を纏わせるという内容をアクイラちゃんに伝える。感覚を繋いでいる以上、アクイラちゃんは寸分の狂いなく私のレイピアに精霊を集めてくれた。私のスピードに炎を乗せれば、相手に避けようはないはず!
「速ィ! それに炎ォ!? 守らないトォ!」
そんな連携攻撃に、相手はすぐさま防衛行動に移る。しかし、炎を纏った剣先が触手に触れると、それらはまるでプラスチックのように簡単に崩れ落ちていく。
「熱ィ! 血液が形を保てナイ!」
「形勢逆転だね。血液もタンパク質である以上、変性は免れないはずだよ!」
シャルンちゃんの参戦によって、今までの不利が嘘のように距離を詰めていける。見える触手を半数ほど壊し、本体まであと十数メートルとなった時、この戦闘で初めて相手が一歩引いて体勢を立て直すような動作を取った。
「これほどまで血液を失ったのは初めてダァ。だけどオイラは念には念を重ねるタイプ、万が一のことを予測してエサを用意してるんだナァ」
そのまま、残された触手を華麗に使ったバックステップで戦略的後退━━彼の後方にあるバレンタイン村への後退を開始する。しかし、
「あなたの作戦は看破していますよ! バレンタイン村で拘束されていた女性たちは既に開放してあります!」
シャルンちゃんの機転により、相手の作戦は崩れ落ちたみたいだ。村の方から姿を見せたのにはそのような理由があったのね。
「何だとォ! ……だったら仕方がない、キミがオイラのゴハンになってもらおうかナァ。一番弱そうだしネェ!」
だけど、相手は後退を止めることなく村の方へ━━つまりシャルンちゃんの方へ全速力で向かっていく。
「させないよ! 今のあなたの速度なら私の敵じゃない!」
「ハルナ! いっけぇ!」
ただ、全速力というのは、血液を大量に失った現在での全速力だ。運動家の加護を持つ私の前では敵じゃない!
「速ィ! いや、オイラが遅くなったのカァ!? でも、このままじゃア!」
「はああぁ! 蜻蛉一閃!」
弱った相手に旋回による攪乱は必要ない。ただ、隙だらけの体に渾身の一突きを繰り出すだけ! アクイラちゃんの炎を纏った私の必殺技だよ!
「オイラの体が崩れていクゥ! まだ、人間を喰べ足りないのニィ!!」
私の必殺技が相手の体に触れると、ただ己の欲望に従うだけの断末魔を残しながら選民ノ箱庭の一員、サラトガは精神核ひとつを残しその場から消え去った。……これで私たちの勝利だね。
「ハルナ、シャルン! よくやってくれたんだぜ!」
「わたしも今そちらに向かいますね」
その姿を確認した私たちは、特別言葉を交わすわけでもなくサラトガの残した精神核の近くに集合する。
「お疲れ様、みんな。でも、今回のMVPはシャルンちゃんだね」
「……いえ、わたしは自分にできることをしただけです。お二人の感覚を少し拝借していたので、そこから聞こえてくる情報で相手の作戦を予測しただけですから……」
少し顔を赤らめながら謙遜の言葉を口にするシャルンちゃん。でも、今回のMVPは誰が見ても彼女だと思うだろう。
「……ですが、お二人をお助け出来て本当によかったです。こうして誰かを守るために加護を使ったのは初めてだったので」
「うふふ。ヤマトくんも言ってたけど、シャルンちゃんの加護は人助けのために使うための力だよ!」
その言葉を聞いたシャルンちゃんはさらに顔を赤らめる。だけど、その表情の中には、出会った当初は見せることがなかった希望や覚悟の感情が浮かべられていた。
「じゃあ行こうか。シャルンちゃんが助けてくれたとはいえ、バレンタイン村の人々はまだ怖がってるだろうし、元凶がいなくなったことを伝えに行かないとね」
そうして私たちは、討論者の精神核を拾い、当初の目的地であるバレンタイン村への歩みを進める。今度こそ一角獣の角を手に入れに行こうか!




