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第六十六話 「理不尽な暴力」

「そのバレンタイン村とやらまではあとどのくらいなんだぜ?」


レオパルトを出発して2日が経過したころ、アクイラちゃんからポロッと愚痴がこぼれる。荒廃した道のりを進むわけでも、人気のない場所を進むわけでもない、順風満帆な旅路だったけど、地図を見る限りそれもあと少しで終わりそうだ。


「もうあと少しだよ! ここから先は徒歩になるけど、1時間も歩けば到着するはず!」


そんなアクイラちゃんを励ましながら、文字通り最後の一山を越える準備をする。どうやら一角獣は森の中にいるみたいだから、最後は徒歩になるみたいだね。


「体力には自信はないので、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、なんとか頑張りますね……!」


そうして私たちは目的地に向け、各々の歩調で一歩ずつ足を進めるのであった。


***


「ハルナ、シャルン! あれが例の村じゃないのか!」


森というほど鬱蒼とは生い茂っていない林を進んでいると、木々の隙間から、かすかな文明の気配がした。建物のような人工物も見えるし、あれがおそらくバレンタイン村だろう。


「あんまり急ぐと危ないよ~!」


だから、そんな目的地が視界に入れば、アクイラちゃんが我先にと勇み足をするのも仕方がない。歩幅が小さくなってきているシャルンちゃんも心配だけど、それ以上に先行したアクイラちゃんが村の方々に迷惑をかけないかの方が心配だ。木々に足を取られないように注意しながら、私も前方を走るフルスロットルな少女に追いつこうと駆け足をする。しかし、


「やっと来たんだネェ。噂通り美味しそうな女の子たちダァ。アイツらの仲間になってよかったナァ」


私たちの行く手を遮るように、謎の少年が声をかけてきたのだった。

その身長はアクイラちゃんよりも小さく、外見年齢は10代前半といったところだろうか。ただ、その目に浮かべた大きな隈に痩せ細った体、そして身に纏うおよそ洋服とは言えないようなボロ切れからは、子供らしい明朗快活さは微塵も伝わってこない。そのような風貌の少年が、映画に出てくる捕食モンスターのような目でこちらを見てくる姿からは、得体の知れない狂気や恐怖を感じる。


「オマエ一体何者なんだぜ!?」


「オイラの名前はサラトガ。最近センミンノハコニワに加入したMBTIの一人なんだナァ」


単刀直入なアクイラちゃんの質問。答えてもらえるとは思えない内容だったけど、相手は素直に回答してくれたみたいだ。……でも選民ノ箱庭か……、こんな所まで邪魔しに来るなんて……!


「オイラは世界征服とかには興味ないんだナァ。ただ、美味しい食餌が出来ればそれでいいのサァ。だから、アンタたちはここで終わりなんだナァ」


ただ、私たちに戸惑う時間などなかった。相手は戦闘開始の宣言を告げると、すぐさま腰から筋肉のようなしなやかさを持つ無数の触手状の何かを生やし、こちらに牙を向けてきたのだ。


「危ないっ!」


私を叩き潰すように繰り出されたソレらによる攻撃を避けると、爆音と共に私がさっきまでいた場所の地面がえぐれた。見た目に反して、あの触手はかなりの強度を持っているようだ。

……この数にこの強度。近寄って本体に攻撃を加えるのは至難の業ではなさそうだね。


(ハルナ様! そちらからもの凄い音がしましたが、何が起きているんでしょうか!? わたしも休憩を切り上げてすぐに向かいます!)


もちろん、それほどの爆音となれば、体力の関係で遅れていたシャルンちゃんの耳に届いても不思議ではない。何かしらの違和感を感じとったシャルンちゃんは、感覚共有の加護による疑似テレパシーで私にコンタクトを取ったみたいだ。


(シャルンちゃん! こちらに来ちゃダメ! 選民ノ箱庭に攻撃されてるの!)


脳内に直接声が響く感覚には慣れないけれど、とりあえずの現状をシャルンちゃんに共有する。戦闘向きの加護を持たないシャルンちゃんを守りながら戦える相手ではなさそうだし、まだ彼女の存在が相手にバレていない以上、わざわざ出てくる必要もないしね。


(分かりました。疑似テレパシーは解放状態にしておくので、何かあれば連絡ください。わたしはわたしに出来ることを探してみます)


私の真意を察してくれたのか、シャルンちゃんは深く追求することなく会話を切りあげる。何はともあれ、今は目の前の相手をどうするかだけ考えないと。


「避けられたなァ。ならばもう一回ダァ」


思考がまとまらない私に向けて、眼前の相手は先ほどと同じ方法での追撃を繰り出してきた。さっきと同様、加護を使った俊敏な動きで回避したわけだけど、相手の触手が地面を抉った際にひとつ気になる現象が目に入った。


「血痕!? もしかして、その触手血液でできてるの!?」


「ご名答ゥ。オイラは【討論者】の精神核保持者にして、【操血】の加護の持ち主ダァ。こんな風に、体内の血液を武器として使うのがオイラの得意技なんだナァ」


地面に飛び散った血痕。暗赤色の触手といい、私の仮説は間違っていなかったみたいだ。


「だったら、触手を出せる量には限りがあるってことだよね!」


相手の加護の真相を知った私は、ブンブンと振り回されている触手に狙いを定め、レイピアによる剣撃で斬り落とす。武器のリソースが自身の血液である以上、何度も再生できるわけではないだろう。しかし、


「考えが甘いナァ。MBTIと戦いに来たのに、準備してないわけないダロゥ。血液はたんまり補充しているサァ」


相手は何食わぬ顔で、すぐさま触手を再生した。一本斬り落とすのにも、結構な労力が必要だった以上、このペースで戦えば相手の血液より私の体力が先に枯渇しそうだ。そんな時、相手の影に隠れていて姿が見えなかったアクイラちゃんの声が聞こえてきた。


「そこのバカ! さっきからボクを無視するんじゃないんだぜ! 食らえ! ファイアワー……」


威勢のいい声と共に、詠唱を開始したアクイラちゃん。しかし、その詠唱は、驚異的な反応速度で血液製投げナイフを繰り出した相手によって妨害されてしまった。


「ウワッ! 急に何するんだぜ!?」


「イッヒッヒ。あの女からキミの加護については聞いているんだナァ。オイラにとって炎は天敵なんダァ。自由に行動させないように、警戒しているに決まっているんだナァ」


こちらを馬鹿にするような含み笑いのまま、アクイラちゃんが行動できないよう、牽制レベルの遠距離攻撃を繰り出し続ける相手。でも、炎が弱点、……いいことを聞いたよ。


「アクイラちゃん! 協力攻撃を仕掛けるよ! 私が敵の注意を引くからその隙に!」


「分かったぞハルナ! でも、姿が見えないけど今どこにいるんだ!?」


アクイラちゃんが自由に行動できるように思考の余地を持たせない連撃を繰り出そうとする。しかし、


「そんなに大きい声を出したらバレバレなんだナァ。それに、オイラの触手は無作為に出してるわけじゃないゼェ。視界を遮るように繰り出しているのに気付かなかったカァ? 協力なんてさせないんだゼェ」


相手の方が一歩上手だったようで、既に連携は殺されていた。このままでは決め手に欠けるままジリ貧になってバッドエンドだ。……どうすればいいの。

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