第六十五話 「わたくしの意思」
「……今からのわたくしは新聞記者レイテよ。しっかり気持ちを切り替えなくては」
2度目の巨匠勧誘に向けて、わたくしは胸に手を当て深呼吸をする。仮面を切り替える時のルーティンを終え、目的地への道のりを進んで行くと、ぼんやりと人影が見えました。
「レイテさん! お久しぶりです!」
……!? 近づくまで気付きませんでしたが、あの顔は主人公ですね。……まさかこんな所で出会うなんて思っていませんでしたが、平静を装って会話をしなくては。
「こちらこそお久しぶりです。これからどちらに?」
「所用で藤の花と一角獣の角が必要になったので、それらを取りに行こうかと。俺たち二人が藤の花で、残りの女性陣が一角獣の角なんですが。……そうだった! レイテさん、この前頼まれていたローカスト教国の調査の件ですが、無事終わりましたよ!」
ローカスト教国!? それならば既にホーネットと会敵しているということですが……。まさか彼が獲物を逃すとも思えませんし、少し嫌な予感がします。頬を伝う冷や汗の感触を感じながらも会話を紡いでいきます。
「……そうですそうです。そのお話について聞きたいと思っていたのですよ。かの国は一体どのような実情なのでしょうか?」
そこから眼前の主人公は、ローカスト教国の実情について話し始めました。その内容はわたくしの知る内容とまったく同じであり、確実に内部に入って調査したことが伝わるものでした。そして、彼の言葉を締めくくったのは、わたくしの考え得る最悪の単語でした。
「そのように、ローカスト教国国王であるホーネットは国民を家畜の用に扱う狂王でしたので、彼を撃破して国民を救いだしました。これからローカスト教国国民は人間として生きていくことができるはずですよ。それもこれもローカスト教国の存在を教えてくれたレイテさんのおかげです。ありがとうございました!」
ホーネットが敗れた……!? 三銃士として高い能力を持ちながら、ヒュウガ様からも厚い信頼を得ていたホーネットが!?
「どうしました? 予想していた内容と違いましたか?」
衝撃の事実に、数秒間言葉が止まってしまいました。ただ、動揺している場合ではありません。
「……いえ、内容を頭の中で振り返っていたので言葉を失っていましたの。ただ、わたくし用事を思い出しましたのでいったん帰りますわ。続きはまた後日聞かせていただこうかしら。次お会いできる時を楽しみにしていますわね」
「お気をつけて! こちらこそまたお会いできるのを楽しみにしています」
普段通りのパフォーマンスを発揮できない脳をフル活用し、少し強引ながらも会話を切りあげます。そうしてわたくしは、来た道を引き返しヒュウガ様の元へ戻るのでした。
***
馬車を走らせること1日と少し。道中ローカスト教国に立ち寄った後、ヒュウガ様のいるアジトに戻りました。……主人公の発言通り、ホーネットの存在は既に無く、彼の会話がすべて真実であるという現実が突きつけられました。
「ヒュウガ様、ひとつご報告があります。お時間大丈夫でしょうか?」
「構わない。だが、その表情から察するに、覚悟が必要な報告なのだろうな」
「……お察しの通りでございます。主人公の手によってホーネットが打ち倒されました。この目で確認したので間違いはありません」
一目散に謁見の間に向かい、玉座に座るヒュウガ様に話しかける。そして、我々が直面している現実について報告を行いました。
「…………分かった。わざわざ報告ご苦労だった。……だが少し一人にしてくれないか」
ヒュウガ様の見せる暗い表情。昨今、劣勢が続く中でそのような顔を見せることが増えましたが、本日のそれは今までで一番悲しそうなものでした。……ヒュウガ様はわたくしにとって神の如き存在。あのような表情をさせる元凶を放っておくわけにはいきませんわ。
「……藤の花と一角獣の角。つまり、センチュリオン修道院とバレンタイン村ですね。……バレンタイン村にはサラトガを差し向けるとして、わたくし自身は……。主人公、覚悟しておきなさい」
そう呟くと、わたくしはすぐさま馬車に乗り込み、目的の場所へと走らせました。




