第六十四話 「探し物の場所」
「ありがとうございました!」
「どういたしまして! また困ったことがあれば、私たちを頼ってくれよ! この恩は忘れないからね」
モーリスに別れを告げた俺たちは、今回のターゲットに向けて歩みを進める。そう時間がかかることもなく、リットリオの店に辿り着いた俺たちは扉を開け家主に声をかける。
「おやおや、君たちかい。事前にサウンドリールでも繋いでくれればお茶くらい用意したのに」
「そういえばリットリオも持っていたんだっけ。怒涛の数日すぎて忘れていたよ。何はともあれ、相談したいことがあるんだが今時間大丈夫かい?」
今思い返せば、サウンドリールは5個造られていたな。なんて考えながらリットリオとの会話を紡いでいく。元の世界にいた時はスマホで事前連絡なんて当然だったが、その概念が頭から抜け始めるくらいこの世界に馴染んできたってことか。
「はっはっは、アタシは構わないよ。だけどその前に、そこの少女について紹介してもらおうかな。コガ君が仲間に加えたってことは、彼女もMBTIなのだろう?」
ただ、本題に入るまでに初対面同士の自己紹介をしないと……。リットリオも気になっているみたいだし、これから長い付き合いになるだろうしな。
「わ、わたしはシャルンと申します。【仲介者】の精神核保持者で【感覚共有】の加護があります。その内容は、誰かのダメージを肩代わりするような自己犠━━」
自己犠牲の加護。おそらくそう発言しようとしたシャルンを遮るように、俺は言葉を発した。
「う~ん、そうだったっけ? 目の見えない人に視力を貸してあげたり、他人と感覚を繋いでの疑似テレパシーをしたりと『人助け』に役立つ加護だったと思うんだけど?」
レオパルトに来るまでの馬車で話していた、彼女のやりたいことと出来ることについての内容を告げる。そんな俺の言葉を聞いたシャルンは、少し顔を赤らめながら俺の言葉を反芻した。
「……そうでした。加護を受ける側からの許可が必要という条件はありますが、わたしの持つ感覚共有の加護は、人助けのために有効活用できる便利なものなんです」
「それは大層興味深い加護だね。それでは、アタシの自己紹介に移ろうか。知っているかもしれないが、アタシの名前はリットリオで加護は創造だ。君はもう仲間だし、造ってほしいものがあれば遠慮なく相談してくれたまえ。……そして、そのように強力なMBTIを仲間に加えたコガ君に問うが、今回アタシの所に来た目的は何だい? まさか彼女を自慢しに来ただけってことはないだろうね?」
お互いの自己紹介が済んだタイミングで、本題へと移っていく。今回の目的はもちろん……、
「……精神核の加護を無効化するような道具が欲しい。選民ノ箱庭を倒すためには必須なんだ」
圧倒的な戦闘力を持つネルソンを無力化できる道具。それただひとつだ。アクイラやシャルンによれば、そのような道具は天地がひっくり返っても作れないとのことだったが、その真相は如何に。
「……加護の無効化か。実はアタシも一度造ったことがある。5、6年前に自分の体に使ってみたけど、その効果時間は1秒未満。決して実用性があるものではなかったよ」
しかし、リットリオの口から帰ってきたのは絶望の一言だった。やはり、精神核の領域に人間が踏み込むことは出来ないのだろうか。
「だが、それは君たちと出会う前の話だ。君たちの協力が期待できる今なら、1分程度の効果が見込める道具を造ることができるよ」
やけにもったいぶった口調で言葉を続けるリットリオ。その表情からは、俺たちの感情を落として上げたいという意図がありありと伝わってきた。
「本当か! 1分もあれば十分だ! 一体どんな協力が必要なんだ!?」
「君たちには藤の花と一角獣の角を準備してもらいたい。というのも、一角獣の角は運の要素に持ち込めるんだが、藤の花は女子禁制のセンチュリオン修道院の管轄区域にある以上、アタシだけでは絶対に無理なんだ。どちらも立地面や外敵面での難易度は低いから、君たちなら何とか出来るはずだ。ほらっ、これが地図だ」
「だったら俺とティルピッツが藤の花だな。早速行こうぜ!」
俺はリットリオの投げた地図を受け取り、ティルピッツに視線を向ける。この場所なら二人でも大丈夫そうだな。
「了解です! サクッと取ってきましょう!」
そうして俺たち男チームは女性陣を残し、先に出発をしたのだった。
***
「もう二人ともせっかちなんだから……」
私たちが探しに行く一角獣の角についての説明を聞く前に、ヤマトくんとティルピッツくんの二人は店を飛び出していった。まあ、一分一秒でも早く素材を手に入れて、指揮官討伐━━元の世界への帰還を達成したい気持ちは分かるけどね。
「はっはっは。彼らしくていいじゃないか。それでは続いて君たちへの説明だね」
そのような雰囲気の中、リットリオさんは一角獣の角についての説明を始める。だが、彼女の口から飛び出したのは衝撃的な単語だった。
「その前に確認なんだが、君たちの中に処女はいるかな? 一角獣は人の選り好みが激しいようで、認めた女性にのみ信頼の証として角を渡すらしいんだ。その前提条件が崩れるようならアタシが付き添う必要があるんだが」
しょ、処女!? いきなりどうしたの!?
「う~ん? 処女って何なんだぜ?」
「……ホーネット様はわたしに指一本触れませんでしたので、そのような経験は……」
年齢相応の反応を見せるアクイラちゃんと、淡々と事実を述べるシャルンちゃん。二人の回答が終わり、その場にいた全員の視線は動揺を隠せずにいた私に向けられた。
「え……え! ……私もそういうのはまだかな~なんて」
「なんだ。アタシはてっきりコガ君とやることやってるかと思っていたよ。だったら全員が前提条件をクリアしているようだし、君たちに頼んでも大丈夫そうだね」
声が上擦りながらも自分自身の経験について話し終えた私に、ニヤリとからかうような表情を見せるリットリオさん。……ヤマトくんと私はそういうのじゃないから!
「ん~? なんだかよく分かんないけど大丈夫なんだな。だったら早速取りに行くんだぜ! リットリオ、ボクたちにも地図をくれなんだぜ」
「はっはっは。からかうのもこれくらいにして、地図を渡そうか。ただ、注意点として、一角獣は繁殖能力が低いようで絶滅危惧種に認定されているから、土地の管理者の同行が必要なんだ。近くにうら若き乙女の園━━バレンタイン村があるから、そこに顔を出してから向かってくれ。……一角獣の角に関しては、一角獣と出会えるかという運の要素も絡んでくるけど頼んだよ」
そうして私たちはリットリオさんから地図を受け取り、目的の場所へと向かう。そう遠くはない道のりだけど、ヤマトくんがいない以上、このチームのリーダーは私だ。最年長者としてしっかりしないと!




