第六十三話 「帰路」
「ここだよな」
様々な記憶が思い出されるローカスト教国を徘徊し、俺たちは王都レオパルトとの交易路が結ばれている馬車乗り場にたどり着いた。そこでは、俺たちがこの国にやってきた時と変わらない様相で、人々が仕事をしている姿が目に入る。
「皆様! この度は大変ご迷惑をおかけしました」
その中でも、前回と違う面がひとつだけあった。事務所の扉を開け受付に向かうと、そこには城の警備を担っていた見覚えのある顔触れがずらりと並んでいたのだ。全員が揃った姿勢で敬礼をしている姿は、外賓の見送りのような壮大な雰囲気を感じる。
「このようなことでお許しいただけるとは思いませんが、せめて盛大にお見送りくらいはさせてください。……それと、」
その光景に驚き、第一声に戸惑っていたところ、リーダー格らしき人が俺たちの前に現れ、何やら手を差し出した。どうやら、その手には一本のレイピアと袋に入った装飾品が握られているようだ。
「こちらは我々で預かっていた装備品でございます。決して傷つけたりはしておりませんのでお返しいたします」
「あぁー! ボクのスピリットエコーじゃないか! 勝手に奪いやがってー!」
もちろんそれは、リットリオ作の俺たちの新装備だった。仲間たちは三者三様の態度で各々の相棒を受け取り、それぞれの定位置に装着する。
「今後とも何かお困りごとがございましたら、我々をお頼りください。国民一同協力いたします」
そうして俺たちは、盛大な楽器の演奏に見送られながら馬車に乗り込み、レオパルトに向けて出発するのであった。
***
「君たち、久しぶりだね! 私のこと覚えてるかい?」
馬車に乗り込んだ俺たちを待っていたのは、どこか聞き覚えのある声だった。ふくよかな体格から発せられる穏やかな声質の主は、俺たちをローカスト教国まで連れてきてくれた商人━━モーリスその人だった。
「もちろんですとも! この前は大変お世話になりました」
「はっはっは。まさか出会いも別れも私が担うことになるとはね。だが任された以上、しっかりとレオパルトまで送り届けるよ」
簡単な挨拶を終え、俺たちを乗せた馬車は一歩ずつ動き出す。これでローカスト教国ともお別れだ。……少し名残惜しい気もするな。
***
馬車が走り出して数分が経過したころ、運転も軌道に乗ったのか、モーリスが俺たちに向けて言葉を投げかけてきた。
「ご一行さん。これから何をするのかは決めているのかい?」
「……これからですか。一応決めてあります。世界中の人々を救うために、ホーネットの所属していた組織である選民ノ箱庭を倒すために動く予定です」
彼からの質問は、どんな世界でも運転手と客で交わされそうな内容だった。その質問に対し、俺は混じり気のない本音を返したわけだが、彼が見せたのは様々な感情が入り乱れているような複雑な声色だった。
「……ホーネット様の名前を聞くのが随分と久しぶりに思えるよ。君たちがあの方の真意を暴き、私たちを解放していただいてからそれほど時間が経っていないのにね。ただ……」
そうして彼は、どこか含みのある声色のまま言葉を続ける。
「国民を駒として見ていたホーネット様だけど、その政治能力は本物だったからね。一代でローカスト教国をこれほどまで発展させ、我々が比較的裕福な暮らしができたのはその手腕のおかげ……。あの方を尊敬する心がゼロだったと言えば嘘になってしまうよ。だからこそ、あの方亡き今、国家運営に少し心配が残るんだけどね……」
……その点に関しては俺も同意だ。政治能力や人心掌握という面に関してはヤツの才能は別格だった。俺は正しいことをしたという自負があるが、ホーネットに依存していたローカスト教国の国民にとって、ヤツの失脚は大なり小なり影響があるかもしれない。
「いけませんいけません。奴隷根性がしみついているね。我々は家畜ではなく人間なのだから、自分たちの力で生きていかなくては。私たちが力を合わせれば、今までより裕福な暮らしが出来るに違いないからね! なんてったって、我々には様々な才能を持った仲間たちがいるのだから!」
だが、彼は一息にそう告げると、含みのある声色を消し去り、初対面の時に見せたようなはつらつとした雰囲気に戻った。俺としてもそう言ってもらえるほうが嬉しい。
「さあ行きますよ! この旅路は、私の新しい人生へのスタートラインでもあります!」
そうして俺たちは数時間の旅路の果てに、レオパルトへと辿り着いたのであった。




