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第六十二話 「夢の続き」

(大和さん、聞こえますか。私です、主人公の精神核です)


……この声、久しぶりだな。


(ホーネットの加護により外部から精神に干渉があったので、中々顔を見せられず申し訳ありませんでした。ですが、無事ホーネットを討伐できたようで何よりです)


そう言われると、強敵を倒したんだってことを改めて感じるな。かなり苦戦したが、これで指揮官討伐までの足がかりは掴めたんじゃないかと思うぞ。


(指揮官……。そうです、本日はそのことについて伝えるために顔を出したのですよ)


そういえば、指揮官について、ひいてはこの世界について教えてもらうんだったな。色々あって先延ばしになっていたが、どんな内容であろうともそう簡単にやられてやるわけにはいかない。だがまあ、背景を知っていれば対策も練りやすいし、聞いておいて損はないか。


(まず、前提として、私と指揮官の精神核が昔はひとつだったということを話しましょうか。加護が全く同じなのはそういう背景があるからなのです)


……! 宿主と会話出来ることといい、同様の加護といい、主人公と指揮官には類似点が多すぎた。どちらも異世界転移者を宿主としているし、他の精神核とは違う特殊な出で立ちなのだろう。……それにしても突拍子のない話ばかりだな。もうどんなことを言われても、ちょっとやそっとじゃ驚かないぜ。


(そんな私たちなのですが、ある時を境に袂を分かってしまいます。その理由は、私たちの持つ使命━━【異世界ゲートの管理】における考え方の相違です)


異世界ゲートの管理? 俺や山本日向の実情を見る限り疑う余地のない内容だが、それがなぜ袂を分かった原因になるんだ?


(異世界ゲート━━表と裏の関係性にある、この世界とあなたたちがいた世界を繋ぐ転移ゲート。少し刺激があれば容易に繋がってしまうような強い一体性を持つこれらの世界において、混乱を防ぐためにもこのゲートは厳しく管理しておかねばなりません。そして、その管理を担っていたのが我々だったというわけです)


なるほど。動物だって元の世界とほぼ同じだし、24時間365日という暦だって元の世界と変わりがない。強い一体性とはそういう意味もあるのだろう。それにしても、裏表の関係性にある世界か……。


(これまで数百年間、不慮の事故でふたつの世界が一体化しないように、……ましてや人の行き来なんて無いように管理出来ていたのですが、……5年前を境にそれが崩れ始めたのです。指揮官の精神核が世界を混沌に貶めようと、ふたつの世界の融和を試みた5年前から)


確かにな。俺も異世界なんて漫画の中だけの存在だと思っていたし、ましてや異世界転移だなんて思ってもいなかった。だけど、なぜ急に指揮官の精神核はそんなことをしたんだ?


(……彼の真意は分かりませんが、恐らく深い意味なんてない気まぐれだと思います。ギリギリのところで私が阻止できましたので、無尽蔵に人が行き交うような事態にはなりませんでしたが、その時の混乱に乗じて、彼はとある少年━━異世界での新たな人生を望んでいた山本日向をこの世界に転移させました。自身の手足となる存在を欲した指揮官の精神核と、元の世界に嫌気がさし異世界生活を望んだ山本日向。利害の一致したふたりは、彼らと間反対の思想を持つ私を処理するために我々を狙っているというわけです)


なるほど。ふたつの世界の独立性を維持したいアナタと、ふたつの世界をごちゃまぜにしたい指揮官の精神核。ということなら、俺とハルナが召喚されたのはアナタの手足として指揮官の精神核を処理するため、ってことかな。


(……その通りです。身勝手な内容で申し訳ないのですが、私の独断であなたたちをこの世界に導きました。自分たちの生活に満足しており、異世界転移を望んでいないあなたたちを。決して指揮官の精神核にたぶらかされないであろうあなたたちをです)


…………。


(指揮官の精神核を、ひいては山本日向を倒すことができれば、私は異世界ゲートを閉じ、あなたや南雲陽菜さん、そして山本日向を元の世界に戻し、また世界の独立性を保つことができます。……元の世界に戻りたくない山本日向は全力で抵抗してくるでしょうが、わたしとあなたたちならば決して勝てない相手ではありません。どうかこれからも力をお貸しください)


やれやれ、俺の人生をなんだと思ってるんだ。だがまあ、ここまで来て見捨てるわけにもいかないし、なにより元の世界に戻るには主人公の精神核に協力するほか無い。異世界生活なんていう珍しい体験もさせてもらったし、ここは一肌脱ぐとしようか。


徐々に戻りゆく意識の中、元の世界での思い出、そしてこの世界での思い出を振り返る。……よし、何としてでも元の世界に戻ってみせるぞ。


***


「……はっ!」


ベッドの上で勢いよく目を覚ます。またあの夢を見たわけだが、どんどん夢の内容が繊細に脳裏に焼き付くようになり、精神核との適合が進んできたことを実感する。だがまあ、何はともあれ夢の内容を仲間たちに共有しないと。そうして俺は身支度を早々に済ませ、宿のエントランスに向かう。するとそこには、既に雑談を始めていたティルピッツとシャルンの姿があった。どちらも内気な性格だからか、少し会話がぎこちないけれど……。


「悪い! 待たせたか?」


「全然待ってないですよ! 僕もさっき早朝トレーニングを終え、ここに来たばかりなので」


「わたしも、少し早起きしてお城に残していた荷物を取りに行っただけなので、ほとんど待っておりません。そうお気になさらずに」


時刻は8時。昨日は疲弊しており、集合時間を決めるのを忘れていたけど、いつものハルナたちならこの時間には集まっている。じきに、寝ぼけたアクイラを引き連れてやってくるだろうし、先にふたりに夢の内容を話しておこうか。そう思った瞬間、


「ごめん、お待たせしました! ほら、アクイラちゃん。起きて!」


目が半開き状態のアクイラの手を引きながら、ハルナがエントランスにやってきた。母と子にしか見えないやりとりだが、これで全員揃ったな。アクイラを完全に起こしてから、情報共有に移ろうか。


***


「異世界ゲートか……。にわかに信じ難いけど、私とヤマトくんがここにいるのが何よりの証拠だよね」


数十分かけて、俺は夢の内容を詳細に共有した。正直、話している俺自身も突飛な内容だと感じるものだったが、とりあえず全員受け入れてくれたようだ。


「わたしからもよろしいでしょうか?」


そんな中、シャルンが恐る恐る手をあげ、周囲の注目を自身に集める。何か言いたげな様子の彼女に、俺は発言を促した。


「ヒュウガ様を討伐するには、越えなければならない高い壁がございます。……ヒュウガ様と片時も離れることがないネルソン様の存在です」


そうだった。シャルンは選民ノ箱庭の三銃士であったホーネットに追随していたんだ。おそらく、ヒュウガやネルソンとだって接触したことがあるのだろう。内側からしか分からない情報もあるだろうし、聞けることは聞いておきたい。


「ホーネット様はお二人とお会いする時にわたしをお連れにならなかったので、直接お会いしたことはございませんが、それでもネルソン様の噂は耳に入ってきました。たったひとりで数万の軍勢を追い返しただの、生涯で傷ひとつ負ったことがないだの、その武勇は枚挙に暇がありません。この世に存在するすべての武器を意のままに操れるという【武芸全能】の加護。それを封じなければヒュウガ様には傷ひとつ付けられないと思われます」


……確かにそうだ。以前、剣を交えた時には勝てるビジョンがまったく浮かばなかった。成長した今となっては分かるが、おそらく武器や加護を鍛えても勝率が0.1%から0.2%になるくらいで現実味が薄い気がする。何か他の方法を考えた方がいいかもな。


「あいつの武器だいぶイカツかったからな~。あんなの、加護を縛った状態でトントンに違いないんだぜ」


……ん? 加護を縛る?


「みんな! ネルソンの加護を封じることができれば倒せるんじゃないか!? リットリオに加護封じの道具を造ってもらおうぜ!」


敵の加護を封印することで、戦況を有利に持っていく。俺の思いついた最高の作戦を自信満々に宣言したが、その返答はあまり芳しくないものだった。……名案だと思ったんだけど。


「精神核の加護は神から授かった、いわゆるチート能力なんだぜ。それを人間の力でどうこうってのは少しハードルが高い気がするんだぜ」


「……わたしもそう思います。ですが、せっかくのヤマト様のアイデアですし、一度リットリオ様に問い合わせてみるのはいかがでしょうか? わたしも、ヤマト様のお話の中でしか知らないので一度お会いしてみたいですし」


生得的な精神核保持者であるふたりにそう言われて少し期待が薄れてしまったが、シャルンのフォローもあり俺のアイデアが採用されることになった。だが、可能性はゼロではないだろうし、今は藁にも縋る思いでやれることをやるしかないな。


そうして、俺たちは馬車乗り場に向かい、レオパルト行きの馬車を探すのであった。

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