第五十九話 「ホーネット②」
「ホーネット、また来たぞ。中に入れてくれ」
あれから半年後。見覚えのある声が城外から聞こえてきました。
「フフフ、久しぶりですね。今日は休養日の予定でしたが、数時間ならお相手してあげますよ」
当時、センミンノハコニワという単語は政治の世界でも聞くようになっていました。まだまだ噂レベルの弱小組織ではありましたが、贔屓目なしに見ても少しは話す価値のあるリーダーとなったようです。まあ、私を支配下に加えるにはまだまだ足りないですがね。
そうして、私は以前のように会議室へと案内し、面会という名目の講義が始まりました。
「そういえば、貴方達の名前を聞いていませんでしたね」
「確かにそうだな。俺の名前はヤマモトヒュウガ。そしてこいつはネルソンだ」
冒頭、まだ仲間に加わることはできないと伝えてから講義に移り、成長したとはいえまだまだ荒のある経済計画に助言を行っていくのですが、一息ついたタイミングでふと彼ら個人について気になってしまいました。
「随分と変わった名前ですね。どこか遠方の国出身なのでしょうか?」
「そうだな。実は、俺はこことは別の世界から来たと言ったら信じてくれるか? まあ、信じるにしろ信じないにしろ、俺が異世界転移者であるという事実は変わらないがな」
他人に興味を持つことなど滅多にない私ですが、彼の口から出た言葉はさらに興味を引く内容でした。
「……ほう、異世界ですか。随分と荒唐無稽な内容ですが、否定できる根拠もないのですよね。ただ、どうしてこの世界に?」
「それは、俺がこの世界に選ばれた特別な存在だからだ。ここで俺中心の世界を作る。そのために、強力な力を持つMBTIたちと共に選民ノ箱庭を作っているのだが……、もっとも、まだ俺含め3人しかMBTIはいないがな」
「3人で作り上げた組織にしては、予想以上の影響力です。地方に籠っていれば不自由なく過ごせると思うのですが」
「それじゃあ、俺は満足できねえ。仲間を増やして、俺はもっと大きい組織を目指す。そのために、3人目の仲間であるエセックスに情報収集を頼んでるんだからな」
なるほど。彼ら二人の他に、諜報担当がいるというわけですか。そのような構成なら、私を狙う理由も分かりますね。
「分かりました。それでは、私を唸らせる人物になってから出直してください。今日の面談は以上です」
ただ、時間は無情にも過ぎ去るもので、私はキリのいいタイミングで面談終了の合図を出しました。言葉の通り、私は自分の認めた相手としか対等な関係を築くつもりはありません。それに、誰かの下につくとなるとなおさらです。
「まだ駄目か。仕方ない、今日の所はこれで終いにしてやる。また次の機会だ」
少し不服そうな目をしながら、少年はローカスト教国を後にしました。……今となってみれば随分と懐かしい思い出ですね。当時の私は、まさかローカスト教国が窮地に陥るとも、ヒュウガ様に心酔するとも微塵も思っていませんでしたから。
***
2度目の面談を終えた2か月後、この私でも想定できなかった危機が我が国に訪れました。
「これはまずいですね。全員が同様の症状ですし、何かがうつっていると考えるのが自然でしょう」
謎の疫病が国内に蔓延したのです。配下の者たちは祟りや神罰などとのたまっていましたが、もっと論理的な何かがあるはず……、それが何かは分かりませんが。ただ、幸いなことに致死率は高くなかったため、国家が滅亡するほど甚大な被害はありませんでした。しかし、高熱による生産性の低下や未知の疫病への恐怖から、ダメージゼロというわけにはいきませんでしたがね。
「取り急ぎ出来るのは、病人の隔離くらいでしょうか。それならば従軍看護師を療養地区に臨時移籍させて……。兵隊たちにも影響が出ていますし、この配置だと国防に少し不安が残りますが、そこは、私の外交手腕を使って、他国に国家の危機を悟られないようにしましょうか」
知恵を振り絞り、私の考える最適解を実施し続けましたが、疫病の侵攻は止まりませんでした。さらに、人の口に蓋は出来ないもので、そんな現状に追い打ちをかけるようなアクシデントにも見舞われました。
「目標、ローカスト教国! 現在敵軍は万全の状態ではない模様。この機会に打ち滅ぼすぞ!」
どこから噂を嗅ぎつけたのか、私の領土を狙っていた国が突如として攻撃を仕掛けてきたのです。敵の宣戦布告の言葉通り、我が国の軍は正常に機能していない状態。いとも容易く城内への進入を許してしまいました。
「この顔、こいつがローカスト教国の国王に違いない。俺の手柄にしてやる!」
「いや、俺のだ! お前には渡さんぞ!」
王座室で防衛案を練っていたところ、いかにも雑兵といった様相の者たちが扉を開けてこちらに向かってきました。
「随分と早いお出ましですね。……この様子だと、奴らの感情は殺意のみ。加護による無力化は難しそうです。となると、戦闘による応戦のみですが、いかんせん数が多すぎます。万事休すですね」
私の辞書に、戦略的撤退という言葉はあっても、敗走という言葉はありません。ただ、そのプライドを捨ててまでも、ローカスト教国を放棄しての個人撤退を考えていた私の前に、予想外の人物が現れたのです。
「ホーネット、お困りのようだな。仕方ねえから助けに来てやったぜ」
ヒュウガ様にネルソン、そしてエセックス。城の窓を割り、見覚えのある顔を含めた3人が参戦してきたのです。




