第五十六話 「名案と明暗」
翌朝、俺は柄にもなく早起きをして、早々に朝食や朝の準備を済ます。そして、ホーネットと合流する予定時刻の15分前には集合場所で待機していた。
「全員揃いましたね。それでは今日の仕事に向かいましょうか」
予定時刻の10分前にシャルンが、そして予定時刻ちょうどにホーネットが顔を見せ、一日が始まる。しかし、すぐさま城から出ようとしたホーネットを引き留めるように俺はひとつの提案をした。
「ホーネット様。今日の仕事についてひとつ提案があるのですが、『俺の元仲間たちの精神核を俺にすべて集める』に変更するのはいかがでしょうか? たくさん加護を持っていれば、その分ホーネット様に貢献できると思いますし、何よりかつての仲間を殺すことで、ホーネット様への忠誠心も示したいのです」
俺のその言葉に対して、ホーネットは数秒思案した後こう言った。
「面白いですね。今日は、国外へ出て新しい国民を勧誘するつもりでしたが、それほど急ぎの仕事ではありません。貴方の要望を受け入れましょうか」
その言葉と共に、ホーネットは指を鳴らし側近を呼び寄せる。
「現在、地下に幽閉している運動家以下3名について処遇が決まりました。1時間以内に闘技場に運んでおいてください。もちろん、鎖に繋いだままでですよ」
よし、まずは第一関門突破だ。ここを断られていたらすべてパーだったけどなんとかなったな。
「主人公、貴方も武器を用意して、1時間後に闘技場です。私が予定を変えてまで対応したということを努々忘れないように」
ホーネットはそう言い残し、一足先にシャルンと闘技場へと向かった。へっへっへ、待ってろよホーネット。作戦開始だぜ。
***
1時間後、俺は背中に月光を携え、約束の場所へと向かう。一度訪れたことのあるコロッセオ風の闘技場だが、外まで人だかりができており、異様な熱気に包まれていた。この人の量から察するにホーネットが何か呼びかけたと見て間違いないだろう。だが、今日やろうとしていることは多くの国民に見てもらっていた方が都合いい。
「待っていましたよ。それではこちらへ」
入り口で待っていたホーネットに案内される形で、俺は闘技場の中心部へと歩みを進める。時代が時代であれば猛獣と人間が相まみえているような場所。そんな場所で、改めて周囲を見渡すと、観客席が埋まるほど集まった国民たちが360度すべての方向からこちらを見つめていた。
「キャー! ホーネット様よ!」
「ショーがあるとのお話だったので駆けつけましたが、どんなことをなされるのですか!?」
だが、視線の先は俺ではなく隣にいるホーネットだったようだ。憧れの国王を視界に捉えた国民たちは一斉に黄色い声を上げるわけだが、その内容にひとつ疑問点が生じた。……コイツ、今から何をするか伝えていないな。
「本日は急な誘いにもかかわらず、お集まりいただきありがとうございました。本来ここは、この国一番の戦士を決める神聖な場ですが、本日は少し趣が違います。ですが、たまには新しい試みも悪くはないでしょう。さあ、皆さんお楽しみください! 今からこの場所で行うショーは、反逆者への公開処刑です!」
ホーネットの言葉に対して、その場にいた国民全員が固唾を飲みながら話を聞く。しかし、彼の口から飛び出した言葉は前情報のなかった国民たちには衝撃的な内容だった。
「公開処刑……?」
その狂気的な単語に対し、理解が追い付いていないのか多くの国民が疑問符を浮かべている。ただ、ホーネットの宣言の数刻後に闘技場の中心へ連行されてきた3人の姿を見ると、その内容にリアリティが増してきたようだ。
「あの方々……、見たことがありますわ! 以前ホーネット様に刃を向けた方々ですわ!」
観客席から飛び出したひとつの言葉を皮切りに、国民たちのボルテージが上がっていく。自分たちの敬愛するホーネットという存在を害そうとした者たちを前にし、彼らの態度が一変した。
「ホーネット様の敵だと!? 許しちゃいれねえ!」
「ホーネット様! 必ず始末してください!」
言葉が言葉を呼び、指数関数的に高まっていく国民たちの熱狂へ追い打ちをかけるようにホーネットは感情を焚きつける。
「そうです! 彼らは私に暴言を吐き、あまつさえ刃まで向けたのです。リーダー的存在であったこちらの少年は、我々の思想に感銘を受け心を入れ替えましたが、この者たち三人は最後まで抵抗し続けたのですよ。許しておくわけにはいきませんよね?」
四方八方すべてを見渡すように、視界を一周させるホーネット。もちろんその眼は赤く光っていた。
「やれー!」
「殺してしまえ!」
数分もすれば、辺りは異様な雰囲気に包まれていた。その場にいる全員が、「殺せ!」と声を揃えて発している姿はある種の統一感すら覚えるほどだった。
「フフフ。それでは皆さんの期待にお応えして、公開処刑へと移りましょうか。それでは頼みましたよ」
ホーネットがこちらに視線を向けたのを開始の合図と悟った俺は、剣を高らかに掲げ、観衆全員に聞こえるような声で言った。
「ここからは、わたくしコガヤマトが主催を務めさせていただきます。これから起こるショーを楽しんでくださいね」
そうして、一歩また一歩と元仲間たちへと近づき、剣の触れる距離となったところで……、
「狂王ホーネットを打ち倒すショーを!」
そう宣言し、仲間たちを拘束していた鎖を次々に叩き斬る。起業家の加護で身体能力を強化した俺にかかれば、5秒とかからなかった。さあ、反撃開始だぜ。




