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第五十五話 「シャルン・ホルスト」

「私はこれから内政業務に入ります。貴方たちの今日の仕事は終わりですので、自由時間といたしましょう。明日の集合時間は朝の9時ですのでお忘れなく」


城にたどり着いた俺たちだったが、到着してすぐホーネットは自室に戻っていく。自由時間とのことだったが、肉体的にも精神的にも疲れがたまっており、外を出歩く気力はない。部屋に戻って休むとしようか。……それに、シャルンは俺以上に疲弊しているようだし、一人でほっとく訳にはいかないしな。


「シャルン。さあ行こ……」


シャルンに声をかけ二人で部屋に向かおうとした瞬間、彼女が俺の裾を掴み、言った。


「ヤマト様……。この後、予定はありますでしょうか? よければ少しお話がしたいのですが……」


身長差もあり、自然と上目遣いで見上げられる形となったその発言は、関係性が関係性なら胸がときめくようなシチュエーションだった。しかし、おそらくだが話の内容は先ほどの事件に関すること━━つまり決して明るいものではないはずだろうし、余計な心配をかけないよう、その提案にふたつ返事で頷く。俺にできることはそう多くないかもしれないけど、メンタルケアで何であれやれることはやってあげたい。


***


「本日はありがとうございました。改めてお礼を言わせてください」


部屋に戻ると、開口一番シャルンからお礼を告げられる。男として当然のことをしたまでだけど、シャルンに危害がなくて本当に良かった。


「ですが、今後わたしへの助けは不要です。わたしの罪は、苦痛でしか償うことができませんから。この世に生まれてきてしまったわたしは、罰を受け続けなければならないのです」


だが、シャルンの口から続いた言葉は予想外のものだった。苦痛でしか償うことのできない罪? 罰を受け続ける? 疑問ばかりの内容だったが、その中でも俺の胸を揺さぶった言葉がひとつあった。


「生まれてくるべきじゃなかった人なんていないよ! キミはこの世界に必要とされたから生まれてきたんだ!」


生まれてきて()()()()。そんな言葉を使っちゃいけない。ましてや自分自身に。考えるより口が先に動いたようで、抱いていた感情が口をついて出た。


「…………少しわたしの話をしてよろしいでしょうか?」


そんな俺の言葉に対して、シャルンが口を開く。もちろんその提案に頷くわけだが、彼女の表情が少し変わったのは気のせいだろうか。


「わたしの真名はシャルン・ホルスト。とある国の王族だったホルスト家の一人娘でした」


***


「わたしの真名はシャルン・ホルスト。とある国の王族だったホルスト家の一人娘でした」


以前より、少しハイライトの増した目つきで自身の過去を話し始めるシャルン。


「16年前、わたしはホルスト家の長女として生を受けました。それほど大きな国ではありませんでしたが、我々王族だけでなく国民の皆様も平均以上の生活をできるほどの財力はあり、争いのない平和な生活をしておりました」


なるほど。密かに感じていた優雅な気品はそういう理由だったのか。細かな立ち振る舞いと言い、王族というなら納得だ。


「そんなわたしですが、6歳の誕生日にとある力に目覚めてしまいました。それは、ヤマト様もご存じ、仲介者の加護━━感覚共有です。ただ、読書のように一人で何かを行うことが好きだったわたしは、加護を手に入れたとはいえあまり使用することなく成長したのを覚えています。……強いてあげるならば、ダンスパーティーのレッスンの時に役立ったくらいでしょうか」


確かに、サッカーみたいなチームスポーツをするのであれば、彼女の加護はこの上ない能力だろうが、そんなタイプには見えないし、ただ加護を持っているだけって感じだったのだろう。


「たいして加護は使いませんでしたので、周囲から忌避の目で見られたり軽蔑されたりすることはありませんでした。そのため、わたしは王族ということもあり、平均以上の生活を送りながら不自由なく年を重ねたのですが、高い地位を持つ者には特権だけでなく義務もございます。……跡取り問題、……つまりわたしのお婿様についてです」


……俗にいう政略結婚というやつだろう。一人娘という話だし、男兄弟なんていないだろうから、他所から婿養子を入れようと画策したのか。そこにシャルンの意思は介在しないだろうし、親の決めた相手との結婚━━王族の義務というのもあながち間違いではないだろう。


「その時に白羽の矢が当たったのが、当時急速に力を伸ばしていたローカスト教国の若国王であるホーネット様だったのです。優秀な婿養子が欲しかったホルスト家と、ホルスト家の家柄に関心のあったホーネット様の意見が合致し、わたしの15歳の誕生日を契機として正式に婚姻が決定しました。……ですが、この婚姻がホルスト家の運命を大きく変えることとなったのです」


……!? ここでホーネットの名前が出てくるんだな。つまり、シャルンとホーネットの関係性は1年ほど前からというわけか。


「結婚式当日、わたしは初めてホーネット様とお会いしました。……これは内密にしていただきたいのですが、私の感じた第一印象は、本心が読み取れない御方━━両親の抱く清廉潔白かつ賢明な為政者という印象とは真逆のものでした。ただ、そのまま結婚式はつつがなく進み……、ウッ……」


「大丈夫かい!?」


昨日と同じように、口元を抑え吐き気をこらえるシャルン。咄嗟に近づき、体を支えようとするが、その動きは彼女の手によって制された。


「大丈夫です。昨日よりダメージが少ないようなので、最後までお話しておきたいのです。……そこからわたしを待っていたのはこの世の地獄でした。国内巡回のパレードを終えたわたしたちは、両親と数名の家臣のみが参加する祝宴の間での最終儀礼に移ったのですが、そのタイミングでホーネット様は態度を一変させ、……腰に差していた剣でわたし以外の全員を惨殺し始めたのです。……それも、わたしに見せつけるように」


……彼女が「家族」という言葉に強い忌避感を感じていた理由はこれか。ホーネットがそのような行動をとった理由は分からないが、ここ最近のヤツの行動を見る限り、このような凶行を取っていたとしても不思議ではない。話を聞く限り、家族仲が悪かったようにも思えないし、大好きな人が目の前で殺されるなんて、心が壊れてもおかしくないぞ。


「その際にホーネット様から言われた言葉は今でも忘れません。

『あぁ、可哀想に。貴方が生まれてこなければこうなることは無かったですのに』

『その表情。なぜ自分だけ殺されないのかといった表情ですね。それはもちろん、貴方が仲介者の精神核保持者だからですよ。……まぁ、それが一族惨殺に繋がったわけでもありますが。貴方はこの罪を背負いながらこれから生きていくのですよ』

……ホーネット様のその言葉を聞いた時から、この罪を返すために罰を受け続ける人生を歩むことを決心したのです」


案の定か。彼女が抱く自己犠牲精神や諦めに似た感情は、それが自分に対する罰だと思っているからか。


「ホーネット様がわたしに命じた罰は、ホーネット様が受けるすべての痛覚や体の損傷にかかわる感覚を肩代わりすることでした。そうしてわたしたちは形だけの結婚を済ませ、共に生涯を歩んでいくこととなったのです」


ホーネットは自身の影武者を作るためだけに、一人の女の子の感情と人生を滅茶苦茶にしたというわけか。……クソッ!


「ホーネット様はその巧みな話術で、ホルスト家に仕えていた国民を自身に心酔させ、ローカスト教国に連れていきました。わたし自身、身をもって体験しておりますが、あの方の話術は特別です。ホーネット様とお話すれば、結婚式の時に抱いた感情を、当時のまま……いや当時以上に強く感じるのですから」


ホーネットに対する怒りを抱きながらシャルンの話を聞いていた俺だったが、彼女の言葉にひとつの疑問が生じた。ヤツの加護は洗脳のはずだ。それならば、巧みな話術など使わなくとも、一言「私に従え」と命じるだけでいいのではないだろうか。さらに、シャルンを従えるのも、罪や罰だなんて理由をつけず、ただ私のために働けと言うだけでいいじゃないか。


そのひらめきを起点とし、今までほのかに感じていた違和感が形を持って俺の中を駆け巡る。国民から支持を集める際に、自作自演などという回りくどい方法を取ったという違和感。俺を支配下に置く際も、仲間になれと命令するだけでいいはずだったのにそうしなかったという違和感。……もしかして、洗脳される側にも何か条件があるのか? 


「シャルン、ありがとう。キミのおかげで何か掴めた気がする。決行は明日だ。……明日、必ずキミを救って見せるよ」


そして俺は、限界状態で話を続けているシャルンに対してそう告げる。彼女の表情から、少しではあるが安らぎの感情を感じたのは気のせいでなかったと信じたい。


作戦決行の覚悟を決めた俺は、すぐさまサウンドリールを取り出し仲間たちに連絡を取る。作戦内容を共有し終えてもまだ日の高い時間帯だったが、今日は明日に備えてもう休むとしよう。よし、やるぞ!

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