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第五十四話 「二度目の謀略」

「おはようございます。まもなく朝食の時間でございます」


……もう朝か。横から聞こえてきたシャルンの声で半覚醒状態だった意識がクリアになっていく。


「おはよう。ちなみに今日の朝メシってなんだったっけ?」


「調理担当の方からはオムレツと聞いております。ホーネット様との集合時間まであと1時間程度しかないですので、そろそろ向かいましょうか」


いつでも出発できる状態で待機していたシャルンから、朝食の誘いを受ける。おそらく、気を使って俺が起きるのを待っていてくれたのだろう。これ以上迷惑をかけるわけにもいかないし、さっさと準備して食堂に向かおうか。


「了解! すぐ顔を洗うから、ちょっと待ってて」


***


そこから、すぐさま食堂に向かい、それで足りるのかと心配になるほど小食なシャルンと共に朝食を済ます。そこから諸々の準備を終えて、ホーネットとの集合場所に向かったときには、約束の時間10分前となっていた。


「時間前行動とはよい心がけです。それでは向かいましょうか」


定刻通りにやってきたホーネットは、挨拶することなく単刀直入に本題に入る。とりあえず、今はヤツに従うフリをしておこう。……それに、今日の仕事は戦闘も介する危険なものらしいし、シャルンへの気配りも忘れないようにしないと。


そうして俺たちは、紡績産業を担っているという工業特区に向かった。


***


現在の時刻は午前10時。城を出発して30分ほどで目的地にたどり着いたわけだが、到着するや否や、若い女性の悲鳴が聞こえてきた。


「チッ、予定より1時間も早く行動を開始したようですね。まったく、学のない賊どもはこれだから困る。貴方たち、急ぎますよ」


驚きを隠せなかった俺とは対照的に、ホーネットは予定調和といった様相のまま悲鳴の聞こえた方へ向かう。おそらくこれもヤツの謀略だと思うが、この悲鳴は結構マジだぞ! 改めて軽蔑の感情を抱きながら、ホーネットに追随した俺の目には衝撃の光景が飛び込んできた。


「てめえら、どけどけ! この国には大量の金と若い女がいるって話だ。侵してやる、犯してやるぞ!」


一目見て賊だと分かるような出で立ちの男たちが若い女性を捕え、今にも服を引きちぎろうとしているところだった。ただ、既に乱暴をされている女性は見当たらない。ギリギリ間に合った……!


「待ちなさい! 私が来たからには、貴様らの狼藉はここで終わりですよ!」


そんな賊たちを威風堂々とした口調で煽るホーネット。もちろんそのような行動を取れば、嫌でも賊たちの注意を引きつけることになる。


「なんだぁオマエ。俺たちの楽しみを邪魔しようってんならタダじゃおかねえぞ」


極度の興奮状態にいるのだろう赤く血走った目の賊たちは、懐から剣を抜きホーネットに啖呵をきる。だが、その剣の持ち方や構え方などから察するに、練度はかなり低いだろう。俺が現役剣道部員だった中学時代でも負けそうに無い感じだ。


「ここは私が武勇を披露する場です。万が一の時まで貴方たちは下がっていなさい」


ホーネットは俺たちに下がるよう指示して、単身賊に向かっていく。……そういえば、ホーネットが直接戦う姿を見たことがなかったな。乱暴未遂に会っていた女性たちは安全な場所に避難できたみたいだし、ここは戦力調査の機会にさせてもらうぞ。


「ぐばぁっ!」


「べぎゃー!」


力に身を任せただけの単調な攻撃を仕掛けてくる賊たちを、華麗な動きで切り刻んでいくホーネット。かすり傷ひとつ受けないその姿はあまりに一方的なものだが、……正直なところ、加護を使った俺に勝てない相手ではなさそうだ。純粋な戦闘力勝負になれば勝ち目はあるぞ。そう、少し安堵の感情を抱いた時……、


「女、女、女! しかも巨乳の若い女! 犯してやる!」


ホーネットと戦闘中だった賊の一人が、シャルンを視界に捉えてしまったのか、よだれを垂らしながらこちらに向かってきた。クソッ、このままじゃシャルンが危ない。


「この!」


俺は背中から新しい相棒━━旭光を抜き取り、賊に斬りかかる。そっちが先に仕掛けてきたんだ。手加減はできないぞ!


「どぎゃー!」


敵の胴を斬り裂き、渾身の蹴りで突き飛ばす。起業家の加護を乗せた一撃だったし、これでもう追撃は来ないだろう。実際、もう意識も無さそうだしな。


「怪我は無いかい!?」


「ヤマト様……。ありがとうございました……」


シャルンに駆け寄り、危害がなかったか確認するが、パッと見た感じ外傷はなさそうだ。


「見事な戦闘能力です。これならば仲間に引き入れた甲斐がありましたね」


俺がシャルンの無事を確認している後ろで、ホーネットがそう呟く。振り返ってみると、そこには賊の死体がたくさん転がっており、ホーネットがその死体をひとつ増やそうとしている最中だった。


「貴方で終わりですね。最後に言い残すことはありますか」


「お、思い出した……。オマエ、俺たちにこの場所までの隠し通路を教えに来た男じゃないか」


「国民の前でそういうことを言うんじゃないですよ。彼らの前では、私は理想の国王なのですから」


周囲に聞こえない声量で一問答した後、ホーネットはボスらしき男の息の根を止める。だが、これで賊の脅威は立ち去ったな。


「皆さん、不安がらせて申し訳ございません。完璧だと思っていた警備ですが、穴があったようです。改めて外部からの侵入への警戒を高めるよう周知しておきますね。ですが、事件が起こったのが私の目が届く場所でよかった……」


そして、ホーネットは改めて女性たちに振り返り、勝利宣言を告げる。その白々しい態度に怒りを覚えながらも、感情を押し殺しながらその光景を見守る。


「ホーネット様! 本当に、本当にありがとうございました……。私、怖くて怖くて……」


「ホーネット様以外の男性に触れられたとき、恐怖で足がすくみました。もうホーネット様以外考えられません。妾でも何でも構いませんので、お傍においていただけませんか?」


そんなホーネットの言葉に反応し、安全な場所で避難していた女性たちが次々と表に出てくる。人数にして十数人だが、その全員が現人神を見るような視線でホーネットを見つめていた。


「私にとって、国民の皆さんは全員が平等です。誰かを特別扱いすることはできませんが、必ず全員を幸せにしてみせます。ただ、その言葉だけは受け取っておきますね。ありがとうございます」


勇気の告白をした女性に近づき、ポンと頭を撫でるホーネット。数秒の蜜月の後、ホーネットは女性全員を視界に捉え、宣言するようにこう言った。


「皆さん、困ったことがあればいつでも助けに来ますので、遠慮なく連絡をくださいね。世界一優秀な私についてきてくれる皆さんを、必ずや導いてみせますから」


ホーネットの言葉に対し、歓喜の声を上げる女性陣。その表情は、ホーネットが彼女たちを視界に捉える前後で大きく変わっていたわけだが、その様子を確認したホーネットはしたり顔で馬車の方に体を翻した。


「さあ、貴方たち。行きますよ」


任務完了といった表情で歩みを進めるホーネットに、俺たちは遅れないように着いていく。……やはりあの眼がヤツの加護のキーだ。こうやって定期的に国民たちを洗脳にかけているんだな。


「シャルン、行こうか」


少し体が震えていたシャルンに肩を貸し、馬車に乗り込む。……これ以上、ホーネットを放っておくわけにはいかない。早々に作戦を決行しよう。

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