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第五十一話 「情報収集」

「さて、ホーネットが戻ってくるまで約二日あるわけか」


ホーネットと離れて、すぐに正気を取り戻せたのはラッキーだった。仲間たちとの作戦会議も順調に進んだし、あとは計画通りに事を進めるだけだ。ホーネットのいないこの二日間を有効に使わないと。


だが、何はともあれ情報収集が先決だ。今のうちに国内を散策して様子を探っておこう。……ホーネットの演説のおかげで、国民は俺を味方だと信じているようだしな。


「だが、今日はもう遅いし、明日の朝から動くとしようか」


窓の外を見やると、もう世界は夜の闇に包まれていた。これでは、情報収集どころではないし、今日は休むとしよう。


***


「あなたはホーネット様が紹介なさっていたMBTIの……! ようこそ、この地域にお越しくださいました」


翌朝、敵意を見せないためにも、武器を装備することなく国内を徘徊していると、周囲すべてを畑に囲まれた農村というイメージがピッタリの場所に辿り着いた。そこにいたのは、第一村人発見という言葉が聞こえてきそうな温厚そうな老人で、初対面にもかかわらず、俺を丁重に出迎えてくれた。当てもなくさまよっていたらここに来ただけだが、これほど歓迎されるとは。


「いえいえ。ホーネット……様がご不在の今、この国について勉強しておこうと思いまして。演説ではあれほど持ち上げていただきましたが、俺は新参者ですから」


ホーネットに対する反逆心を悟られないよう注意しながら会話を進めていく。騙すようで申し訳ないが、今は手段を選んでいられない。


「能力だけでなく心意気まで優れた御方だ。さすがホーネット様が見初めた人物だけある。でしたら、せっかくですのでこの地域について説明いたしましょう。着いてきてください」


涙を流し始めてもおかしくない態度の老人に着いていく形で、畑の近くへと向かう。すると

、農作業をしていたふくよかな体格の男性がこちらに気が付き、振り向いた。


「地域長! おつかれさまです。どうされましたか?」


だが、その男性は俺に気付いていないようで、地域長と呼ばれた老人に向けて会話を進める。


「実は、昨日ホーネット様が紹介なさっていた方がいらしてくれたのだよ。だからこの地域について説明しようと思っての」


その老人の言葉により俺に気付いたのか、男性は慌てて俺に挨拶する。そこまで畏まらなくても……とは思ったが、ホーネットが直々に紹介したという肩書は凄まじいものなのだろう。


「新参者ですので、この国について知っておきたいと思いまして。まずは、みなさんについて聞いてもいいですか?」


「それはそれは……。でしたら、地域長に代わり私が説明いたしましょう。ここは農業特区、その中でも小麦生産に特化した地域でございます。国民の食を担う、非常にやりがいのある地域です」


なるほど。ということは一面に広がる畑では小麦を生産しているというわけか。……だが、先ほどから会話に出てくる地域という言葉や特区という言葉は一体何なのだろう。


「凄いですね! ……ただ、基本的な質問で申し訳ないのですが、この国では地域ごとに仕事が決められているのですかね? 来たばかりで何も知らなくて」


「……! そうでした、まずはそこから説明しないとですね。この国では、地域ごとにやる仕事が決められていて、全国民が適正に応じて配置されるのです。農業特区に工業特区、娯楽特区といった感じですね。そして、仕事の内容は世界一の国王であるホーネット様が10年先まで決め、全国民で助け合いながら暮らしているのです!」


ホーネットを称えるように、興奮した様子で説明を行う青年。俺が元居た国とはずいぶん違う国家運営をしているようだが、……この規模の国をホーネット一人で指揮しているというのか? その頭脳はなめてかかると危険な気がする。


「ほうほう。ですが、お兄さんは他の仕事がやりたかったとかはないんですか? もっと娯楽の多い地域で暮らしたい~とか」


「いえ、ホーネット様が国家全体のことを考えて私をここに配置なさったので、それが最適で最高だと考えております。それに、給料や娯楽施設のチケットは全国民平等ですから、生活する地域にこだわりはないんですよ。私はここで、国民みんなのことを想いながら仕事をするだけです!」


その眼からは嘘をついている雰囲気は感じられない。心からホーネットに心酔しており、心から国家全体のことを考えているのだ。


「分かりました。……そうだ、せっかくここまで来たので少しお仕事をお手伝いしてもいいですか? 色々教えていただいたお礼です」


だが、彼らからはたくさんの情報を聞くことができた。この情報がホーネット打破に直接役立つかは分からないが、プラスになることは間違いない。それに、初対面の俺にこれだけ親切にしてくれたんだ。手伝いたいという気持ちは、俺の本心で間違いない。


そして、俺は2時間程度仕事を手伝い、昼前に次の地域に向けて旅立った。


***


そこから俺は、周りが暗くなるまでいくつかの地域を回った。


工業特区では、レオパルトとの交易の際に知見を得たのか、蒸気機関を高いレベルで活用して紡績や製鉄を行っていた。安全性の観点から、ここでは仕事を手伝うことはできなかったため、新製品開発の場を見せてもらったのだが、現在国内を手軽に移動するための機関車を開発中とのことだ。


娯楽特区では、劇場での演劇や曲芸といった受動的な娯楽から、スタジアムでのスポーツやコロッセオ風の闘技場で開かれる武術大会といった能動的な娯楽まで、幅広いガス抜きの場があった。特に、スポーツや武術大会では優勝者にホーネットからの賛辞が与えられるようで、参加者も観戦者も熱狂的な盛り上がりを見せていた。


「ふ~、疲れたぜ」


近隣の三地区を回り、城へと戻る。中々疲労感を感じる一日だったが、学ぶことも多かった。


「だけど、全員悪い人には見えなかったな」


特に、国民の人柄については思うところも多かった。悪辣なホーネットとは対照的に、その誰もが国家の繁栄を願い、心からホーネットを称賛している性格の人ばかりだったからだ。……たとえ、これが洗脳の加護により操作されたものだとしても。


「さあ、明日はホーネットが戻ってくる日だ。ゆっくり休んで体力を回復させとこう」


いそいそとベッドに向かい、休息に入る。明日からはホーネット本人との関わりの中で打開策を見つけていこう。今日以上に危険度が増すから気を引き締めないとな。

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