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シックスティーン・セレクテッド ~MBTI冒険記~  作者: 黒潮 潤
第一章 「異世界生活初日」
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第五話 「覚醒?」

「……あれ、私どうしちゃったの……、ってヤマトくん!? どうしてここに!?」


時間にして15分程度だろうか。日陰に場所を移し、ハルナが目覚めるのを待っていた俺たちだが、そこまで時間はかからなかった。大勢の聴衆の前で自己紹介をしていたはずなのに、周りには俺とMBTI二人しかいないという状況となり、驚きが隠せない様子の彼女だがここに至った経緯を説明しひとまず落ち着かせる。


「そうだったんだね……。今日はいろいろあったから……」


「目の前で倒れたから心配したけど、無事そうでよかったよ。さっき話した通り、オマエが目覚めるまでこの人たちも待っててくれたんだ。体調が戻り次第になるが、さっきの話の続きに移れそうか? あの一連の動きについて俺も詳しく知っておきたいし」


「そうだよね。……グラーフさん、ビスマルクさん、私はもう大丈夫なので先ほどの話に戻りましょうか」


ハルナも目覚めたことから本題へと話を進めていく。まずはさっきの話の続き……、ハルナの加護についてだ。


「無事意識を取り戻したようでなによりだ。それでは君の加護についてだが……、一体どのような内容なのかな? MBTI同士今日で関係が終わるとも考えづらいし、詳しく聞いておきたいんだ」


「そうでしたね……、私は【運動家】の精神核を貰ったみたいで、その加護は【超常的な俊敏性】……です。飛んでくる壁の破片から女の子を守りたいと思ったときに本能的に自覚しました……」


「本能的に自覚? さっきも少し疑問に思ったけれど、君は今日自分の加護を理解したのかい? 普通もっと幼いころに自覚するはずだけれど何か特殊な環境にでも……?」


「特殊な環境……ですか。……ええと…………」


俺たちの事情を話すべきか迷っているのだろうか、俺にチラチラと視線を送ってくる。一日見た感じ彼らは信用できる人間だと思うし、なにより身の上を話さなければ事態の打破などできっこない。ここは俺が……


「ハルナ、疲れていると思うしここからは俺が話すよ。……実は、俺たち異世界から来たんです。気付いたらここにいて何もわからないまま戦闘に巻き込まれてという感じで……。だから幼いころに加護を自覚できるわけなんてないという形ですね……」


「異世界……か。嘘をつくにしては突拍子もなさすぎるし、君たちが僕らを騙そうとしているとも思えない。信じがたいが真実なのだろうね」


「だったらよ、アンタもMBTIなのか? 異世界からやってきたっていうんだ、片方のみがMBTIってのも考えづれえだろ」


ビスマルクが少しぶっきらぼうな口調で会話に入ってくる。彼の疑問も自然なものだが、残念ながら俺には特別な加護なんてものは身についていない……。


「……残念なんですが俺には特別な加護は何も……。精神核とやらに選ばれたのは彼女だけだったみたいです」


「そうなのか。だが、コイツが倒れた時に一瞬で駆けつけてたよな。その心意気や行動力はアンタの持つ特別な力……だとオレは思うぜ」


少し悲しげな表情で話した俺の言葉に対して、言葉遣いとは裏腹に優しいセリフを投げかけてくれたビスマルク。選民ノ箱庭と正面切って啖呵を切るような人だし、その心根は優しいものなのだろう。


「こちらから質問攻めにして申し訳なかったね。ここからは僕たちが質問に答える時間だ。分かることだったらなんでも答えるから気軽に質問してくれ」


「頭を使う仕事はお前に任せるぜ」という表情のビスマルクを横目にグラーフがこちらに話を振ってきた。この世界について分からないことばかりなんだし、遠慮せずにこの貴重な時間を使わせてもらおう。


「分かりました。それでしたら、まず初めにこの世界について教えてもらえますか? エルフみたいな異種族もいるのかモンスターの脅威に怯えなければいけないのか……。俺たち本当に何もわからないので基本的なところからお願いします……」


「……エルフやモンスターという単語は聞いたことないが、この世界には人間以外の知的生命体は存在しないよ。人間の脅威となるような異種族……、しいてあげるならばトラやイノシシは討伐に少し苦労するが、普通にやればなんてことなく対処できるかな」


「異種族は無し……と。分かりました、でしたら次はこの世界の地図とかってお持ちですか? 目下の目標を決めるためにも参考にしたくて」


時間にして1時間弱だろうか。俺からの一方的な質問だったにもかかわらずグラーフは嫌な顔一つせず回答を作ってくれた。彼の話をまとめると……、

①この世界にはエルフやドワーフといった異種族知的生命体、ゴブリンやゾンビといった人間を襲うモンスターは存在しない。いるのは人間と元の世界にもいたような動物だけだ。

②時間感覚は元の世界と同じで24時間で1日である。7日で1周期だったり四季がある点も同じだ。

③手から炎を出したり、一瞬で傷を治したりする魔法は存在せず、技術レベルとしては剣や槍が中心となる中世ヨーロッパ時代のものである。(まあMBTIが魔法といってしまえばそれまでだが……)

④この世界は一つの大きな大陸の中に大小様々な都市が点在している(ちなみにこの街はレーヴェという中規模の都市らしい)。ただ、大きな文化の違いはなく、大勢の人間が死ぬような抗争はなく過ごしてきた。

ということだ。とりあえずこの世界の根幹は知ることができたが、グラーフは最後にこれだけは伝えておかなければ……という神妙な表情で話し始めた。


「では最後にセンミンノハコニワとMBTIについて話して終わりにしよう。さっき僕は人間同士の争いは無かったと話したけれど、正確には4~5年前までは争いはなかったというのが正しいんだ。4~5年前に突如として現れた謎の組織、センミンノハコニワはMBTI至上主義を唱え一般市民を家畜を扱うかの如く蹂躙し始めた。……それが簡単にできてしまうほど彼らの力……、精神核保持者であるMBTIの力は強大なものだからね」


精神核という単語を発したグラーフは、思い出したかのように隣で眠りかけていたビスマルクに視線を向け、声を発した。


「そうだ、せっかくだし君たちに精神核を見てもらおうか。特にハルナくんはMBTIとして生きていく以上知っておいて損はない。お~い、ビスマルク、さっき倒した起業家の精神核を出してくれ。ただし、落とさないように丁重に扱うんだぞ」


「へいへい。っと、これがバージニアが持っていた起業家の精神核だ。MBTIが命を落とせば、肉体は消滅しこの結晶だけがその場に残る。MBTIをMBTIたらしめる加護の根幹はこれだ」


ビスマルクが懐から、蒼く光る手のひらサイズの結晶を取り出した。こんなものが体の中にあるなんて到底信じ難いが、加護を目の前で見た以上信じざるを得ない。


「こんなものがハルナの中にあるなんて……」


そう言って精神核に触れた瞬間、脳内に直接声が聞こえてきた。


(【主人公】の精神核に選ばれしものよ。今こそその加護を使う時です)


「【主人公】……? いったいどういうことだ?」


ぼそりとそう呟いた刹那、起業家の精神核が俺の体内に入り込んできた。隣にいたハルナだけでなく、この世界に長くいるグラーフとビスマルクですらとんでもないものを見たような驚きの表情を見せる。何が起きてるんだ?


「う、うそ……」


「精神核が吸収されていく……、こんな光景初めて見たぞ!? もしかしてそれが君の加護なのか!?」


「分からないです……。ただ、脳内に【主人公】って言葉が聞こえた瞬間にこうなっちゃって……」


「MBTIの加護なんて千差万別なんだからそんな加護があったっておかしくねえ、ちょっと加護を披露してみろ。MBTIなら本能的に自分の加護が分かるはずだ」


ビスマルクの言う通り自分の加護を発動しようと脳内で「発動!」と唱えたり、呪文を唱えるように指を動かしてみたりするが、一向に何かが起こる気配がない。本能的に分かるって言われても……。


「すみません……。どうしたらいいかも分からないですし、どんな加護かも分かりません……」


「マジかよ……。異世界から来ただの、加護の詳細が分からないだのイレギュラーばっかりだな。ただ、精神核を吸収した以上何らかのMBTIなのは間違いねえだろ」


「そうだろうね……。だけど、現時点でできることは何もない……か」


歴戦の勇士二人が頭を抱え状況打破に動いてくれている。しかし、考えても分からないものは分からない、この場にいる全員に諦めの表情が浮かんできた。


「お時間取ってもらったのに申し訳ありません。自分のことは自分で考えてみます。今日はありがとうございました」


何もできない状況でこれ以上時間を取ってもらうのは申し訳ないし、俺の方から話の終了を切り出した。


「こちらこそ力になれず申し訳ない……。ただ、MBTI同士、今後もどこかで会うだろうから、その時は存分に頼ってくれたまえ」


「おうよ! 人助けのために精神核の力を使おうとする者同士、協力してやっていこうぜ! っとそうだ、最後にこいつを貸しておくから、今度会ったときにでも返してくれや」


挨拶を終え、俺たちに背を向けた二人だったが、別れ際ビスマルクの手から少し重量も感じる革袋が投げられてきた。中身を確認すると金貨がいくらか入っている……、この世界の相場が分からないが数日は生活できる額なんじゃないだろうか。


「こんな……受け取れないです! 結構な額なんじゃないですか」


「なに、オレたちの代わりに少女を助けてくれたお礼だとでも思ってくれ。それに、この金を返すまでお互い死ぬなよっておまじないの意味もあるのさ。オレは別に返してほしいなんて思っちゃいねえがその方が死ねなくなるだろ」


「……分かりました。だったらお言葉に甘えて受け取っておきます!」


俺のその言葉を聞き、笑顔の表情を見せながら立ち去っていく二人。もう日も暮れていく時間だがMBTIの二人には1時間だって無駄にできないのだろう、次の町に向かって出発するみたいだ。


「じゃあ、俺たちは明日出発するか。このお金があれば数日は生活に困らないだろうし、今日はこの街で泊まろうぜ」


彼らを見送り、俺たちは異世界生活初日の宿を探すため街の中心地へと戻る。ハルナも疲れているだろうし、今日くらい少し贅沢してもバチは当たらないだろう。

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