第四十六話 「いざ、ローカスト教国へ」
「でもよ~、昨日のエロいねーちゃんいわく、ローカスト教国ってのは変な国なんだろ? 下調べしていかないとマズいんじゃないのか?」
リットリオの店を出て路地裏を歩いていると、アクイラからそのような言葉が発せられた。確かに、この街の隣国だというのに、人々から詳しい話を聞いたことがない。昨日会ったレイテいわく閉鎖的な国らしいけど、何も情報がないってのも考えづらいだろう。アクイラの言う通り、この街である程度情報を集めてから出発しようか。
「そうだな。この街の近くにあるみたいだし、交易に来ている商人狙いで馬車乗り場にでも向かってみるか。何か向こうにメリットを差し出せば、無視されることはないだろ」
「分かったよ。でも、教国というくらいだし、何か怪しげな思想を持っているかも……。決して自分を見失わないようにしないとね」
仲間たちの同意を得て、俺たちは馬車乗り場へと向かう。ずいぶんと世話になった施設ということもあり、受付まではかなりスムーズに向かうことが出来た。
「すみません。ちょっと聞きたいんですけど、ローカスト教国から馬車が来る予定とかってありますかね?」
「ローカスト教国ですか……。商人の方が、2週間に一度程度やってくるようなイメージですが……、お客さん、運がいいですね! ちょうど今日がその日みたいです」
これはラッキーだ。14分の1を引けたことに感謝しつつ、馬車の到着予定場所を紹介してもらう。だが、街の行き来が多そうな商人ですら2週間に一度しか来ないくらいだし、閉鎖的な国というのもあながち間違いではなさそうだ。っと、おそらくあの馬車がその人だろう。
「急に話しかけてすみません。俺たちは世界中を旅してる冒険者みたいな者なんですけど、ローカスト教国に興味があるんです。詳しいことを聞けたらな~なんて」
少し唐突すぎるかとも思ったが、思い立ったが吉日とも言うしこちらから仕掛ける。だが、
「へえ~。君たち、ウチに興味があるんだ。それは嬉しいことだね。……そうだ、1時間もすればこの街での予定も終わるし、よければ着いてくるかい? 交通費だってタダじゃないし、移動中に会話する方が時間も有効活用できるしね」
国のトップが選民ノ箱庭の中枢と聞いていたこともあり、警戒心を抱きながら会話していたが、相手の反応は予想以上に好意的で少し肩透かしを食らった気分になる。だが、だからこそ突然のその言葉に一瞬逡巡してしまった。とりあえず情報集めだけのつもりだったが、このまま着いていってもいいのだろうか?
「はっはっは。確かに初対面の人間に着いていくのは怖いか。即決しろとは言わないよ。この街を出発するタイミングで改めて確認するから、それまでにどうするか考えておいてくれ。無理に着いてこいとは言わないしね」
その逡巡で俺たちの感情を察したのか、商人は決断までの猶予をくれた。少し怪しまれたかと思ったが、相手の反応を見る限りそんなことはなさそうだ。ニコニコした表情のまま、彼は街の中心部へと飛び出していき、残された俺たちは今後の進退について話し合う。
「どうするんだ? 他の街と交流しない奴らなんてジメジメした性格ばっかりだろうし、裏で何考えてんのか分かんないんだぜ。ヤマトとハルナがいれば負けることはないだろうし、いざという時はなんとかなると思うけどさ」
「アクイラちゃんの言う通り、言葉通り受け取るのは危険かも。人の好意を疑いたくはないけれど、相手のトップは選民ノ箱庭三銃士だもんね」
どうやら、仲間たちもおおよそ俺と同じ感想を抱いていたようだ。だが、残されたもう一人の仲間は、視線を誰に向けることなくひとり言のように呟いた。
「……僕はこの好意を少し信じてみたいです。センミンノハコニワだからといって必ずしも悪人とは限らないと思うんです。もちろん疑う心をゼロにするのは危険ですが、とりあえず着いていってもいいんじゃないでしょうか。仮に裏があって、多少の窮地に陥っても、僕たちの新装備があれば、難なく脱せられると思いますし」
領事の精神核を持つ少年━━選民ノ箱庭、ランドルフから精神核を受け継いだ少年が俺たちを諭すようにそう告げた。……そうだな、疑心暗鬼になりすぎるのもよくない。俺たちなら多少のピンチくらい乗り越えられるだろうし、とりあえず信じてみようか。
「了解だ。疑ってばかりでチャンスを逃したくもないしな。ティルピッツの言う通り、あの人の提案に乗ろう」
ティルピッツの言葉により思うところがあったのか、俺が発したその提案に全員が頷いた。どうなるかは分からないが、今は俺たちにできることをするだけだ。
***
1時間後、戻ってきたローカスト教国の商人に対し、俺たちは話し合った通り同行の意を告げる。「そう言ってくれると嬉しいねぇ」なんて話した彼は、積んできた荷物を降ろし空になった荷台に俺たちを案内し、「乗り心地はよくないだろうけど、数時間だから我慢してくれ」という気遣いの言葉を告げた後馬車を走らせた。
「いや~、ウチの王様が外部との交流に慎重なせいで知名度が低いのなんのって。優秀な人なのにもったいないよ。でも、そんな背景があるからこそウチに興味を持ってくれたのが嬉しくてね」
出発から10分程度が経過し、馬車の運行も軌道に乗り始めたころ、運転手である商人がしみじみとした口調で俺たちに感謝の言葉を述べる。その口ぶりからは騙そうなんて感情は感じられず、王様への賛美の言葉も俺たちへの感謝の気持ちも本心から発しているのだろうと感じられる。
「へ~、立派な王様なんですね。それほど国民に尊敬される王様は稀ですよ」
俺のそんな相槌に対して、商人は気を良くしたのか、王を褒めるような言葉を繰り返す。もしかして、本当に話し合う余地のある国王かもな。
それから数時間後、馬車に揺られ辿り着いたのは、高さ十数メートルの外壁に囲まれた中規模都市だった。その大きさは小さな島ほどあるにもかかわらず、360度すべてが隙間なく隠されており、外から中の様子を伺うことは出来そうもない。攻め込むにはかなりの戦力差が必要になりそうな雰囲気だ。
そんな国にたどり着いた矢先、数少ない外部との関所で待っていた門番のような人がこちらに話しかけてきた。
「モーリス、お疲れ様です! ……そちらの方々は?」
「ああ、説明しないとだね。彼らとはレオパルトで出会ったのだけど、どうやらウチの国に興味があるようでね。いい機会だし来てもらったというわけだ」
「そうかそうか! それはみんなも喜ぶよ」
齢にして20代中盤といったところか、爽やかな雰囲気を醸し出す青年が快い雰囲気で出迎えてくれた。こちらも、当初抱いていたローカスト教国の国民への印象とは全く異なる様子だ。そんな彼に簡単な挨拶を返すと、門番は俺たちに向けてこう告げた。
「それにしても皆さん運がいい。今日は王様が遊覧に来てくださる日だ。声が聞こえるほうに歩いていくと嫌でもお会いできると思うよ」
その言葉からは、俺たちをここまで連れてきてくれた商人━━モーリスと同じように、王をリスペクトするような雰囲気を感じられた。一人ならまだしも二人もが心の底から敬っている国王なら、選民ノ箱庭の三銃士と言えど、これまで出会ったイラストリアスやランドルフのように話が通じる相手かもしれない。もしかすると俺たちの味方になってくれるかも。そう思っていた時、
「ホーネット様が来られたわ! みんな準備して!」
そんな感情を打ち砕くような名前が耳に飛び込んできた。




