第四十五話 「新発明 サウンドリール」
窓の外から、チュンチュンという心地いい鳥のさえずりが聞こえてくる。もう朝か。
気持ちとしてはまだまだ布団から離れたくないが、非情にも時計は仲間たちと約束した集合時間を指している。名残惜しいけれど、サイズも快適さも桁違いな最高級ベッドに別れを告げないとな。
「おおっと忘れ物だ」
洗顔や着替え等、簡単な身支度を済ませ部屋を後にしようとするも、今日から始まる新たなルーティーン━━2本の剣の帯刀を忘れかけていた。新しい相棒である旭光と月光を交差させるように背中の鞘にしまい、改めて部屋を出る。これからよろしく頼むぜ……なんてな。
***
「ヤマトさん、おはようございます。よく眠れましたか?」
エントランスに向かうと、ティルピッツがモノクルを弄りながら座っている姿が目に入った。おそらく、新装備に慣れるためにいろいろ触っているのだろうけど、……ハルナはどこだ? あいつが集合時間に遅れるとは考えづらいが。
「ティルピッツ、ハルナがどこにいるか分かるか?」
「ハルナさんならアクイラちゃんを起こしに行ってます。多分寝坊してるだろうからって」
なるほどな。リットリオの気遣いもあり、4人それぞれに豪華な個室を用意してもらった訳だけど、こんな弊害が出るとは。まあ、俺も人のこと言えないし、多少待つくらいわけないさ。それに、ティルピッツと二人きりになれる機会もそうそうないし、お互いについて知るにはいいチャンスだろう。
「どうだ、新しい装備品には慣れそうか?」
「そうですね。まだまだ新しい感覚に戸惑いますけれど、慣れれば気にならなくなるかと」
「ならよかった。俺と違ってオマエは頭が良さそうだからすぐ有効活用できるさ。……そういえば、名前とか決めたのか? 名前があれば愛着も湧くだろうし、何より無名だと緊急時に何を指してるのか分からなくなるからな」
「名前、実は決めてるんですよ。この片眼鏡の名前はネルウスリンカー、……僕の村での言葉で神経接続器。ピッタリな名前だと思うんです」
待ち時間の間に、少し気になっていた話題についてティルピッツと共有する。どうやら、アイツ自身案を考えていたようだ。いつまでも、片眼鏡やモノクル呼びだと訳が分からなくなるし、固有名詞をつけておいた方が後々役立つだろう。……だが、そのネーミングセンスといい自信満々な表情といい、この年齢の男はどの世界でも同じようなことを考えてるよな。
「中学時代を思い出すいい名前だな。……っと、ようやく女性陣の合流といったところか」
話もキリがよくなったタイミングで、ちょうどハルナがアクイラの手を引きながらやってきた。一部ボタンが閉まっていなかったり、髪の毛がはねていたりするアクイラの姿を見る限り、つい先ほどまで寝ていたのが容易に想像できる。
「みんなお待たせなんだぜ。このカチューシャの名前を考えてたら寝るのが遅くなっちゃって。ハルナ、起こしてくれてありがとうなんだぜ」
「もう……、でもただの寝坊でよかったよ」
そう話すハルナの顔には、怒りではなく安堵の表情が浮かんでいた。最近、選民ノ箱庭の活動も活発になってきているし、不意打ちや誘拐でなかったことに安心したのだろう。
「だけど、そのおかげでカッチョイイ名前を考えられたんだぜ。コイツの名前はスピリットエコー! どうだ、いいだろ~!」
自信満々の表情で一晩考えたという名前を発表するアクイラ。彼女らしいネーミングセンスだが、それも味があっていい。
「似合ってるから大事にするんだぞ。……さて、全員揃ったことだし、リットリオのもとへ向かおうか。待ち合わせ時間までそんなに猶予もないしな」
だが、これで出発の準備が整ったな。リットリオはあまり時間に厳しいタイプでは無いと思うけど、遅刻はマズいしさっさと出発しようか。
***
「失礼します。リットリオさん、いますか~?」
店の扉を開け、ハルナがターゲットの名前を呼ぶ。……おっ、来た来た。呼びかけもほどなく俺たちの前に姿を見せたリットリオだけど、少し不機嫌に見えるのは気のせいだろうか?
「なんだ、君たちか。昨日の奴がまた来たのかと思ったよ。わたくしたちは世界中に拠点があるから素材集めに役立つだの、高い戦闘力を持つ仲間もいるから護衛には困らないだの様々な理由を並べたって、アタシは誰かの下につく気はさらさらないね」
何か嫌なことがあったのか、ブツブツと愚痴を呟きながらやってきたリットリオだったが、声の主が俺たちだと分かると、その表情は徐々に明るいものへと変化していった。
「いや~、すまないね。昨日色々あったから愚痴が出てしまったよ。だけど、訪問者が君たちだというのなら話は別だ。アタシの新発明をぜひ見ていってくれたまえ」
そう言ったリットリオは、ポケットから手乗りサイズの道具を4つ取り出した。その見た目は懐中時計のような様相をしており、12時の方向についたボタンで蓋が開閉するような構造となっているようだ。一体どのような用途なのだろう?
「遠距離対話機器『サウンドリール』! 遠く離れた相手だろうとも、まるで隣にいるかのような感覚で対話ができるアタシの新発明さ。ネクスコア鉱石は非常に貴重なものだから量産はできないけれど、なんとか5つは造ることができたよ。ぜひ受け取ってくれたまえ」
なるほど、おそらくスマホをモチーフとして造ったのだろうけど、この世界の技術レベルには不釣り合いな代物だな。だが、それは冒険の手助けになることの裏打ちでもあるし、非常に心強い支援だ。各々が感謝の言葉を告げ、新発明を受け取る。
「そう喜んでもらえると造った甲斐があるね。こちらとしてもMBTIである君たちとの繋がりは消したくないし、何かあればまた連絡してくれたまえ。念のため、アタシもサウンドリールを持っておくからさ」
「助かるぜ。今後、俺たちだけではどうしようもないことがドンドン増えそうだから、そんな言葉が聞けて何よりだ。また、困ったことがあれば連絡するよ」
「フフフ。もちろんタダでとは言わないけどね」
ニヤリと含みのある表情で俺たちを見送ってくれるリットリオ。優れた装備が手に入っただけでなく、こんな人脈も手に入れられたのは想像以上の幸運だったな。
さあ、この街でやるべきことは一通り終えたことだし、強敵が待っているであろう次の目的地━━宗教国家ローカスト教国に向かうとしようか。




