第四十三話 「新発明の行方」
「ふっふっふ。原子力よ、待っていたまえ。アタシが君の力を存分に引き出してやるからな」
店の中から聞こえたその言葉……、元の世界でも聞いたことのある単語だ。認識が合っているなら、非常に便利だが使い方一つで人類を滅亡させる力にもなる技術のはずだが。
「……ヤマトくん、腰を折るようで申し訳ないんだけど少しリットリオさんの話を聞いてから出発するようにしない? 少し確認しておきたいことがあるんだ」
だが、どうやらハルナも同じようなことを考えていたようだ。別に直近に迫っている予定もないし少しぐらい構わないだろう。……それに、この話を放置しておくのは少し危険な気がするしな。
***
「君たち、また戻ってきてどうしたんだい? アタシが作った装備に不具合でもあったのかな?」
別れたはずの集団が入り口の扉を開けて入ってきたことに、キョトンとした表情をするリットリオ。だが、今回の要件は装備に関することではないんだ。
「そういえばリットリオさんがネクスコア鉱石を探していた理由を聞いていなかったなと思いまして……。何かアドバイスもできるかもしれないですし、よければお話を聞かせてもらってもいいですか?」
「ふむふむ……。確かに君たちには話していなかったね。いいだろう、アタシが今作ろうとしているのは蒸気機関を超える新発明「原子力」だ。大気を漂うマナ原子にエネルギーをぶつけ、疑似的に精霊の力を産み出す。君たちとの会話の中で着想を得たわけだが、どうだい、すごい技術だろう」
ハルナの質問に対し、得意気かつ自信満々に新発明について答えるリットリオ。どうやら、扉の外で聞こえた単語に間違いはなかったようだし、……その中身も想像と大きく外れる物でも無かった。そして、そのまま彼女の話は続いていく。
「アクイラ君の話によると、精霊は生物の排泄と同じように、取り入れたマナ原子からエネルギーを取り出し、別の形にして体外に放出しているという。だからアタシは、人為的にマナ原子の構造を変化させ、疑似的に精霊の力として利用しようと考えたって訳だ。マナ原子は目に見えないからゴミ置き場も問題にならないし、その構造が変化したマナ原子も精霊たちがうまく取り入れてくれるだろうから循環機能にも問題ない。なんて最高の技術なんだ!」
一息に新発明の説明を言い切ったリットリオだったが、その説明に一番最初に意見を述べたのは、俺でもハルナでもなく、この中で一番精霊について詳しい少女だった。
「待ってくれなんだぜ! マナ原子と精霊との関係性は、簡単に人間が入っていい領域じゃない……。その循環機能は、奇跡的なバランスで成り立っているから、予想外の構造をしているマナ原子を精霊は取り入れることなんてできないし、それを元の形に戻すなんてもってのほかなんだぜ」
普段は天真爛漫や自由奔放と言った言葉の似合う雰囲気を醸し出しているアクイラが見せる本気の口ぶり。嫌でもその重大さが伝わってくる。
「……ほう、アクイラ君がそう言うのなら一考の余地があるのかもしれないね。だが、いくつか疑問点が残るのも事実だ。アタシとしても、ある程度納得してからではないと、この世界を変える新発明の開発中止は宣言できないな」
意見の対立した二人の間で、お互いを納得させあうための議論が交わされる。口調は決して攻撃的なものではないが、その真剣さは雑談とは決して言えないものだ。
「まず、原子力を実用化できれば文明は250年ほど進み、世界中の人々の暮らしが非常に豊かなものになるはずだ。それほどの技術である以上、自然の摂理に踏み込むリスクを負う価値はあるとアタシは思うんだ。そして、君は循環機能に問題が起こると言っていたが、仮に問題が発生すれば、原子力に使用したマナ原子は循環から外せばいいと思っている。マナ原子は大気中に山ほどあるという話だし、多少無くなったところで、精霊たちの生命活動に影響はないだろう。適当に集積場を作り、そこにまとめておけばいいと思うのだがね」
「そうだな、アンタの言うことも一理あるんだぜ。その発明が普及すれば、世界中のみんながボクみたいに火や水を自在に操れるんだぜ。だけど、マナ原子のプロフェッショナルである精霊の声が聞こえるボクでもたまに加減を間違える時があるのに、素人が使って事故が一切起こらないとは考えられないぜ。そして、使用済みマナ原子についてだけど、廃棄は絶対にまずいと思うんだぜ。ボクですらマナ原子の構造を完璧には理解できていない以上、未来に生きる人たちがその内容を━━ましてや大きく構造が変化した使用済みマナ原子を適切には扱えないと思うんだぜ」
お互いがお互いの考えを数ラリーぶつけ合う。それぞれ、納得できるところもあるのか、全否定することはなく会話が進んでいくが、それでも両者一歩も譲らない。だが、アクイラのある言葉によって、議論の風向きが大きく変わった。
「そして何より、この原子力っていうのは強大、……いや、強大すぎる力なんだ。現状精霊の力を使えるのはエンターテイナーの加護を持つボクだけだろう? それでも、今まで見てもらったとおり、ボク個人ですら世界の常識を超えた行動ができるんだ。それを、世界中の人が精霊の力を使えるってなると、……間違いなく争いに使われるんだぜ」
争い。その言葉を聞いたリットリオは大きくため息をつき、……答えた。
「ふぅ、完敗だよ。少し懸念していたこの新発明の問題点を的確に答えられたね。それに、争いに使われる可能性からは、意図的に目をそらしていたんだ。世界中のみんなが、君たちみたいに正義の心を持っているわけじゃない以上、センミンノハコニワ━━いや、センミンノハコニワより凶悪な野望を持つ人間に悪用される可能性は、絶対に排除しておかなければいけなかったね。……残念だが、この新発明は世界が追いつくまでお預けとしようか」
自分の発明品を一般市民に無償で提供しているような女性だ。言うまでもなく争いの火種を作ることを嫌う性格であることは間違いない。
「だから、代わりと言っては何だが、もう一つ考えていた発明にネクスコア鉱石を使うとしようか。こちらは小型の道具だから1日もあれば完成するだろう。アタシの名前で宿は予約していいから、一泊して明日また来てくれ」
アクイラとの話し合いの結果、リットリオは原子力ではない別の何かに新しく手に入れた素材を使うみたいだ。明日まで時間がかかるとのことだが、店から出る前にハルナが一言告げる。
「分かりました。……実は私たちのいた世界にも、リットリオさんが考えていたものと似た技術があったんです。ずいぶん技術レベルの進んだその世界でもアクイラちゃんが言っていたような問題点が浮き彫りになっていました。だから、リットリオさんの選択は間違っていなかった……と思います」
「なになに、そこまで気にしていないから大丈夫だ。もう、アタシの視線は新しい発明に向いているのさ。深く考えずに、君たちは明日見られるアタシの新発明を楽しみにしてな!」
「行った、行った!」という感じで、リットリオに押し出されるような形で俺たちは店から出た。俺たちには何が正解かなんて分からない、けれどこの選択が最善であったと願うばかりだな。




