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シックスティーン・セレクテッド ~MBTI冒険記~  作者: 有馬 潤哉
第六章 「再来の王都レオパルト」
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第四十話 「頂上、そして下山」

「うわー! すごいんだぜ! こんな景色初めて見たんだぜ!」


6時間程度の長旅を終えた俺たちを待っていたのは、標高3500mから見える広大な景色だった。はるか遠くまで地上を見渡せるその光景には、俺たちが今まで訪れた街々がぼんやりとだが映っている。


「こ、これがネクスコア鉱石……! これさえあれば、この世界の技術レベルが数段階は進むぞ!」


だが、そんな絶景を楽しんでいる俺たちとは裏腹に、リットリオは石碑のように山頂に佇んだ鉱物を、バッグから取り出した手のひらサイズのピッケルで丁寧に採掘する。その驚異的な集中力は周囲の物音を完全にシャットアウトしているようで、俺たちが話しかけても反応はなさそうだ。彼女の作業が終わるまでは、邪魔しないほうがよさそうだな。


「ヤッホーーーーー。……ボクの声量じゃ足りないな。ティルピッツ、手伝ってくれなんだぜ!」


「ぼ、僕!? そんなに声には自信がないけど……」


山といえばの行為をしている二人を横目に、残された俺とハルナは、ぼんやりと眼下に広がる絶景を眺める。だが、どこかデジャブを感じる光景だな。


「この景色、元の世界で国内最高峰の山に登った時を思い出すね」


「俺も同じこと思ってた。あれって何年前だ?」


「う~ん、確か中学に上がるちょっと前じゃなかったかな?」


「もうそんなに経つのか……。あの山とそう標高も変わらないけど、当時ほど疲れを感じなかったのは俺たちも成長してるってことなのかな」


「7年ぐらい経ってるもんね……」


「そうか……。頂上が近づくにつれ、「疲れたから手を引いて」って手を繋いできたあの頃から7年か」


「……っ、もう! あの時は部活始める前だったから体力が無かったの!」


からかうような俺の言葉に、顔を赤くして反論してくるハルナ。だけど、コイツとの付き合いも17年か……。家族ぐるみの付き合いだったもんな。……そう、家族ぐるみの。


「……思い出話してたら、お父さんとお母さんのこと思い出しちゃった。二人とも元気かな……」


だから、ボソリとハルナが呟いた言葉に登場する彼女の両親のことだって知っている。……もちろん、ハルナだって俺の両親のことを知っているだろう。


「……そうだな。早く元の世界に戻って無事な姿を見せてあげないとな」


思い出話の中で改めて家族のことを思い出した。……今日の探索の目的だって、強力な武器を手に入れて指揮官を倒すため━━元の世界に戻るためなんだ。長い付き合いの幼馴染との会話の中で決意を新たにしたタイミングで、世界から隔離されていたリットリオの歓喜の声が聞こえてきた。


「やったぞー! ほぼ完璧な状態で取り出せた、さっすがアタシ!」


そんな彼女に視線を向けると、両手を使ってやっと持てるサイズの青白色をした鉱物を頭上に掲げていた。遠目にはなるが、欠けや退色は見られず鉱物そのままの状態だと言っても過言ではないだろう。


「君たちのおかげでここまで来れたよ。さて、今度はアタシが君たちの願いを聞く番だな。さっさと下山して街に戻ろうか」


これで、今回の最大の目的を達成できた。役に立てたようで何よりだ。……役に立てたかな?


そうして、俺たちはリットリオの持つGPSの示す通りに元来た道を下山するのであった。


***


「グゥ~」


頂上を出発して小一時間が経過したタイミングで、誰のものか分からないお腹の音が鳴った。


「そういえば昼食を食べていなかったね。少し休憩としようか」


リットリオの言葉通り、時刻は13時過ぎを示しており、お腹の虫が騒ぎ出してもおかしくない時間となっていた。目的の物は手に入れられたわけだし、ここで一息つくのもありかもしれないな。だけど、俺たちは食料を持ってきてないぞ。


「でも、どうする? 獣でも狩るのか?」


「アタシ一人ならそうするんだが、今回は君たちもいるから携帯食料を持参しているよ。ほれっ」


そう言ったリットリオは俺たち4人に向かって、ブロック状の携帯食料を投げてきた。


「それは、1本で1日分の栄養素が補給できる携帯栄養食料「キャリーメイト」だ。発明に集中したいときは数日それしか食べないが、問題なく体は動くぞ」


どこか見覚えのある携帯食料は、1本で1日分の栄養素が補給できるという優れもののようだ。味にはいくつか種類があるのか、全員バラバラの色をしており、俺が受け取ったものは果物の香りがするフルーティーなものだった。


「お菓子みたいでうまそうなんだぜ。じゃあ、いただきまーす!」


全員ほぼ同じタイミングでかぶりついたわけだが、その誰もが微妙な顔をしていた。あれほど期待をもっていたアクイラでさえも……。


「なんだこれ! 果物と肉とパンの味が混ざった感じでとんでもない味なんだぜ! 食えなくはないけどさ」


アクイラの言う通り、渡された携帯食料はとにかく栄養素のあるものを詰め込みましたという感じで、肉に魚に野菜や小麦、果物に乳製品と様々な風味が主張しあう凄まじい味をしていた。かろうじて食べられなくはないが好んで食べようと思うものではない。


「い、いえ……。おいしいですよ! ゴホッ、ゴホッ」


「そ、そうですよ! ハルナさんの言う通りおいし……、食べられる味です!」


歯に衣着せない物言いをするアクイラをフォローするように、ハルナとティルピッツがリットリオの面子を立たせる言葉を並べる。しかし、幸運なことにリットリオはそこまで気にしていない様子で、場の雰囲気は悪くならなかった。


「アッハッハ、すまないね。病気対策で香りは芳しいものにしていたが、味は万人受けとは程遠いものだったのを忘れていたよ。アタシは食べ物の味にこだわりがないから気にしていなかったが、普通の人間には酷なものらしいからな。街に着いたら、礼も兼ねて豪華な食事を振舞うから今日はこれで勘弁してくれ」


彼女はそう言うと、一息に持っていた携帯食料を飲み込んだ。その光景を見た俺も同じように完食し、腹を膨らませる。簡易的な昼食を終え、数時間の登山による疲れを回復させた俺たちは下山を続けようと歩みを再開するも……、


「な、なんだこれ!?」


それとほぼ同じタイミングで、頭上から何か白い塊が降ってきた。この色と形に臭い……、もしかして……。


「はっはっは、コガ君も不運だね。野鳥に糞をお見舞いされるとは」


俺の予想は間違っていなかった。俺の体を汚したのは不意打ちの代名詞━━鳥の糞だったようだ。


「大丈夫!? ほら、タオルだから使って」


ハルナを筆頭に、仲間たちが心配して駆け寄ってくれる。しかし、この状況だとうまく汚れが落とせないし、タオルで拭く前に水で洗いたいな。


「ありがとうハルナ。でも気持ちだけ受け取っておくよ。まずは水浴びがしたいぜ。……でも、どこのどいつか分からないが次会ったら容赦しねえぞ」


「確かにその臭いだとアタシたちも困るからね。オトサ君を水源に設定しておくから少し寄り道と行こうか」


汚れの元凶に怨嗟の言葉を吐く俺の隣では、リットリオが新たなルートを開拓してくれていた。時間も余計にかかるわけだし感謝しかないな。


「助かるよ。でも寄り道させてしまって申し訳ない」


「心配いらないですよ! 汗ばんできたし、僕も水浴びしたいところだったので」


「そうだね。私も着替えたいなと思っていたから気にしないで!」


俺の言葉にフォローを入れてくれる仲間たち。その気遣いに感謝しながら、俺たちは少しルートを外れ、水浴びのできそうな水源へと寄り道をすることとした。

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