表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シックスティーン・セレクテッド ~MBTI冒険記~  作者: 黒潮 潤
第一章 「異世界生活初日」
4/29

第四話 「覚醒」

「ここまで来れば安全か……。大丈夫か、ハルナ」


MBTI二人が謎の侵入者と交戦してくれているおかげで、俺たちのような一般人でも、逃走経路は比較的容易に確保することができた。ザっと見たところ、逃げ遅れた人もいなさそうだ。


「凄いね……、あれがMBTI同士の戦闘なんだ。私たちのいた世界では信じられない光景だね……」


ハルナの言う通り、数百メートル目前ではおよそ人間同士のものとは思えないほど激しい戦闘が繰り広げられている。これだけの距離があっても兵器のような音が聞こえてくるぐらいだ。俺たちがあの場にいれば、ただ立っていることすらままならないだろう。


「何はともあれ、街の人々は無事逃げられたみたいだな」


改めて周囲を見回すと、若いカップルから幼い子供を連れた母親まで様々な人々が戦闘に巻き込まれないよう、物陰に隠れていることに気が付く。しかし、その中で衝撃的な光景が目に入った。


「ママ~、途中でお人形落としちゃったから取ってくる~」


MBTI同士の戦場から死角になる場所に隠れていたはずの少女が、突然大通りに飛び出してしまった。危険性を見誤ったのか、母親の注意を振り切り戦場のほうへと歩みを進めてしまう。……ちょっとまずいんじゃないか。


「危ないからこっちに戻ってきなさい!」


「危ない! 逃げるんだ!!」


母親とグラーフが発言したのはほぼ同じタイミングだった。硬直した状況を打破するために、侵入者は自分が壊した市壁の破片をつかみ取り投擲するという遠距離攻撃をとったようだ。その速度はさながら銃弾といっても過言ではなく、グラーフが反応できた瞬間には既に少女の目前に迫っており、もうどうしようもないのかと諦めかけた瞬間……


「私に任せて! 今ならいけそうな気がする!」


自信満々な言葉と共に、少女に向かって走り出したハルナの姿が目に入った。急な雰囲気の変化に戸惑ったが、数秒後にはその自信の根拠が明らかとなる。なぜなら、その速度は韋駄天、言葉通り神の如きものだったからだ。


「もう大丈夫だからね。これからはお母さんを心配させないようにするのよ」


ハルナはものの数秒……、いや1秒もたたない速度で少女のもとへたどり着き破片の餌食になる前に救出した。いくら運動神経のいいハルナといってもこの速度は普通じゃない。いったいどうなっているんだ?


「ハルナ! 突然飛び出しやがって……。落ち着いたら詳しく説明してもらうぞ……!」


ひとりごとのようにそう呟き、ハルナの方へ駆け寄る。ひとまずハルナが普段通り話している姿を見て彼女の無事を確認できたが、元の世界では誰も見たことのないような動きを目の当たりにして驚きが隠せない。ただ、そんな感情を抱いていたのは、どうやら俺だけじゃないみたいだ。


「……!? アノウゴキ マサカアイツモ MBTIナノカ!?」


ビスマルクとタイマンを張っている男も、突然動きが変わったハルナに意識を奪われたようで、視線を彼女の方へ向けた。だが、1秒で大きく戦局の動くMBTI同士の戦闘において、そのような一瞬の隙は命取りとなる。


「オレとの戦闘中によそ見なんていい度胸だな! これでトドメだ!」


この距離でも分かる……、隙だらけの頭部へビスマルクのハイキックをモロに受けた侵入者がその場に倒れこんだようだ。その後数十秒経過しても起き上がってこないことから、ビスマルクによるKO勝利という言葉がピッタリだろう。


「ビスマルク、よくやってくれた! これで僕たちの勝利だ!」


その光景を見たグラーフが、避難している全員に聞こえるほどの声量で勝利宣言をあげる。その声を聞き、物陰に隠れていた町の人々が続々と彼のもとへと集まり、続くように歓喜の声を上げ始めた。そんな中、喜びの渦の中心にいたグラーフはこちらに向かって視線をよこしてきた。


「だけど、今日のMVPはビスマルクだけじゃなさそうだ。そこの女の子、こちらに来てもらってもいいかな? 聞きたい話もたくさんあるしね」


確かにそうだった。勝利の歓喜の中で忘れかけていたが、さっきの行動について詳しく説明してもらわないと。MBTIである彼らなら何かわかるかもしれないしと、俺はハルナにグラーフのもとへと向かうよう促す。


「分かった。とりあえず行ってみるね。……ただひとつわがままを言わせて……、私から見えるところで見守っていてほしいな」


「分かった。俺でよければ」


さっきの戦闘の影響か、ハルナからは疲れの表情が伝わってくる。何も分からない異世界に飛ばされただけでなく、唐突に戦闘へ巻き込まれたりした以上、こうなってしまうのも当然だろう。俺で力になるかは分からないがそのくらいお安い御用だ。


「さっきはありがとう。君のおかげで大切な命を1つ救うことができたわけだが、聞きたいことが山ほどあるよ。だから、まずは名前を教えてもらってもいいかな?」


「分かりました。私の名前はナグモ ハルナ。スミノエ学園2年生です」


群衆の中心へと向かったハルナは、緊張しながらもハキハキと自己紹介を行う。ただ、周囲からは「名前がふたつなんてこのへんじゃ聞かないね? スミノエなんてはじめて聞いたし、旅人さんかな」や「黒い瞳の人間は初めて見たぜ」というような珍しいものを見るような声ばかり聞こえてきた。……その反応を見て改めて異世界に来たことを実感する。


「ナグモ ハルナか……、珍しい名前だね。まあ、何はともあれ君のおかげで助かったんだ、まずは感謝の言葉を述べておこう」


街の人々と同様の感想を抱いたグラーフが感謝の言葉を皮切りに話を紡いでいく。


「……ではここから本題に入るとしよう。さっきの君の動きから考えるに、MBTIだと思うのだけれど君の加護について聞いてもいいかな? MBTI同士、これから先また会うこともあるだろうし詳しく知っておきたいんだ」


やはりそうだよな……、俺も同じことを考えていた。さも当然のようにハルナをMBTIと認定しているが、あんな超常的な動きを見せつけられた以上そう考えるのが普通だろう。この世界から元の世界に戻るのならばハルナがMBTIになったことは最高の武器となるけれど、俺はMBTIになれなかったのかという残念な気持ちも感じてしまう。


「MBTI……、やはりそうですよね。目の前の子供を助けなきゃって思った瞬間に本能的に自覚したんです、私は【運動家】の加護を使えるんだって……。そして、その加護は人知を……」


グラーフの言葉に促される形で、ハルナが加護の詳細を話そうとした瞬間、緊張と疲れが限界に達したのかその場に倒れこんでしまう。


「ハルナ、大丈夫か!?」


その光景を目前にした俺の体は考える間もなく飛び出していた。聴衆を掻き分け、意識を失った彼女を抱きとめる。


「みなさん、俺はコイツの幼馴染のコガ ヤマトといいます。実は今日すごく大変な一日でして……。この街の英雄である彼女に聞きたいことはたくさんあると思うんですが今日の所はお開きにしてもいいでしょうか?」


「もちろんだぜ、英雄にゆっくり休息を与えてやってくれ。よしみんな、俺たちは壊された街の復興に努めないとな」


目の前で街の英雄が倒れる光景を目の当たりにして動揺する聴衆たちだったが、規則正しい拍動を打つハルナの姿を見てひとつ胸をなでおろしたようだ。多くの人々が感謝の言葉を告げながらも自分たちの生活へと戻っていく。


「ただ、すみません。グラーフさんたちはここに残ってもらえますか? 聞きたいことがたくさんあって」


だが、MBTI二人はそういうわけにはいかない。この世界について聞きたいことがたくさんある以上、こんな絶好の機会を逃してたまるか。ハルナが回復して会話ができるようになるまでここで待っていてもらわなければ。


「もちろんいいよ。僕からも聞きたいことがたくさんあるしね。僕たちでよければ相手をさせてもらうよ」


よかった、快く引き受けてもらえたようだ。あとは、ハルナが目覚めるのを待つだけだが、気絶しているというよりは眠っているという感じだし、会話ができるようになるまでそう時間はかからないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ