第三十九話 「活躍する仲間」
オトサ君を持っているリットリオを先頭に、かれこれ1時間ほど進んだだろうか。熊との遭遇を乗り越えた俺たちにもう困難は訪れないと思っていたが、不幸なことにまたしても俺たちは予想外の光景に出くわしてしまう。
「まさか、山にこんな所があるなんて思ってもいなかったよ。でもこんな場所進めないね」
ハルナの言う通り、山頂に向かう俺たちを、これまでの緑豊かな風景と一変した一寸先は闇という言葉がピッタリな薄暗い洞窟が待ち構えていた。この暗さの上、地面は歩きづらいゴツゴツとした感触である以上、このままでは怪我せず進むのは無理だろう。
「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、アタシは準備しているのですね! 見たまえ、これが携帯照明器具『てらし丸』だ!」
しかし、探索に慣れたリットリオはこんな状況も想定していたのか、背負ったバッグから懐中電灯のような形をした物を取り出した。おそらく、この形状と彼女の発言から見た目通りの性能を持つと考えていいだろう。
「これがあれば昼間みたいに明るく……、あれ点かないぞ」
だが、リットリオはてらし丸をガチャガチャ弄るだけで一向に明るくならない。どうしたんだ?
「……充電してくるの忘れたー! アタシの性格的に必ず何かを忘れるんだよな。蒸気機関は街にしか置いてないしどうしたものか」
なるほど、充電を忘れたのか。彼女の発言通り、いわゆる特定の分野に突き抜けた天才肌タイプのリットリオにはこういう事も多そうだが、……振り出しに戻ったこの現状をどう打破すべきか。
「ん? 明るくしたいだけなんだろ。それならボクに任せてくれなんだぜ。火の精霊たち、ボクたちに力を貸してくれなんだぜ!」
そんな光景の中、「なんでこんな簡単なことで戸惑ってるんだ?」という表情のアクイラが手際よく加護を使い周囲を照らしてくれた。
「さすがだなアクイラ! リットリオの発明品に気を取られていたから、何度も助けられたオマエの加護を忘れていたよ」
「ありがとうアクイラちゃん! あなたがいてくれて助かったよ!」
「このくらいお安い御用なんだぜ! 自然の中はたくさんの命が共存しているから精霊の数も多くて助かるんだぜ」
アクイラの発言通り山には精霊の数が多いのか、オオカミ討伐やフランクリンと戦った時とは比べ物にならない照度で洞窟を照らしてくれている。転がっている岩の一つ一つがはっきりと見えるこの状況なら、問題なく前に進めそうだ。
「何度見てもアクイラちゃんの加護は便利ですね。彼女みたいなサポーターが居てくれないと冒険なんてとてもじゃないけど……。僕はみんなの壁になることくらいしかできないので」
「いやはや助かったよアクイラ君。だが、改めて君の加護を見ると、精霊の力は無限大の可能性を持っていると感じるんだよな」
各々様々なベクトルからアクイラに感心しているようだ。俺とて例外ではなく、前線のフォローから治療まで様々なサポートを担ってくれる彼女のありがたみを改めて実感する。
そんなことを考えつつ、安全になった洞窟を俺たちは進んで行く。
***
いろいろありつつも洞窟を通過した俺たちだったが、それからは苦戦することなく進むことができた。人の身長ほどの段差があれば風の聖霊の力で浮かせてもらい、足場が不安定な場所は土の聖霊の力で補強してもらう。そんな感じでアクイラの加護に助けてもらいながら歩みを進めていると、気付けば空も目前に迫ってきており、あと30分ほど歩けば目的の物が入手できる場所までやってきていた。だが、山頂に近づくにつれ珍しいものが増えるのか、リットリオの足が止まりがちになる。
「見たまえ! あの植物はアタシランクでBランク、あっちの木の実はアタシランクでAランクだ! ここは素材の宝庫じゃないか!」
興奮気味に話すリットリオは、俺には街に転がっているものと同じにしか見えない素材を次々にバッグへとしまっていく。だが、手際よく動いていた彼女の手が、あるものを目の前にしてピタリと止まった。
「あ、あれはアタシランクでSランクのミラージュパピヨンの群れじゃないか! なんとしてでも捕まえたいが……」
そこには、虹色に輝く蝶が群れを成して佇んでいた。これに関しては、昆虫に詳しくない俺でも一目で希少だと分かる様相をしており、何としてでも捕獲したいリットリオの気持ちも分かる。
「だが、ミラージュパピヨンは臆病ですぐ逃げる上に、その速度も速い。アタシの動きでは絶対捕まえられないな~。……チラッ、チラッ」
なぜ、蝶を目の前にして手が止まったのかと思えばそういう事か。あからさまにこちらに視線を向けているし、捕獲してほしいとのことなんだろう。俺に任せたまえ、今日はみんなに活躍の場を奪われてきたから、ここらでカッコいいところ見せてみせるぜ!
「そういうことなら俺に任せるんだな。起業家の加護で筋力を強化した俺の速度をとくとご覧あれ!」
リットリオから捕獲用の網を受け取り、捕獲のタイミングを伺う。……よし、今だ!
「でやぁーー!」
脳のリミッターを外すことで強化した集中力と筋力を使い、勢いよく網を振り下ろす。タイミングも理想通り、これはもらった! しかし……、
「コガ君、殺気を見せすぎたね」
早いタイミングで気付かれたのか、俺が振り下ろした網は空を切るだけの結果に終わった。逃げたミラージュパピヨンはゆらゆらと空中を漂い逃げていくかと思ったが、運よく数メートル先にある別の花に止まった。
「じゃあ、次は私に任せてもらおうかな。私は速度に特化した加護だからヤマトくんほど殺気は出さないはず……」
いいところを見せるつもりが情けない結果に終わってしまいへこんでいたところ、隣から威勢のいいハルナの声が聞こえてきた。
「じゃあ俺の仇を頼もうかな。ほらっ、網だぞ」
一瞬、分身まで活用しての再挑戦も考えたが、また同じ結果になることが目に見えているので、おとなしくハルナに託す。頼むぞ。
「じゃあ頼まれます。そっと近づいて、……えいっ!」
網を受け取ったハルナはそろりそろりと蝶に近づき、……手に持ったものを振り下ろす。運動家の加護を全力で乗せたその一撃は相手に逃げる隙を与えることはなく、網の中にキラキラと輝く蝶が漂っていた。
「ナグモ君! よくやってくれた! これがあれば考えていたアイデアをすべて試せるぞ!」
その姿を見たリットリオは大声で喜びの言葉を挙げながら網の中の蝶を虫カゴの中へ移す。その瞳は捕獲した蝶以上に輝いており、よっぽど手に入れたかったのだろうことが想像できる。
「それならよかったです。虫取りなんて、小学生になる前にヤマトくんとやったっきりだから不安だったけど無事捕まえられてよかった~」
そんなリットリオの喜びの表情を見たハルナは、歓喜と安堵の入り混じった口調で一息ついていた。リットリオ曰くSランク素材とやらを一匹も逃がすことなく捕えたのは、お世辞でなく本当にすごいと思う。……本当は俺が捕まえたかったけど。
「いや~、予想外の収穫もあり有意義な探索だけど、本来の目的を忘れないようにしないとね。アタシのワガママで時間を取らせちゃったけど、もう寄り道せず山頂に向かうぞ~!」
あらかた欲しいものは手に入ったのか、リットリオは素材採取用の道具をすべてバッグの中に仕舞い、登頂を再開する。もう頂上までは数十分といったところだろう、気持ちを切り替えて使命を果たすとしよう。




