第三十七話 「いざ、素材集めへ」
リットリオの息がかかった宿屋に泊まり(自分の発明品はみんなに提供しているようで、街の人々は彼女に協力的みたいだ)、束の間の休息をとった。大都市であるレオパルトの中でも突出して豪華だった宿屋は、馬車での長旅の疲れを癒すには十分だった。
「やあやあ、君たちのことを待っていたよ」
約束の時間に約束の場所に向かうと、昨日と雰囲気の違うリットリオの姿があった。タンクトップとカーゴパンツを纏った彼女は、なんかこう……凄かった。着痩せするタイプなのか昨日は気付かなかったが、このような服装をすると出るところはしっかり出ている女性らしい体つきがものすごい目立つ。……お腹はちょっと出てるけど。だがまあ、そんなグラビアアイドル顔負けの体格をしている彼女に視線が向いてしまうのは自然なことだろう。……ヤバい、ハルナが鬼も殺せるような目つきでこっちを見てる。
「リットリオさん! 上に何か羽織りましょうか! その……、半袖だと怪我してもいけないですし」
「ナグモ君の言うことももっともだね。機動性を意識するならこの服がいいけど、今から行く場所は虫もたくさんいるから長袖を羽織ろうかな」
おそらく、俺とティルピッツへの牽制も込めてか、ハルナはリットリオに着替えるよう促す。素肌の露出が多いとその分危険も増すし、その判断が最適だろう。……決して残念ではないぞ。
「そ、そろそろ行こうか。少しでも探索の時間を増やすほうが素材集めにはいいしな。ちなみに、どこへ行くんでしたっけ?」
険しい雰囲気を断ち切るために、話題を変える。そういえば、どこに向かうかも聞けていなかったし心の準備のためにも確認しておかないと。
「おや、まだ伝えていなかったかな。今からクロムウェル山に向かい、その山頂にあるネクスコア鉱石を取りに行くんだ。24時間弱あれば到着する場所にあるんだけど、あまり人が踏み入れない土地だから未知の野生動物とか居そうだし、同行してくれる人を探してたんだよね」
未踏の山に、未知の野生動物か。魔物のいないこの世界において、戦闘技能習得手段は限られているからいい経験になりそうだ。
「おぉー! 見たことない生き物か! 早く行こうなんだぜ!」
「待たせてしまってすまないね、アクイラ君。それでは馬車を呼んでくるから少し待っていてくれたまえ。なに、そう時間はかからないさ」
話の区切りがいいタイミングで、リットリオは受付の方へと向かう。俺たちは心の準備をしつつ待っていようか。
***
リットリオが用意してくれた馬車は、外観は普通だが、機能性は今まで俺たちが乗っていたものとは桁が違うものだった。実際に乗り込んでみると、まず座席の違いに気づく。乗り心地を考えた移動時の衝撃を殺すような構造は、長旅だろうと疲れがたまらないようなものであり、万全の状態で目的地に迎えることが容易に想像できる。そして、壁は二重構造になっており、暑い季節は外からの熱を遮り、寒い季節は熱を逃がさない気温面での快適さも備えているようだ。そして、極めつけは人為的な温度調節機構だ。温度をあげるための炭壺や、逆に下げるための氷壺が常備されている馬車なんてこれまで見たことがない。おそらくこの様子だと凄まじい額をつぎ込んだ馬車なのだろう。
「それじゃあ行こうか。運転手君、頼むよ」
全員が着席すると同時に、リットリオによる出発の号令が出される。この様子だと、運転手も超一流なのだろう。
「さて、到着まで時間があるわけだが、改めて君たちのことを聞かせてくれ。まずはピッツ君とアクイラ君、君たちから頼むよ」
運転も軌道に乗り始めたタイミングで、リットリオから質問が投げかけられる。最初は、生まれた時からこの世界の住人である二人からだ。
「僕の話ですか……。特別な話はあまり無いのですがどのような話が聞きたいですか?」
「何を言っているんだい。後天的に精神核を手に入れたなんて特別な話以外何物でもないじゃないか」
「でも、そのせいで生まれつき加護を持っている人のようにうまくは使えないんですよね。脳のリソースの割きかたに慣れないというか」
「なるほど。そういうことなら君には武器じゃなくて、加護をサポートする装飾品がよさそうだ。君の肉体を見る限り、武器は拳という感じだしね」
リットリオは、自身のアイデアをより鮮明なものにすべくティルピッツとのコミュニケーションを取っているようだ。そしてその内容は、より彼の加護について深堀するものへと移り変わっていく。
「君の加護は思考予知といったね。話によると現在の姿と予知した姿がダブって視えるとのことだけど、感覚としてはどんな感じなのかい?」
「言葉で表現するのが難しいのですが、相手が取りうる行動が影のような形で視界に飛び込んでくる感覚です。可能性が高い行動ほど鮮明に見えて、低い行動ほど薄くなる。それが2、3パターン同時に視えるんですよ」
「なるほど……。少し想像が難しいが、何とか考えてみるよ」
ティルピッツとの会話を終え、リットリオは思考をまとめるように目をつぶり、大きくまばたきをした。そして、今度は体をアクイラの方へ向け、二人目への質問タイムに移る。
「さて、次はアクイラ君なわけだが、実は、君に作る装備は既に決めてある。精霊融和の加護を持つ君にピッタリな聴覚を強化できる装飾品、いかがかな?」
「おぉー! それなら、遠くの聖霊ともコンタクトが取れてより強い力が出せるんだぜ!」
「そう言ってもらえて何よりだ。おおよそアイデアは固まっているから期待してくれたまえ」
ティルピッツの時と違い、アクイラに造る装備品はもう決まっていたようだ。とんとん拍子に話が進み、俺たちの番が回ってくるかと思ったが、話はまだ続くようだ。
「だがアクイラ君、君に聞きたいことは他にあるんだ。精霊について詳しく教えてほしいんだがいいかね? いったい彼らは何者なんだい? そもそも生き物なのかい? もし生き物なら何を食べているんだい?」
自身の知的好奇心を満たすような話題となり、リットリオ本来の姿が若干顔を見せ始める。だが、アクイラは自分の友人たちに興味を持ってもらえて嬉しいのか、饒舌に精霊について話し始めた。
「精霊についてならボクに何でも聞いてくれ! この世界には、火、水、風、土の精霊がいるんだけど、すべての自然現象は彼らによって引き起こされるんだぜ。一応彼らにも寿命があるし、エネルギーとして外からマナ原子を取り入れるから生き物だと思うんだぜ」
「ほぅ、マナ原子といったね。それが精霊のエネルギー源になっていると考えていいのかな?」
「そうなんだぜ! マナ原子は4精霊の間で形を変えて循環している、彼らが力を発揮するためのエネルギー源だ!」
「……大気中に何かしらのエネルギー源があるとは思っていたが、マナ原子というものなのか。ふむふむ」
「これでよかったのか?」
アクイラから精霊についての話を聞き、目をつぶりウンウンと自分の世界に入り込むリットリオ。話の中で何かひらめいたのか、周囲の声が聞こえなくなるほど集中しており、再び開眼するまで数分の時を要した。
「ありがとう。君のおかげでアイデアが閃きそうだよ」
思考がまとまったのか、リットリオは大きく目を開けアクイラに感謝の言葉を告げる。ともすれば、次は俺たちか。
「では、最後にコガ君、ナグモ君、君たちの番だ。君たちには、加護のことなんかより聞きたいことがある。ズバリ、君たちがいた世界について教えてくれないか? 蒸気機関より進んだ技術とは一体どのようなものなんだい?」
案の定、リットリオは目を輝かせながら俺とハルナに向けて質問を投げかけてくる。だが、俺には難しい科学のことなんて分からないぞ。
「そうですね……。私も専門家ではないので父からの受け売りにはなるんですが……」
そんなタイミングでハルナからの助け舟が出される。そういえばアイツのお父さんは電力会社の社員だったな。地頭もいいし、ここは彼女に任せよう。
「元の世界では、エネルギー生産に目に見えない粒子を活用した技術を使っていました。それは、莫大なエネルギーを持つ鉱石に、その粒子をぶつけてエネルギーを取り出す技術で、蒸気機関より効率よくエネルギーを取り出せるんですよ」
「目に見えないものをどうやって使うんだい? それに、目に見えないような粒子が莫大なエネルギーを産み出せるというのも信じがたいな」
「小さいものを拡大できる道具が発明されたので、正式には肉眼では見えないという意味ですね。そして、確かにひとつひとつは小さいのですが、この反応は連鎖的に起こるので気付けば凄まじい値に! というわけなんです」
「非常に興味深いな。……だが、蒸気機関でも凄まじいエネルギーを作り出せると思っていたが、君たちのいた世界では何にそれほどのエネルギーを使っていたんだい? 用途があるからこそ、それほどの技術発展に繋がったのだろうし」
「そうですね……。一番はモノの大量生産ですが、最近では瞬時に世界と繋がれる道具がエネルギー需要を満たしてますね」
「知ってるんだぜ! スマホだろ!」
二人の会話に、待ってましたと言わんばかりの様子で割り込んでくるアクイラ。そういえば、以前スマホについて話したことがあったし、知っている話題になって嬉しくなったのだろう。
「アクイラちゃん正解! 実際はスマホ以外にも色々あるんですけど、最近の主流はスマホでしたね。世界中の情報を瞬時に入手出来たり、遠くにいる人といつでも会話できるこの道具によって世界が大きく変わったんです」
「なるほど、世界中の情報か……。これは送る側にも受け取る側にも道具が必要だから数をそろえるのが難しい。だけど、限られた相手との会話アイテムなら…………。ナグモ君、貴重な情報をありがとう」
ハルナの言葉に対し数刻思案した後、リットリオの言葉によって会話が閉められる。
「コガ君は……、いいや。君の主人公の加護とやらには少し興味があるが、先ほどのナグモ君の話以上には知的好奇心を満たせなさそうだ。片手剣という分かりやすい武器がある以上、造る装備に迷うこともないし、君の話はまた後日にしよう」
次は俺の番かと少し覚悟していたが、肩透かしを食らう回答が返ってきた。……えぇ~、俺にも話聞いてくれよ、なんか除け者みたいじゃないか。
「さて、話も一区切りついたし、明日に備えてゆっくり休むとしよう。探索が長引けば、明日以降野宿になるので疲れを取っておきたまえよ」
そんな俺の思いとは裏腹に、各自休息の時間へと移っていく。……探索ではカッコいいところ見せてやるからな。




