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シックスティーン・セレクテッド ~MBTI冒険記~  作者: 有馬 潤哉
第五章 「決戦 シャーマン」
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第三十三話 「倒すべき敵」

「おい主人公。ここで逃がすわけにはいかねぇなぁ。俺の野望のため、……そして仲間たちの復讐のためお前にはここで死んでもらうことにする」


洞窟の外から二人の人物が俺たちの帰還を妨害しにきた。低い声で俺たちに殺害予告をしてきた全身をケープフードで覆った男と、厚手の鎧を身に纏い背中には多種多様な武器を装備した男。明らかに一般人ではない雰囲気を漂わせているが、一体何者なんだ? それに、どうしてそんなに俺たちを敵視するんだ?


「はいそうですかって言うわけないだろ! オマエたちは一体何者なんだ!」


「……そういえばこの姿をお前たちに見せるのは初めてだったな。俺は【指揮官】の精神核保持者でMBTI、そして……選民ノ箱庭のボスだ」


……指揮官!?


「……ヤマトくん、聞いた?」


ハルナも同じことを思っていたようだ。ヤツのその言葉を裏打ちするような根拠はないけれど、わざわざ悪名高い選民ノ箱庭を騙るメリットもないし、おそらく俺たちの倒すべき人物その人だろう。


「その指揮官サマがどうして俺たちを狙う?」


「……【指揮官】が【主人公】を殺す。その行為に意味があるから持っている精神核ぐらいは教えてやったが、それ以上は伝える道理もない。……なに、お前たちの命もあと数分だ。詳しく知る必要もないだろう。ネルソン、後は頼んだぞ」


「……御意」


ネルソンと呼ばれた鎧の男が背中に背負った大剣を抜き、こちらに全力の殺意を向けてくる。俺たちの命を狙う理由は分からなかったが、このままではヤバイことは分かる。


「ヤマト、あいつヤバいオーラビンビンなんだぜ」


「ヤマトさん。彼からは凄まじい戦闘力を、……兄さん以上の戦闘力を感じます」


俺だけでなく仲間たちも同じことを感じたようだ。身長を超えるほどの大剣を構えるその姿は、この世界で見た誰よりも強大に見える。


「……みんな疲弊してるし、今一番戦えるのは私だよね……。……私に任せて」


隣にいた俺にギリギリ聞こえるくらいの声量で、ハルナがそう呟く。……そして、俺たちが返事をする間もなく、……駆けた。


「……貴様は主人公と共にやってきたという運動家か。……お手並み拝見と行こう」


その超常的な速度により、移動のプロセスを目で追うことはできず、ただ一瞬にしてハルナが距離を詰めたという結果だけが視界に写った。


「私だってずっと修行してたんだ! ヤマトくん達だけにいい格好はさせないよ! 蜻蛉一閃!」


そして、その勢いを殺すことなくハルナは敵の周囲を高速で旋回する。逃げ場を奪いつつ、一瞬の隙を見つけて攻撃するこの技は、罠にかかった獲物を喰い殺すアリジゴクを彷彿とさせる。


「……今よ! ヤァーーー!」


ここというタイミングがあったのか、ハルナは渾身の一突きを繰り出す。鎧の隙間を狙うため、文字通り敵の喉元に剣先を突きつけたその一撃は、ハルナの思惑通りの軌道で牙を向けた。しかし、


「……面白い技だが練度が足りんな」


敵は体を少し動かし、身に纏った鎧でその攻撃をはじき返す。金属と金属がぶつかる激しい音からは、ハルナのレイピアか敵の鎧のどちらかが欠けてもおかしくない衝撃だったことが伝わってくる。


「……それでは反撃するとしよう」


その衝撃により体勢を崩したハルナへ追い打ちをかけるように、大剣による攻撃が打ち込まれる。鈍器とも呼べそうな武器から繰り出された一撃は、ハルナの体を数十メートル後方に吹き飛ばすには十分な威力だった。


「う、うぅ……」


「ハルナ! 大丈夫かなんだぜ!?」


その姿を見たアクイラは、回復のためにハルナに向かって駆け出す。あの様子を見る限り、そんなすぐに戦線復帰できるとも思えないし、俺とティルピッツの二人で戦線を維持するしかないな。


「……ヤマトさん、ここは僕に任せてください。アクイラちゃんの応急手当で少しは回復しましたし、ヤマトさんよりは体力が残っている……はずです」


応戦するために足を踏み出そうとした俺を腕で制止し、ティルピッツは我先にといった様子で敵へと一歩ずつ近寄っていく。


「お、おい!」


「心配しないでください。僕だってMBTIの端くれなんです。惨めな姿は見せないつもりですよ」


俺の声かけに反応することなくティルピッツは歩みを進め、気付けば敵との距離は近接攻撃が難なく命中する距離まで詰まっていた。


「鎧の騎士サン。大剣に斧にたくさんの武器を持っているみたいだけど、それは見せかけですか? その力を見せてくださいよ」


「……安い挑発だな。……だがいいだろう、その挑発に乗ってやる」


らしからぬ嫌らしい口調で敵を煽るティルピッツ。どうしても受け身がちになる思考予知の加護をうまく使うための技法だろう。ただ、思惑通り挑発には乗ってくれたみたいだぞ。


「……ほう、避けるか。……さすがは領事の加護と言ったところだ」


領事の加護をうまく使ったのだろう、ティルピッツは完璧なタイミングで攻撃を避けきった。だけど、……なぜ加護のことを鎧の男が知っている? 


「……!? こちらの手の内は割れているってわけですか」


「……我々も仲間がやられているのでね。……技量も把握できたところで終わらせるとしよう」


ランドルフを倒して1週間程度だというのにもう情報をつかんでいたのかと、選民ノ箱庭の情報収集速度は侮れないことを再確認する。……そして、その口ぶりから察するに、主人公の加護を含め俺たちの持つ加護については筒抜けになっていると考えたほうがいいだろう。


「……フンッ!」


「……ギリギリなんとかっ! ……!?」


敵は手に持った大剣を下から斬り上げる。先ほどよりも速度も威力も上がっているが、ティルピッツに避けられないものではなかった。


「……甘いな、本命はこちらだ。避けきれるかな」


しかし、敵は空を切った大剣を勢いのまま空に放り投げ、空いた手で背中に抱えた丸太のような戦斧を掴み……新たな獲物で渾身の水平斬りを繰り出した。先ほどの斬り上げと合わせた上下左右逃げる場所のない十字攻撃は、予知できたとしても避けられるものでなく、ティルピッツは最後の一撃をモロに受けてしまう。


「……っ、頭では分かってても体が……」


呻き声をあげながらその場にうずくまるティルピッツ。


「……もう邪魔者はいないだろう。……主人公、次は貴様だ」


そんなティルピッツにとどめの一撃を差されなかったのは不幸中の幸いだが、残ったのはサポート向きのアクイラと俺のたった二人だ。……やるしかない。


「仲間たちが休む時間を与えてくれた。今ならアンタを倒すのもわけないぜ」


「……その威勢が言葉だけでないことを期待しているぞ」


……正直、フランクリンとの戦闘で負ったダメージは全然回復していない。脳も体も限界ギリギリだが、それでも加護を使って戦うしかない。


「期待に応えてやるよ。いくぜ!」


冒険家の加護で分身を作り出しても、武器を複製できない以上素手の俺が一人増えるだけだ。それなら、使い慣れた起業家の加護一本で戦うほうがまだ勝算がある。


「くらえ、これが俺の必殺技だ!」


間合いを詰め、必殺技である十烈紅華を繰り出す。正直なところ威力は全快時の8割程度だろうが、今の俺が頼れる最高の技で応戦する。


「……さあもっと頑張りたまえ」


しかし、そんな技は、避けられるわけでも武器で受けられるわけでもなくただ鎧の表面にはじき返されるだけだった。余裕綽々な敵の表情からは、俺の攻撃が無意味な児戯であることが嫌でも伝わってくる。だが、それでも俺は今できる全力で応戦するしかない。


「ウオオオオオ!」


「……もっと楽しませてくれると思ったが仕方がない。……ヒュウガ様が始末できるよう堕ちてもらおうか」


ヒュウガ……!? 元の世界でよく聞いた名前だが、指揮官はこの世界の住人じゃないのか!?


「……ヒュウガ様、あとは命を奪うだけです」


敵からの重い一撃を受けながらも、ギリギリの状態で最後の思考を繰り広げる。しかし、そのダメージは大きく、カツカツと遠ざかっていく足音がやむころには、俺の意識は深い闇へと落ちていた。

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