表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シックスティーン・セレクテッド ~MBTI冒険記~  作者: 有馬 潤哉
第五章 「決戦 シャーマン」
30/41

第三十話 「兄弟対決」

「兄さん。あなたの相手は僕です!」


……よし、ヤマトさんたちは行ったみたいだな。視線を目前に戻すと、改めて視界に入ってきたのは幼いころからいつも見てきた兄さんの姿。昔は心強かった僕より数十センチ大きい身長は、今は圧倒的な威圧感を醸し出している。正直なところ一人で何とかできるかというと疑問が残るけど、これは僕一人で解決しなきゃいけない問題だ。


「ガァーーア!」


動きを邪魔した僕のことを攻撃対象として認識したのか、兄さん……いや、倒すべき敵がこちらに攻撃を仕掛けてくる。その動きは1年前に旅立った時よりも精度が上がっており、さすがと言わざるを得ない。


「でも、僕も昔とは違う! 僕だってもうMBTIなんだ!」


予想以上の速度だったが、今の僕にはランドルフから託された領事の加護がある。慣れない感覚に苦戦しながらも、敵の攻撃を予知し的確に回避行動を取ることができた。だけど、身体能力まで強化されたわけではなく、即座に反撃を繰り出したりは出来ない。間を取るために少し後退するも、一呼吸する間もなく敵は持てる力のすべてをこちらにぶつけてきた。


「……!? 分身が2体!?」


あの肉体を持っているんだ。分身を使ってくることは想像の範囲内だったが、その数には驚いた。昔は1体しか分身は作れなかったはずだけど、加護が進化しているのか。


「グオオオ!」


本体と合わせ、三人による集中攻撃が僕に牙を向ける。領事の加護を実戦で使うのは初めてだ。相手が一人ならまだ何とかなっただろうけど、三人も相手にすれば行動が予知できても対応なんて出来るわけない。……ということは加護に頼らず、自分の力だけで対応するしかないのか。


「クッ、受けきるのに精一杯で攻撃どころじゃない!}


正面左右様々な角度から集中砲火が飛んでくる。分身を使わずとも村一番の強さを誇っていた肉体。実戦慣れしていない僕なんかでは、100%攻撃を受けきれるわけもなく、徐々にダメージが蓄積しているのを感じる。


「ギャオー!」


そんな防戦一方の戦闘が数分続くも、こちらからは攻撃を命中させるどころか、繰り出すことすらできておらず、客観的に見れば戦闘終了も時間の問題に見えるだろう。だけど、僕も何も考えず攻撃を受けているわけじゃない。何か状況打開の糸口があるはずだ。


「フンフン!」


……この攻撃、さっきも見たぞ。……!? ワン・ツーからの右ハイキック、これは兄さんから基本中の基本と教わったコンビネーションじゃないか。……だとしたら!


「シャー!」


予想通り次の攻撃は意識をそらすための左ローキック……兄さんから教わった通りのコンビネーションだった。……敵は本能のまま攻撃を繰り出している、これなら加護を使わなくとも予測が立てられる!


「いつまでもお前の好きなようにはさせない! 今度は……僕の番だ!」


左ローキックを完全に受けきり、反撃体制を取る。ここで繰り出す技は……、


「かかったね!」


左足を少し動かし、蹴りを繰り出すと見せかけての右アッパー。体格で劣る僕が兄さんに追いつくために編み出したもので、……これまでの人生で唯一兄さんにダメージを与えられた技だ。


「ウオオオオ!」


致命傷まではいかないけれど、無視できないレベルのダメージは与えることができた。……けど、それにより激昂状態となった敵は、分身たちを鼓舞するような雄叫びを上げ、分身たちもそれに応えるように俊敏さを増した動きを見せる。


「分身を使って畳み掛けるようだけど……、兄さんなら!」


だけど、敵が本能のまま攻撃を繰り出していると分かった今、こんな状況で何を繰り出すかなんて手に取るようにわかる。おそらく……、


「……挟撃を狙うよね!」


敵の繰り出してきた技は僕が予測していたとおりのものだった。本体と分身で敵をはさみ、前後からの挟撃でダウンを狙う。子供のころ、MBTIに目覚めたばかりの兄さんが、嬉しそうに僕に話してくれた最初の必殺技……。そして、兄さんが最も信頼していた技だ。


大陸トップクラスの戦闘能力を持つ兄さんが切り札として握っていた必殺技。モロに食らえば致命傷だろうけど、対策を練っていれば防げないものではない!


「リャーー!」


右後ろ蹴りで一体目の分身を、そしてその足を軸足として繰り出す、回転を活かした左回し蹴りで二体目の分身を屠る。……よし、起き上がってくる気配はないな。


そして、改めて正面を向くと、驚いた表情の敵がこちらを見ていた。不意打ちが不意打ちとならず、分身が伸されてしまったことに動揺が隠せないようだ。……まぁ、兄さんならそのような表情、決して見せなかったけれど。


「分身は倒した、ここから先は一対一で戦おう。……ここであなたを終わらせます」


「グルル、ガウアーー!」


僕の宣戦布告に呼応するように眼前の敵が雄叫びを上げる。この相手には僕が引導を渡さなくてはならない。……兄さん、待っててくださいね。僕がこの手で成仏させますから。


「行きます!」


距離にして数メートル、そのわずかな間合いを詰めるため走り出す。窮地に陥った、……いや、窮地に陥ったからこそ相手は真っ向勝負を挑んでくるに違いない。ピンチの時に、僕たち兄弟が兄さんの背中しか見たことがないのは、僕たちを守るため決して敵に背中を見せなかったからだ。そんな兄さんの本能に、後退の二文字は存在しないはずだ。


「グオオオオ!」


想定通り、男と男の真正面からのぶつかり合いとなる。どちらも全力を尽くした渾身の一撃だ。この一撃で勝負が決まる。


「ハアアアア!」


「ウオオオオ!」


それぞれの右ストレートが、それぞれの倒すべき敵の顔面に突き刺さる。お互いの顔から流れる血がその威力を物語る……。


だが、数秒の沈黙の後、兄さんの肉体がその場に倒れこみ、……その肉体が消滅した。そして、死闘など無かったかのように、悠然と冒険家の精神核のみがそこに零れ落ちていた。


「兄さん……、お疲れさまでした。ここからは僕に任せてください」


疲弊した肉体に鞭を打ち、精神核のもとへ向かう。僕の戦闘は終わったけど、僕たちの戦闘は終わっていないんだ。


「ヤマトさん、後は頼みます。兄さんの敵を取ってください」


兄さんの遺志をしっかりと掴み取りながら、数十メートル先でこの状況を作り出した元凶との戦闘を繰り広げる仲間たちに、心の中で檄を送る。兄さん……、僕はあなた以外にも頼れる人を見つけられました、ここからは僕たちに任せてください……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ