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シックスティーン・セレクテッド ~MBTI冒険記~  作者: 黒潮 潤
第五章 「決戦 シャーマン」
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第二十六話 「先行した二人」

「号外、号外だ! センミンノハコニワから宣戦布告が出されたぞ!」


時は1週間ほど前にさかのぼる。ランドルフの宣戦布告は大陸中に出されていた。大陸中……、それはもちろんグラーフとビスマルクの滞在していた片田舎の村━━シャーマンも例外ではない。


「チハ村、君の出身地じゃないかい?」


「そうだな、その内容を信じるなら5日後にやってくるって訳だが……。……グラーフ、この村から早馬を飛ばせばどの位で着く?」


「深夜も走り続ければ4日ほどかと」


「なら彼女の問題を解決してから向かっても大丈夫そうだな。なに、半日あれば終わるだろうよ」


ビスマルクにとっては自分の生まれ故郷に関する宣戦布告。早急に駆け付けたいであろうが、そうはできない事情があるようだ。


「というわけだ、お嬢さん。俺たちは目の前で困っている人を見捨てない。アンタの願いを聞き入れるぜ。ではさっそく山賊のアジトとやらに案内してくれるか?」


「あ、ありがとうございます! 隣の村まで来たかいがありました! このご恩は一生忘れません!」


グラーフとビスマルクが旅の途中に訪れた村、シャーマン。どうやらこの村の近隣には民を脅かす忌まわしい脅威━━山賊の悪行が蔓延しているらしい。隣の村まで来て救援を要請するほど切羽詰まっていることから、その悪行がどれほどのものなのかは想像できる。


「それでは、ご案内します。私に着いてきてください」


依頼主である容姿端麗な少女が指さしたのは、近くに見える山の中腹だった。馬車を使うと余計時間がかかりそうな険しい山道が見えることもあり、徒歩で向かうことになるだろう。幸い距離はそれほどでもなさそうだ。


「まったく君は自分勝手だな……。だけど、そんなところが気に入ったんだけどね」


ボソリとそう呟いたグラーフも含め、一行は山賊のアジトに歩みを進め始めた。


***


「ここが山賊のアジトです。中はここまでの道のりよりも複雑なので気を付けてついてきてくださいね」


数十分かけて険しい山道を歩き、アジトの入り口まで到着した一行。洞窟内にアジトを作ったのか、洞門がその入り口だった。外見は単なる中規模の洞窟に見えるが、少女の発言によると中はかなり複雑とのことだ。グラーフとビスマルクはいつ戦闘になってもいいように警戒心を高め彼女の後ろをついていく。


「なあお嬢さん。分かれ道の一つもないけど、何が複雑なんだ?」


しかし、洞窟の中は子供でも迷うことがないだろう構造をしており、とても複雑とは言い難かった。当然の疑問をビスマルクが投げかけたところ、まったく意識していなかった方向━━洞窟の奥から甲高いしゃがれ声による返事が聞こえてくる。


「イッヒッヒ、誰が自分のアジトを複雑な場所に作るかい。オモチャにいちいち教えにゃららんのによぉ」


「「……!?」」


山賊のものとは思い難い年輪を感じる声。一行は、勇み足で声の聞こえてきた方向へ向かう。すると、そこには長い白髪にしわくちゃの面容が特徴的な老人が立っていた。フラスコを始めとした実験器具が散乱したり、謎の培養液で満たされた大型カプセルが並べられたりしている状況。そして、老人の身につけている白衣や纏う雰囲気から察するに、老人が科学者の類であることは想像に難くない。


「ようこそ我がアジトへ。キミ達をどれほど待ちわびたことか」


老人はグラーフとビスマルクを視界にとらえると、歓迎の言葉を述べる。狂気的な笑みを浮かべるその表情は不気味という言葉がふさわしい。


「……そうだ、忘れていた、1436号。オマエの役目はもう終わりだ」


老人は少し遅れて隣にいた少女に視線を向け、思い出したように指を鳴らす。すると、一瞬にして少女の体が弾け飛んだ。凄まじい勢いの爆発だったが、少女は一言も悲鳴をあげることはなく、まるでモノのように最期を遂げた。


「なっ!? アンタどういうつもりだ!?」


「どういうつもりも何も、要らなくなったから自分のオモチャを破壊しただけだよ。私のオモチャの中で一番容姿を評価されていた少女。キミたちのような若い男を誘い出すには最高のオモチャだと思ったんだが。……まあ、ワシには人間の顔なんて全部同じに見えるがね」


人間を一人殺したにも関わらず、悪びれる様子もなく淡々と話をする老人。そのような姿を見て、正義感あふれるビスマルクが黙っていられるはずもない。


「オモチャ、オモチャって人間の命をなんだと思ってやがるんだ。オレはテメェを絶対許さねぇぞ!」


ビスマルクが怒りに任せて老人へと飛び掛かろうとする。しかし、そのような状況であろうとも隣にいたグラーフは冷静さを失ってはいなかったようで、平静な態度でビスマルクに檄を飛ばした。


「待てビスマルク。無策で飛び掛かるのは危険だ。……どう考えても先ほどの爆発は普通じゃない、奴がMBTIである可能性を考えよう」


改めて思い返すと、少女は内部で何かが起爆したように不自然に爆発していた。グラーフの言葉通り、何か特別な力が関与しているかもしれない。瞬時にグラーフの意図を理解したビスマルクは、異次元の反応速度で体を切り返し老人と距離を取る。


「イッヒッヒ。そちらのキミはなかなか勘が鋭いようだ。冥途の土産にワシについて教えてやろう。ワシの名前はフランクリン、【論理学者】の精神核保持者であり、センミンノハコニワの一員じゃよ」


膠着状態になるかと思われたが、老人━━【論理学者】フランクリンがニタニタとした表情で口を開く。不気味な雰囲気を持つ老人はグラーフの判断通りMBTI、そして選民ノ箱庭の一員だったようだ。


「ワシの加護は【死体操作】。死体を自由自在に操り、使役することができる加護だ。そして、今回招待したのは他でもない、キミたちをワシの新しいオモチャにするためだよ」


新しいオモチャ。それはすなわち二人を殺害し、死体として使役することを意味する。


「ふざけやがって! オレたちは絶対に負けねぇ。あのお嬢さんのためにも、オマエの悪行をここで終わらせてやる!」


敗れれば玩具のように弄ばれる、かといって逃走すれば次なる被害者が現れる。……そもそも、彼らの辞書には逃走の二文字がないことから、取れる行動は目の前の敵と戦って勝利する、それ一択だ。覚悟を決めたビスマルクは瞬時に分身を作り出し、フランクリンに向けて飛び掛かった。


「ヒャハハ、これが分身の加護か! これ、これだ。ワシが欲しかったのはこれだよ!」


ビスマルクの分身を見たフランクリンは興奮気味にひとり言をつぶやく。その表情に戸惑いや驚きの感情は感じられず、最初からビスマルクがMBTIであること、……そして、その加護が分身であることを知っていたようだった。


「必ずこの加護をワシのモノとしてみせる。いけ、我がオモチャたちよ。オマエたちなど、いくら壊れても構わん。どれほどの犠牲を払ってもコイツを殺せ!」


ともすれば、対策を練っているのは当然に違いない。フランクリンは物陰に潜ませていたオモチャ━━数十、数百体はあるであろう屈強な男たちの死体をビスマルクに向けて突撃させる。そのどれもが焦点を虚空に見据え、正気を保っていないことがありありと伝わってくるが、その鍛え上げられた肉体は本物であり、生前は戦闘関係の職に就いていたことが容易に想像できる。


「アンタたち悪ぃな。オレが成仏させてやるからよ」


しかし、それほどの体躯を持っていたとしても、百戦錬磨のビスマルクの相手は務まらなかったようだ。分身を器用に使い、かすり傷ひとつ受けることなく死体の体に風穴を開けていく。……グラーフの加護を受けることなく己の技術のみで。


「グラーフ、この程度ならオレひとりの力で十分だ。わざわざ手の内を明かす必要もねえし、オマエはそこで見ててくれ」


MBTI同士の戦闘において、加護の情報は戦局を動かす重大な情報となり得る。自分だけで対処できると判断したビスマルクは、グラーフに後方待機を命じ、己の身一つ……いや二つで戦場に身を投じる。


「なにいぃぃぃ!? ワシが念入りに選抜し、改造まで施した対人間用オモチャがこんなに容易く壊されるだとぉ!?」


そこからも、あまりに一方的な蹂躙は続く。数分もすれば、数百はあった死体たちも一桁まで減少していた。ここまで減ってしまえば、大した弊害もなく使役者との直接対決を挑むことも可能だろう。


「さあ、オマエがいたぶった人間たちはオレが成仏させた。ここからは分身を使わず、正々堂々タイマン勝負にしてやるよ。……オレにケンカを売ったことを地獄で後悔しな!」


「グヌヌ、ワシは負けん、負けんぞ~!」


どのような近接攻撃だろうと命中するであろう場所までビスマルクは距離を縮める。筋骨隆々な青年と今にも壊れそうな老人の一対一。突きひとつ、蹴りひとつで決着がつきそうな対面で、青年は拳を振り上げる。


「あばよ」


……だが、その拳は老人に命中することは無かった。

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