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シックスティーン・セレクテッド ~MBTI冒険記~  作者: 黒潮 潤
第四章 「チハ村の攻防」
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第二十四話 「ランドルフ」

~30年ほど前~


「弱きを助け、強きを挫く。それが、騎士として、男として生きるということだ」


この言葉を座右の銘とする男の長男として、吾輩はこの世に生を受けた。騎士として生計を立てる父は、名誉を重んじ、道義に反することを忌み嫌う実直な男だった。吾輩は今でもそんな父を誇りに思っており、吾輩の生涯において数少ない尊敬できる人物だったといえよう。


「ランドルフ、お前ももう6歳か。そろそろ武芸の練習を始めないとな」


母は吾輩を産んだ時に死去してしまったため、唯一の肉親である父から騎士道とは何たるかを幼少期から教え込まれた。弱冠6歳にして精神面だけでなく肉体面も徹底的に叩き込まれ、素手による近接戦闘術から、武器を用いた中遠距離戦闘まで一通り稽古を受けた。吾輩には才能があったのか、1年も経過したころには同年代はおろか一回りは大きな者たちにも負けることはなくなったことは今でも覚えている。


「お前には才能がある。だから、その力を活かして弱い人々を助けていくんだぞ」


その成長ぶりから、天賦の才を持つ神童と呼ばれたわけだが、……吾輩の持つ才能はそれだけではなかったのだ。8歳の誕生日、吾輩に隠されていた領事の精神核の力が顕現した。その加護は【思考予知】、……そんな加護に目覚めてからは大人であろうとも吾輩にかなうものはいなくなった。


「すごい、すごいじゃないか! お前のような息子を持つことができて俺は幸せだよ!」


これほどまで抜きんでた力を手に入れた吾輩は、周囲から反感を買うようになったが、唯一父だけは吾輩のことを認めてくれた。加護を手に入れたこともまるで自分のことにように喜んでくれてな。……だが吾輩が14歳となったとき、そんな父が任務中に賊の不意打ちに会い殉職した。おそらく、脳内に不意打ちという言葉が存在しなかった父は、対処がうまくできなかったのだろう。


その訃報を聞き吾輩は三日三晩泣き叫んだ。……だが、涙が枯れるほど泣き叫んだことで吾輩は覚悟が決まった。父の遺志を継ぎ、吾輩が弱い者たちを助けに行く。幸いなことに吾輩にはそれが出来る力があるのだから……と。


そこから先は十数年の放浪の旅が始まった。ありとあらゆる街を巡り、ありとあらゆる人物と出会ったわけだが、……吾輩は徐々に人間に対する不信感を抱くようになる。世界は悪意で満ちており、父のように尊敬できる人物など微塵もいなかった。弱者を救わない権力者や、弱者をさらに蔑ろにする輩などとの出会いにより吾輩の信念が崩れかけていくのを感じていたが、……あの事件により決定的なものとなる。


今から数年前、吾輩が辺境の地を放浪していた時、とある孤児院を見つけた。……いや孤児院というほど立派なものではなく、身寄りのない子供が身を寄せ合いその日その日を生きていくための施設といったほうが正しいか。読み書き算術はもちろんのこと、会話すら不自由な子供たちを目の前にした吾輩は、弱者を救うという信念のもと、彼らの教育のために滞在することとした。人間の闇に不信感を抱き始めた吾輩の前に、突如として現れた純真無垢な子供たち。そこでは、子供たちは生きていくための教育を、吾輩は人情を手に入れることができ、相利共生の心地よい環境だった。……だが、そんな日常はいとも簡単に崩れ去ってしまう。


「悪魔の子らを滅したぞ! これで世界は安泰だ!」


ある日、吾輩が食料調達を終え森から施設に戻ると、近隣の村から来たのであろう見たことのない大人たちと、10の死体……孤児院で暮らす子供たち全員の死体が佇んでいた。


「見ろ、悪魔の親分が帰ってきたぞ! MBTIってやつは世界を滅ぼす悪魔って噂だからな。この子供たちを手先とするために教育していたに違いない!」


吾輩の姿を見た大人たちは次々に罵声の言葉を浴びせてきた。衝撃の光景を目の前にして、詳細な内容は覚えていないが、それらはすべてMBTIに対する罵倒であったと記憶している。……MBTI自体希少なものなうえ、辺境の地ということもあり情報が入っていなかったのか、そのすべては信憑性のない流言であったが。


「……この光景、貴様らがやったのか?」


「そうだ! アンタMBTIなんだろ? 俺たちの村はすぐ近くなんだ。悪魔の好きにさせるわけにはいかねえからよ」


その言葉を聞き、吾輩の中で何かが壊れる音がした。ほぼ無意識で怒りに任せるように武器を振るい、数分かけて元凶となった大人たちを全員惨殺した。


「…………人間は実に愚かだ。奴らの力になろうと思った吾輩が馬鹿だった」


ひとり言のようにそう呟き、修羅の道を歩むことを決意したところ、……森の奥からとある集団がこちらに近づいてきたことに気が付く。


「先ほどの力、お前MBTIだろ。……その力、俺のもとで使う気はないか?」


4人の内、中心人物であろう男━━10代中盤の少年がそう呟く。


「急に近づいてきて仲間になれとはどういう算段だ。まずは、貴様たちの身分を明かせ」


「……それもそうだな。俺たちは選民ノ箱庭、MBTIを中心とした世界作りを目標としている組織といったら分かりやすいかな」


そこから先は4人全員の紹介があった。全員MBTIだったが、その多くが陰惨な過去を持ち、決して力のある強者というわけではなさそうだった。そんな彼らの境遇は、ぽっかりと空いてしまった吾輩の心を動かすには十分すぎるものだった。


「貴様らの過去はよく分かった。……いいだろう、吾輩もセンミンノハコニワの一員として仲間に加えてほしい」


強欲で自分勝手な人間たちより、彼らの方が救いを求める弱者なのかもしれない。そこからは彼らとともに、センミンノハコニワの一員として命を費やしてきたというわけだ。

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