表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

第十九章 「真打登場」

「ワオ、ワオ、ワオーン」


俺たちの後ろから━━すなわち、生き延びたオオカミたちが戻っていった洞窟の奥底から、大きな遠吠えが聞こえてくる。慌てて振り向くと、そこには俺たちの倍以上の体躯を持つボスと思われるオオカミが群れを従えこちらを睨みつけていた。


「バゥバゥ!」


ボスが低く呻ると、周囲にいたオオカミたちが隊列を成してこちらに向かってくる。……まるで、言語による統率が図られているみたいに。


「クソッ、コイツ普通じゃねぇ! ハルナ、行くぞ!」


「了解! アクイラちゃんは少し下がってて!」


咄嗟の判断でハルナに声をかけ、先ほどと同じ共同戦線を張る。横目にアクイラが物陰に隠れる姿が見えたし、ハルナはアクイラをうまく非難させてくれたみたいだ。


「……恐らく奥にいるアイツがボスに違いない。俺がアイツと戦うからハルナはサポートを頼む!」


「任せて! 君の考えはそれなりに理解してるつもりだよ!」


奥にいるボスが鳴き声を使い統率を取っているため、アイツを倒せば群れは指揮系統を失い散り散りになるだろう。そんな考えを咄嗟に言語化することができず曖昧な言葉で指示してしまったが、流石は長年の付き合いといったところか、ハルナは想定していた通りの動きで俺の活路を開いてくれた。一緒に転移したのがハルナで本当に良かった。


「よし! 好機だ、行くぜ!」


ハルナの切り開いてくれた道を抜け、ターゲットへと走る。これならトドメの一撃を決められる! しかし、


「ワオーン」


敵の大将は奇襲に備えて配置していたのだろう遊撃部隊を使役し、攻撃モーションに入っていた俺の動きを崩しにかかってきた。……チッ、あと少しだったのに。


「クソッ、だけどこうなったらラチが明かねぇ」


一度体勢を立て直すためにも、俺はオオカミたちと距離を取る。パッと周囲を見渡す限り、物陰に隠れ、今か今かと活躍の機会をうかがっている遊撃部隊は数百頭以上に見える。いくらハルナが超常的な俊敏性を持っているとはいえ、この数すべてを相手してもらうのは難しいよな、なんて考えていると物陰に隠れていたアクイラの声が耳に届いた。


「……やっぱり守ってもらうばかりはイヤだ! ヤマト、ハルナ、ボクにも協力させてくれ! 直接オオカミを倒すのは無理でもこのくらいはできるんだぜ!」


アクイラが大声で叫ぶと、俺と敵のボスを中心として、円状に地面から炎が湧き上がってきた。周囲で様子をうかがっていた遊撃部隊たちは炎の壁にはじき出されてどうすることもできないようで、リングの中にいるのは俺と数頭のオオカミ、……そしてアイツだけとなった。……これなら、やれるぞ。


「サンキュー、アクイラ!」


アクイラに感謝の言葉を告げ、残った数頭の子分を瞬時に屠る。統率力は凄まじいものだが、増援が期待できない以上その統率力も存分に生かしきれない様子だ。ものの数分で勝敗が付き、残るのは指揮を執る敵のボス一頭となっていた。


「これで俺とお前の一騎打ちってわけだ。覚悟しろ!」


炎におびえる遊撃部隊の姿を見て、彼らの助けを諦めたのか、敵のボスは覚悟を決め俺とのタイマンに挑んできた。鋭い牙をむき出しにして全力の殺意を向けてくる敵に怯みそうになるも、覚悟を決め剣を構える。


「頑張れ!」


「頑張るんだぜ!」


後ろから聞こえてくる声援を受け、起業家の加護を全力で乗せた斬撃を繰り出す。これで……決める!


「十……烈……紅……華!」


以前から温めていた必殺技である、ターゲットを血の華で染め上げる十連撃、十烈紅華(じゅうれつこうか)。肉体の限界まで脳のリミッターを外し繰り出すこの必殺技に体が悲鳴を上げているのが分かるが、ここで挫ける訳にはいかない。限界を超えてみせる!


「うぉぉあああ!」


自分自身を奮い立たせるように雄叫びをあげながら、剣を右へ左へ振るい続ける。限界を超えた筋繊維がプツプツと切れる感覚も感じるが、ここで止まるわけにはいかないんだ!


……そして、十撃目が終わった時、目の前には動かなくなったボスの体のみが残っていた。俺の仮説通り、ボスを失ったオオカミの群れは統率を失い、散り散りとなり逃げ去っていく。……俺たちの勝ちだ。


「……やった……ぜ」


アドレナリンによりかろうじて持ちこたえていた肉体は限界を迎え、俺の体は重力に従うようにその場に倒れこんだ。


「ヤマトくんっ!」 


「ヤマト!」


向こうからハルナとアクイラが駆け寄ってくるのが見える。まずはなにより、彼女たちの無事が確認できてよかった。


「すまねぇ、もう俺には腕を動かす力も残ってないよ。馬車まで開放してもらえると助かる」


最後の最後で情けない姿を見せてしまったが、このくらいはいいよな。俺は二人の肩を借り、おぼつかないながらも洞窟の入り口へとなんとか戻った。ここまで来れば、あとは馬車に乗って街に戻るだけだ。


「二人ともありがとう。俺は……街まで……寝るよ」


馬車に戻れた安心感の中、意識が落ちていく。俺は最後まで発声できただろうか。


***


「レオパルト到着、レオパルト到着。お三方、クエストお疲れ様です」


御者の声を目覚ましに、俺は意識を取り戻す。体には毛布が掛けられており、女性陣の気遣いが感じられた。


「おはよう。無事目覚めてよかったよ。体は大丈夫そう?」


「問題ないさ。ほら、こんな感じで」


視線をあげると、心配そうな表情をしていたハルナとアクイラが視界に入った。少し寝て体力も回復したのか体を動かすくらいなら普段通りできるし、彼女たちを安心させるためにも簡単なストレッチをしてみせる。


「それならよかった。御者さんの言う通りレオパルトに到着してるよ」


「そうみたいだな。俺の方は問題ないし、さっそく屯所に向かうか」


御者に代金を支払い、俺たちは人々の喧噪に囲まれた街へ飛び出す。ここから、屯所までは歩いて十数分だし、ゆっくり行こう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ