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第十六話 「夢、再び」

(新たな仲間を見つけたようですね)


……!? この感覚、転生初日に感じたものだ。お前は主人公の精神核か?


(その通りです。あなたと適合してもう数日経ちますし、今日はもう少し込み入った話でもしようかと思いまして)


込み入った話? どんなものなんだ?


(【主人公】の加護についてはもう理解しましたね?)


ああ。【精神核の譲受】だろう。そして、体内に取り入れた精神核の加護は自由に使用できるっていう加護の内容も理解したよ。


(その通りです。……ただ、今日はそのような自明のことを話しに来たわけではありません。あなたたちが元の世界に戻る方法、つまり指揮官について伝えることが一番の目的なのですから)


指揮官!? どんな小さなことでもいい、教えてくれ!


(……バージニアにイラストリアス、そしてホーネットと様々なMBTIを見てきたと思いますが、指揮官は彼らを率いる総大将。つまり選民ノ箱庭の創設者にしてリーダーです)


選民ノ箱庭の創設者にしてリーダー……? 


(指揮官の強力な加護を用いて、選民ノ箱庭という一大勢力を築いた男。そんな彼があなたたちの倒すべき敵というわけです。つまり、選民ノ箱庭を追っていれば、おのずと指揮官へと繋がっていくというわけです。……それでは最後にこの映像を見せて今日は終わりにしましょうか。これがあなたのモチベーションに繋がることを祈ります)


もう最後なのか!? そんな俺の感情とは裏腹に、主人公の精神核の声は小さくなっていき、視界も移り変わっていく。だが、今回の俺を待ち受けていたのは、前回のような暗闇ではなく随分と見慣れた景色だった。


「大和ったらいったいどこをほっつき歩いてるのかしら。遅くなるなら連絡しろっていつも言ってるのに」


見慣れた自宅のリビングから、聞きなれた母さんの声が聞こえてくる。俺ならここにいるじゃないか。


「陽菜ちゃんを見つけるのに手間取ってるのかしらね。唐揚げも冷めちゃったし、これは二度揚げが必要かしら」


ブツブツとひとりごとをつぶやく母さんを目の前にし、俺は体を大きく動かし存在をアピールをする。しかし、母さんはそんな俺を無視するようにテレビの電源を切り、台所へと足を進めた。


「でも、もう19時ね……。何か事故に巻き込まれてなけりゃいいけど……」


一向に気付かない母さんに痺れを切らした俺は、直接声をかけるため台所へと向かう。……しかし、母さんに手が触れようかというタイミングで視界がかつてのように暗闇へと切り替わった。何が起きていたんだ?


(これはあなたがいた世界の現在の映像です。この世界とあなたがいた世界では時間の進み方が違うので、向こうでは数時間しか時が流れていません。つまり、あなたと陽菜さんの転移は大事にはなっていないということですが、……それも現時点でのことです。指揮官討伐まで時間がかかりすぎてしまうと行方不明として戸籍を処理されてしまいかねませんし、時間制限があることを頭に入れておいてください。……もう時間みたいです。あなたたちが元の世界に戻れるように、そして指揮官の手からこの世界を守れるように私も全力でサポートします。前回よりは記憶も残っていると思いますので、頼みましたよ)


……徐々に小さくなる声が一切聞こえなくなると同時に俺の意識はプツリと途切れた。


***


「ヤマトくん、起きてる?」


ドアをノックする音が聞こえてくる。……この声はハルナか?


「起きてるよ。ハルナは起きてるみたいだけどアクイラさんは?」


「アクイラちゃんも大丈夫。私たちはもう出発準備まで済ませてるよ」


早いな。……だけどそれならゆっくり話す時間も取れそうだ。


「だったら、俺の部屋に入ってきてくれないか。……今日見た夢のことで話したいことがあるんだ」


「……夢だね。分かったよ」


夢という単語を聞いたからか、ハルナの声色が少し変わった。……俺も少し気を引き締めよう。


***


数分後、別部屋に宿泊していた女性陣が部屋へと入ってきた。ハルナの雰囲気から察したのか、事情を知らないアクイラも神妙な面持ちで待機している。


「……まずは昨日伝え忘れていた俺の加護について話そうか。【主人公】の加護は【精神核の譲受】。だから、昨日は起業家の加護を使ってあんなに戦えたんだ」


「なるほどなんだぜ。……でも譲受ってことは他人に渡すこともできるのか? 後天性のMBTIなんて聞いたことないんだぜ」


アクイラから当然の疑問が飛んでくる。……だが、その点も昨日はじめて加護を使った際に本能的に理解した。


「……できる。だけど、主人公以外の人がふたつ以上の精神核を取り入れることは不可能みたいです」


「だったら、これからセンミンノハコニワのMBTIを倒すほどヤマトは強くなるって訳だな」


アクイラの言う通り、俺の加護は精神核が集まるにつれ、指数関数的にできることが増えていく。……みんなを守るには十分すぎる力だ。


「そうだね。だから二人には選民ノ箱庭に怯える人たちを助けるため、力を貸してほしい。俺たちの持つ力ならそれができるはずだ」


俺の言葉に対して二人は頷き返してくれる。さて、俺たち三人の目的を達成するために次の行動を起こそうか。


***


「ハルナ、そういえばお金ってどのくらい残ってたっけ?」


宿を出て、歩きながらこれからの方針を話し合う。新たな仲間も加わったことだし、現状把握のために持ち物を確認しておきたい。


「実はそんなに余裕ないかも。あと3日もすれば底が尽きるかなぁ」


ハルナが取り出した革袋にはコインが十数枚残っていた。この量だと、ハルナの言う3日というのもかなり切り詰めてでの試算だな。


「アクイラさんはどんな感じかな? 有名人だし余裕はあるのかい?」


「最近のショーは、初めて訪れる街で行なってばかりで、お金稼ぎより知名度向上を目的にしてたからなぁ。あと、ハルナには既に伝えたけど、これからは仲間なんだし敬語なんて必要ないんだぜ!」


「分かったよ、アクイラ。……でもこんな現状ならお金を稼ぐのが最優先事項だよな……」


アクイラの言葉は予想外でもあり予想通りのものだった。打倒、選民ノ箱庭の志はあっても先立つものがなければどうしようもないし、なんとかしないと。


「それならボクと一緒にショーで稼ぐってのはどうだい? 王都レオパルトまではそんなに遠くないし、そこで一儲けするんだぜ」


そんなこんなで悩んでいるとアクイラから旅芸人らしい提案が飛んできた。なるほど、有名人である彼女と一緒なら客も付きやすいだろうし、まとまった資金を稼ぐことも出来そうだ。……それに、人前で歌ったり踊ったりするのも楽しそうだしな。


「ナイスアイデア! それならさっそく行動に移そうぜ。次の目的地は大陸一の王都、レオパルトだ」


はしゃぐ俺とアクイラを少し冷めた目で見ていたハルナも、しょうがないなといった表情でレオパルト行きの馬車へ向かう俺たちに着いてきてくれた。さて、レオパルトではどんなことが待っているのだろうか。

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