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シックスティーン・セレクテッド ~MBTI冒険記~  作者: 黒潮 潤
第二章 「キャバリエでの出会い」
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第十五話 「信じられない」

「なっ……!」


突然の惨事に驚嘆の声をあげる。横目に見えるハルナたちも手で口を押さえるなどして驚きを隠せていないようだ。


「そうですね。今回のシナリオはこういうことにしましょう。私とイラストリアスがキャバリエの街へ向かうと今回のターゲットであるエンターテイナーを見つけます。しかし、極悪非道のターゲットは私を人質に取ったため、仲間思いのイラストリアスは攻撃を躊躇してしまい、隙をつかれて名誉の戦死を遂げてしまった……と。……いかがかな?」


ホーネットがコツコツという足音を立てながらこちらに向かってきているが、……俺にはヤツが何を言っているのか理解できない。いくら口論があったとはいえ、味方じゃないのか?


「……意味が分からない。仲間じゃないのか?」


「私のシナリオに彼女は不要です。だからこのように消えてもらう必要があったのですよ。加護を持たない家畜への情を捨てきれない愚鈍な女にはね」


「貴様ッ!」


理由は分からない。俺と彼女は命のやり取りをした、いわば宿敵ともいえる相手のはず。なのに、なぜ俺は苛立ってしまったのだろう。気付いた時には、剣を抜き去り男に斬りかかっていた。


「ほぅ、予想以上に強い感情を持っていましたね。ですがそのような行動、貴方のような性格の人間には辛い結末が待っていますよ」


煽るようなホーネットの目付きにより苛立ちが増幅され、勢いのままヤツを斬り裂く。感情に身を任せた単調な攻撃だったが、ホーネットの右腕を軽く掠る程度には命中し、少しはダメージを与えられた手ごたえがあった。しかし、改めて見返すと出血どころか切り傷一つ見当たらない。


「なぜだ!? 当たったはずなのに!?」


俺がそう呟いたのと同じタイミングで、ホーネットの後ろから苦悶の声が聞こえてくる。その声色は若い女性のものだ。陰に隠れて分からなかったが誰かいるのか?


「私にダメージを与えることは不可能です。このデコイがすべてのダメージを肩代わりしてくれますからね。……ああなんて痛そうなんだ、これは貴方がやったのですよ」


苦悶の声の主は、俺より1つか2つ年下に見える楚々とした少女だった。花を愛でていればそれだけで絵になるような美しい容姿の持ち主だが、それとは見合わない血の花びらが彼女の腕に咲いている。……俺が狙った通りの場所から。


「俺が……やったのか?」


俺は確かにホーネットを攻撃したはずだ。……だが俺の視界には、無傷のホーネットと手負いの少女がそこにいるという現実のみが映っている。……本当に俺が原因なのか?


「見えている通りですよ。……さて、お遊びはここまでにしましょうか」


動揺で思考が二手三手遅れていた俺に向けて、ホーネットが腰に携えた鞘から剣を抜き、その凶刃を振り上げる。万事休すかと思った瞬間、


「チッ、洗脳が解けかかっていますね。この程度じゃ動揺しないよう調教したつもりでしたが、イラストリアスの死も影響したのでしょうか」


ひとり言のように何かを呟いたホーネットは、その腕を振り下ろすことなく剣を鞘へとしまう。


「貴方、命拾いしましたね。またお会いすることがあればその時は容赦しませんので。……そうだ、自己紹介を忘れていました。私の名前はホーネット、センミンノハコニワの三銃士であり【提唱者】の精神核と【洗脳】の加護を持つMBTIです。どうぞお見知りおきを。……シャルン、いつまでも痛がっていないで行きますよ」


そう捨て台詞を残したホーネットは、イラストリアスから零れ落ちた精神核を拾い、隣の少女と共に街の外へと歩いていく。先ほどの言葉や、少女に向けて乱雑に傷薬を投げる姿から伝わってくる残虐性を前にして、街の人々はもちろん俺たちもその姿を見送ることしかできなかった。


***


「ヤマトくん、大丈夫?」


一連の戦闘を終え、緊張の糸がほどけたように俺はその場に座り込む。そんな俺を見かねたハルナとアクイラは駆け足でこちらに向かってきてくれた。


「大丈夫だ。なんとかね」


起業家の加護で酷使した肉体は悲鳴を上げており、アドレナリンで気付かなかった痛みが一気に襲ってきた。……だが精神的なダメージはそれ以上だ。分かり合えたかもしれない相手を目の前で殺される……。イラストリアスだけでなく、ホーネットの隣にいた少女の命も奪っていれば心が完全に壊れていただろう。


「ヤマト、助かったんだぜ。キミがいてくれなきゃ今頃ボクは……」


だが、そんな俺に向けて、喜びと悲しみの入り混じった表情で感謝の言葉を告げてくれるアクイラ。ありがとう……、その言葉だけで頑張った甲斐があるよ。


「二人とも無事そうでよかった。……でも俺たちには助けるべき人がもっとたくさんいるはずだ」


ホーネットの隣にいた少女……、焦点の合わない目つきは明らかにおかしかった。都合のいいように利用されているに違いないし、恐らく彼女以外にも毒牙にかかっている人々がいるはずだ。選民ノ箱庭……絶対に許してはいけない。


「その話なんだが、ボクもキミたちに着いていってもいいかな。センミンノハコニワに命を狙われている以上、一人で行動するのは危険だし、なによりヤツらの悪行を直接見てしまった……。あんな人々を悲しませるヤツらを放ってはおけないんだぜ」


「いいのかい? アクイラさんほどの実力者が仲間になってくれるならこちらこそ助かるけれど」


横目にはハルナの頷いている姿が見える。新たな仲間の加入を拒むものなどここにはいない。


「それじゃあ明日の朝から出発しよう。……今日は犠牲になった人たちを弔ってあげないと……」


ホーネットによる凶行の犠牲となった遺体の元へ向かい、数時間ほど後片付けをした後に宿へと向かう。改めて選民ノ箱庭打倒の決意が固まったことは言うまでもないだろう。


「それじゃあ二部屋取れたし、男女に分かれて泊まろうか」


宿で簡単な手続きを済ませ、ハルナの言う通り男女に分かれてそれぞれの部屋へと向かう。……今日は疲れた。早めに眠ることにしよう。

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