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シックスティーン・セレクテッド ~MBTI冒険記~  作者: 黒潮 潤
第二章 「キャバリエでの出会い」
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第十話 「エンターテイナー」

「武器も調達できたことだし、さっそく情報収集に移ろうか! 早く元の世界に戻らないとね、……お父さんとお母さんも心配しているだろうし」


店から少し離れたところで、ハルナがそう呟く。彼女の言う通り、こうしている間にも元の世界に残してきた人たちは俺たちのことを心配しているに違いない。情報の集まる交易都市に来た本来の目的を思い出した矢先、広場に人だかりが起きているのが目に入った。


「みなさん、見ていってほしいんだぜ! 世界を旅する【エンターテイナー】、アクイラとはボクのことだ! MBTIの力で楽しませてみせるんだぜ!」


MBTI!? ハルナの方に視線を向けると、彼女も同じことを思ったらしく、話し合うまでもなく俺たちの足は人だかりの方へと向かっていた。あそこなら何か分かるかもしれない!


「MBTIだって。私初めて見たかも~」


「俺はリットリオと仕事で少し話して以来二人目だな。死ぬまでに二人も出会えるなんて儲けもんだぜ」


詳細までは聞き取れないまでも、人だかりからうっすらと聞こえてくる内容はあらかたレーヴェで聞いたものと同じだった。改めてこの世界におけるMBTIの希少性を痛感しながら群衆を掻き分けていくと、人々の注目の的であるエンターテイナー、アクイラがショーの準備をしている姿が視界に飛び込んできた。


「ボクを初めて見る人たちも多いだろうし、歌や踊りなんて普通のことしても面白くないよな。だから僕にしかできないショーを考えてきたからみんな楽しんでくれなんだぜ!」


年齢は俺たちより年下……12~13歳ぐらいと思われる金髪ショートの少女は、平均より小柄な体で群衆からの視線を受け止めていた。大人びた女性が着ていれば街を歩く男たちの視線を釘付けにするであろう露出度の高い踊り子服からは、彼女が歌や踊りを生業としていることがひしひしと伝わってくる。だが、そんな彼女曰く今日のショーはそんなありふれたものとは一味違うとのことだ。


「最初に披露するのは、炎のダンス━━ファイアワークスだぜ!」


彼女が指を鳴らすと、どこからともなく人魂のような炎の塊が二つ三つ姿を現した。炎を自在に操る……それが彼女の加護なのだろうか?


「ほいっとな」


小気味いいリズムでアクイラは炎の塊をお手玉する。直接触れていないからか、彼女の体は火傷することなく、まるで自分の体のように炎を操っている。


「こいつでファイアワークスはフィニッシュだ!」


そして、気合を入れた彼女の一声を発端とし、炎の塊はより複雑な軌道を示し始めた。飛び上がる高さはゆうに3メートルを超え、垂直運動だけでなく曲線的な動きも織り交ぜられ観客たちを熱狂させるが、複雑な動きとなってコントロールを誤ったのか炎の塊の一つが観客の方へ向かって文字通り飛び火してしまう。


「まずい! 逃げてくれ!! …………なんてね」


しかし、飛び火すらも彼女の計画通りだったのか、アクイラはしたり顔を見せていた。炎の塊が観客に届こうとする前に、


「次の演目はウォーターストリームだぜ! 見逃すなよ!」


彼女の手のひらから蛇口をひねったように水流が飛び出し、跡形もなく炎を消し飛ばした。

もちろんそんな光景を見せられた観客たちのボルテージはうなぎ上りだ。


「すげええ! まるで魔法じゃないか!」


「他にも見たいわ!」


興奮が興奮を呼ぶ形で、足を止め彼女に意識を向ける人がどんどん増えていく。気付けば、俺たちが見始めた時の3倍程度の人数が密集し、彼女のショーを眺めていたわけだが、……そうなると、必然的に人口密度は高くなり不慮の事故だって起こりやすくなる。


「ご、ごめん。怪我はないかい?」


アクイラのショーの脇で、温厚そうな青年が6歳ぐらいの女の子と衝突してしまったようだ。青年も他人に押されたような形で悪気はないのだろうが、少し強めの衝突だったこともあり女の子が心配だ。少し距離はあるが助けに向かおうとハルナに視線を送る。しかし、


「そこのキミ、大丈夫かい? 今向かうからちょっと待ってるんだぜ」


俺たちが動くより先に、アクイラは「少し間を開けてくれ」といいながら、小さな体を活かして群衆の間を縫うように女の子のもとへ向かう。


「少しすりむいてるみたいだが、もう心配いらないんだぜ。……風の聖霊よ、この子に力を貸してくれ」


アクイラがぼそぼそと何かをつぶやくと、女の子の擦り傷が見る見るうちにふさがっていく。薬品の類を使った感じでもないし、おそらくMBTIの力だと思うが、いったい彼女はいくつの加護を持っているのだろうか?


「みんな、今日は集まってくれてありがとう! だけど、人が多くなりすぎて全員平等に楽しんでもらうのは難しそうだから今日の所はこれまでなんだぜ。まだ、披露してない技もあるから次会ったときの楽しみにしておいてくれよな!」


そうこう思案しているうちに、アクイラ本人の言葉でショーが閉められ、人々は名残惜しさを感じながらもそぞろに散っていく。今がチャンスだ、話しかけに行こう。……毎回同じような手段を取っている気がするぞ、MBTIの注目度も困ったものだな。


「キミたちは! ボクのショーを最初から見てくれていた人だね! 一体どうしたんだい?」


話しかけようと彼女に近づくと、俺たちが声をかける前に向こうから話しかけてくれた。


「実はMBTIであるアクイラさんに聞きたいことがあって……。これから時間とかってありますか?」


「う~ん、キミたちの期待に答えてあげたいけれど、一度ファンと個別で話す時間を作ってしまうとみんな同じ対応をしなくちゃいけないからなぁ。ゴメンネ」


ハルナの提案に対し、丁寧ながらも芯のある言葉を返すアクイラ。有名人には有名人なりの悩み事やこだわりがあるのだろう。


「……実は俺たちもMBTIなんです。だからどうしてもあなたに話を聞きたくて」


だが、立ち去ろうとするアクイラに俺は隠していたカードを切る。世界中を旅するアクイラといえども、他のMBTIとなれば話が変わってくるだろう。……案の定、彼女の目つきが変わり俺たちの話に耳を傾けてくれた。


「ボク以外のMBTI……、長く生きてきたわけじゃないけど初めて見るんだぜ。こちらとしても話を聞いておきたいし今から話そうか……、と言いたいところなんだけど今夜は先約が入ってるんだよなぁ。だから、明日の10時にこの場所で再会ってのはいかがかな、なんだぜ」


その言葉に対し、「もちろん大丈夫です!」と答える俺たち。この街に来てまだ数時間だというのに、なんと幸運なことだろうか。


「分かった! だったら明日の10時にここに集合なんだぜ! じゃあな!」


約束の時間までそう猶予もないのか、彼女は駆け足で街の外れへと走っていった。……今日の所は目的を達成できたわけだし、新しい街でのショッピングでもしてから宿に向かうとしようか。明日、アクイラからどんな話を聞けるのかが今から楽しみだな。

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