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シックスティーン・セレクテッド ~MBTI冒険記~  作者: 黒潮 潤
第一章 「異世界生活初日」
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第一話 「日常、そして異世界」

「母さん、行ってきます!」


「行ってらっしゃい。今日はアンタの好きな唐揚げだから早く帰ってくるのよ~」


「マジ!? だったら今日は寄り道せずに帰ってくるよ!」


俺の名前は古賀(コガ) 大和(ヤマト)。中肉中背で見た目も成績も運動能力も平均的、特別な才能があったり生まれが特別だったりするようなことのないただの17歳。晩飯が好きなものだったら嬉しいし、授業が好きな教科ばかりだったら上機嫌になる。そんなどこにでもいる男子高校生だ……自分で言うのもなんだけど。


「ちょっと待って! ひとつ伝え忘れてたけど、今日南雲さん夫婦が出張らしいのよ。だから、いい機会だし陽菜ちゃんをウチに誘っといてもらえるかしら、私も久々に陽菜ちゃんの顔見たいし。部活で忙しそうで、こうやって理由つけないと陽菜ちゃん誘いづらいからね」


「分かったよ。今日部活休みって言ってたから来てくれると思うぜ」


玄関のドアに手をかけた瞬間、母親から呼び止められる。

南雲(ナグモ) 陽菜(ハルナ)。家は隣同士、学校も小学校からずっと一緒という生涯を共にしてきたといっても過言ではない同い年の女の子、いわゆる幼馴染というやつだ。最近は部活で忙しいみたいで、子供の頃みたいに毎日顔を突き合わせるってわけではないけれどな。


「っと。そろそろ行かないと遅刻しちまう。唐揚げ楽しみにしてるよ!」


玄関での会話に時間を取られ、駆け足でなければ朝の予鈴に間に合わない時間になっていた。集団登校だった小学生までは陽菜と一緒に登校していたが、今はバラバラだな。……まあ、仲が悪くなったからというわけではなく、30分前には席についておきたい陽菜とギリギリまで寝たい俺の性格の違いが理由なだけだが。


***


「それでは、今日のホームルームを終わる。気を付けて下校するようにな」


野太い担任の声によって1日の終わりが告げられる。今日も何の変哲もない日々が過ぎ去った、……強いてあげるならば体育が2時間分あって楽だったくらいか。ただ、悠長に考え事をしている時間はないぞ、早く陽菜に会いに行かないと……。部活が休みの日はすぐにどっか行っちまうからな。


「ハァハァ、何とか間に合った。陽菜、ちょっと話いいか?」


帰宅準備をする男子生徒や、廊下で駄弁っている女子生徒たちを掻き分け、駆け足で玄関へと向かう。するとそこには、子供の頃から何度も染めていると勘違いされていた明るい茶髪を、肩まで伸びるポニーテールに結んでいる俺の幼馴染の姿があった。優等生らしく、第一ボタンまで留めたシャツに校則通りの長さのスカートを身につけた彼女は、靴ひもに手をかけ、今まさに歩みを進めようとしていた。その状況から察するに、あと少しでタイムオーバーだったみたいだ、……危うく取り逃がすところだった。


「そんなに慌ててどうしたの!? まずは落ち着いて、深呼吸だよ大和くん!」


全力疾走とは言わないまでも、教師に見つかれば注意されそうな速度で走ってきた俺の姿を見て陽菜は心配の声をかけてくれた。だが、足止めさえしてしまえばこっちのもんだ。俺は彼女の言葉に従い息を整え、母さんからの伝言を伝える。


「心配ありがとう。さっそく本題に入るけど、今日よかったらウチで晩飯一緒に食べないか? 今日おばさんたち出張なんだろ? 何か予定があるなら無理にとは言わないけど、母さんも会いたがってたしさ」


「え、いいの! ぜひお邪魔したいな! 大和くんの家に行くの久しぶりで少し緊張するな~」


予想通りといってはなんだが、案の定快い返事が返ってきた。久しぶりの言葉で思い出したが、平日は夜遅くまで働くバリバリのビジネスマンを両親に持つ陽菜とは子供のころよく晩飯を共にしていたな。今は部活終わりに一人で食事をすることも多いみたいだし、暇そうなときは積極的に誘うことにしようか。


「そうと決まればさっそく出発しようよ。今から帰れば、晩御飯の準備も手伝えそうだしね」


現在時刻は17時。陽菜の言う通り、今学校を出ればゆっくり歩いても17時半すぎには家に着くだろう。


「そうだな。それじゃあ行こうぜ」


俺の言葉に呼応するように彼女は隣を歩いてくる、……少し距離感が近いのはいつものことだ。ただ、幼馴染とはいえ、フェンシング部に咲く華という異名を持つ南雲陽菜とこの距離間。もう慣れたけど、周りの男子からの視線が痛い……。


***


「そういえば、大和くんの家で最後にご飯食べたのいつだっけ? 部活が忙しくなってから行けてないからな~」


「もう高校生で、家に一人でも問題ないもんな。それに南雲陽菜といえばフェンシング界のホープ。部活で大変だろうし、昔みたいにはいかねぇよ」


家への帰り道、他愛もない言葉のキャッチボールを重ねる。異性との会話といっても気負いすることなく話せるのは長年積み重ねた関係値のおかげだな。


「ホープなんて大袈裟だよ……。県大会でちょっと結果出してるだけだから……」


「俺からしたらそれはホープといっても過言じゃないぜ。俺は中学で剣道やめちまったからな」


俺は中学で剣道をやめ、今は気ままな帰宅部生活だ。……まあ、辞めた理由は上には上がいることを実感しただけっていうありふれた理由だけど。それでも、初段までは取ったし基本的な技術ぐらいは身につけてはいる…………と思いたい……。


「でも部活で学んだこともあるはずだし、無駄じゃない3年間だったと思うよ!」


とまあそんな取るに足らない話をしている最中に腕時計を覗くと、学校を出て20分程度が経過していた。だいぶ自宅に近づいてきて、あの路地を曲がれば俺の家はもう目の前だ。……そのはずだった。


「どうなってるんだ!? 俺たちはいつもの道を通っていたはず!?」


路地を曲がり瞬きをした瞬間、周囲は見慣れぬ風景に様変わりしていた。本来であれば変哲のない住宅街が俺たちを出迎えてくれるはずなのに、今俺たちが目にしているのは世界史の教科書で見たことがあるような中世ヨーロッパ風の街並み……。一体何が起きているんだ、夢でも見ているのか? ……しかし、信じたくないが軽く腕をつねったら痛みが返ってきた……、夢ではないみたいだ。


「えっ、一体どうなっちゃったの!? ここはどこなの!?」


信じがたい異常事態に直面し困惑していたが、隣から聞こえてくる声で徐々に現実へと意識が戻ってくる。そこには、幼いころから見慣れた女の子の姿が……、どうやら俺だけでなくハルナもこの摩訶不思議な現象に巻き込まれたようだ。


「とりあえず落ち着こう。ただ、一人じゃなくお前がいてくれて安心したよ」


俺が話しかけると彼女も徐々に落ち着きを取り戻す。俺が安心したのと同じように、彼女も俺という知り合いが傍にいることを自覚できたからだろう。

ただ、ひとつ気になったのは……。


「それはそうと、お前その姿どうしたんだ?」


数分前は制服だったハルナの服装が、白のトップスに赤を基調としたベストとミニスカートというファンタジー色の強いものへと変わっていた。機能性を備えたその衣装は、剣を持てば立派な剣士に見えるようなものだ。


「ヤマトくんこそ、アニメのキャラクターみたいになってるよ!?」


だが、そんな突然変異が起きたのはハルナだけではなかったみたいだ。改めて自分自身の服装をチェックすると、布でできたグレーの服の上に、太ももまでかかろうかという長さの薄緑のマントといういわゆるレベル1冒険者のようなものに変化していた。そのうえ、ポケットをまさぐっても財布やスマホのような所持品も見つからない。

……信じたくないがこの光景から察するに、俺たちは元いた世界とは別の世界に来てしまったようだ。どういう原理なのか、どうしてこうなったのか、分からないことばかりだが動揺していても仕方がない。なんとか元の世界に戻る算段を見つけなければ。

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