僕の好きな人には好きな人がいる
***BL***僕が星凪先輩を好きだと気付いた時には、星凪先輩と姉さんはもう、付き合っているみたいだった。ハッピーエンドです。
僕が星凪先輩を好きだと気付いた時には、星凪先輩と姉さんはもう、付き合っているみたいだった。
僕が中学1年生の時、姉さんは生徒会長になった。星凪先輩は副会長。姉さんに呼ばれて一度だけ生徒会室に入った事がある。みんな優しかった。その日、僕は星凪先輩に惹かれた。
星凪先輩は、他の生徒より少し離れた所にいて、沢山話したわけじゃ無いけど、空気が柔らかくて好きだった。
その後から、僕の家に来る様になり、姉さんと勉強したり生徒会の仕事をしたりしていた。
僕の姉さんは、学校ではいつも凛々しくカッコ良くて、僕の憧れ。
そして、姉さんの隣にいる星凪先輩もカッコ良い。
だから、学校では二人とも大の人気者なんだ。
*****
「きゃぁー!美月先輩と星凪先輩が写真撮影してるー!」
「早く、早く!」
「今、始まったばかりかな?」
そう言えば、今日、学校パンフレットの撮影があるって言ってたな。
制服の見本用の写真を撮るって言ってた。姉さんはストレートの黒髪をハーフアップにして、顔がよく見える様に整えられていた。
姉さんは高校でも生徒会会長、星凪先輩は副会長。
いつもキリリとして長い髪を靡かせて颯爽と歩く。成績優秀、字も綺麗だし、後輩の面倒見も良い。
男子にすごいモテたけど、姉さんに憧れている女子もいた。
星凪先輩は、一歩下がって姉さんをサポートする感じ。でも、姉さん曰く、星凪先輩は出来る男だって。多くを言わなくても、ちゃんと理解して先回りするらしく、仕事がしやすいとか。
僕はと言えば、成績は良くも無く、悪くも無い。高校受験の時は、姉さんと星凪先輩に勉強を見てもらい何とか合格出来た。
勿論、努力はしているよ。でも、二人とはやっぱり違うんだ。
星凪先輩は姉さんが好きだ。姉さんを追い掛けて同じ高校に入ったし、姉さんを追い掛けて生徒会に立候補した。二人はもう付き合ってるんだと思う。
頻繁に家に来るし、母さんとも仲が良い。
*****
夏休み初日。うちは両親が共働きだから昼間はいない。
「ねぇ、昴。お昼ご飯作ってぇ、、、」
姉さんは、外で頑張っている分、家では甘えん坊になる。僕が台所でコーヒーを入れていたら、後ろに貼り付いて来た。
冷蔵庫の中を見ながら
「焼きそば!焼きそばあるよ!焼きそば食べたいよぉ〜、、、」
「はいはい、焼きそばね」
なんてやってると、インターホンが鳴った。
「はーい」
姉さんが通話ボタンを押し、マンションの玄関の鍵を開ける。
「俺」
何だか、旦那様が帰って来たみたいだな。
「星凪も来たから、三人分ね!」
と姉さんに言われて冷蔵庫の中を見る。豚肉もあるし焼きそばは、作れそうだった。母さんに
「昼、焼きそば食べるね。豚肉使います。星凪先輩も来たから三人分作るよ」
と連絡する。
玄関のインターホンが鳴り、姉さんが鍵を開けに行った。
「ね、昴の焼きそば食べる?」
「何だよ、一言目がそれなの?」
「昴の焼きそば、美味しいよ!」
「美月は焼きそば、作んないの?」
「だって、昴の方が美味しいもん!」
なんて話しをしながらリビングに来る。姉さんは星凪先輩にも素が出せる。
「いらっしゃい」
「焼きそば、作れるの?」
「焼きそば位なら。星凪先輩も食べますか?」
「もちろん」
僕は嬉しくなった。
僕が焼きそばを作り始めると、二人は勉強の準備をする。
冷蔵庫から、豚肉を出してフライパンで焼く。火が入ったら塩、胡椒を振って醤油を少し掛ける。最後にニンニクチューブを入れて混ぜたらお皿に取り出す。
そのフライパンで麺を焼いて水とソースの粉を入れる。よく混ざったらお皿に取り分けて肉をのせる。野菜は入れない。
「姉さん、テーブル片付けて」
「わーい!」
と喜びながら、ノートと教科書をしまう。
「ホント、外と中で全然違うな美月は」
と言いながら、星凪先輩は笑った。
二人はいつも仲が良い。
「美味っ」
「でしょ?野菜が入って無いのもポイント高いのよ」
「ヤバっ、美味っ。嫁に欲しい」
「え?こんな簡単な焼きそばで?」
「美月は作れないの?」
「作れないじゃ無くて、作らないの。やれば出来るから、、、」
「あ、嘘だ。嘘ついた。平気で嘘ついた」
僕は二人のやり取りを聞いて微笑ましくなる。
食器を洗い、片してから自分の部屋に戻ろうとしたら、星凪先輩が
「昴も勉強しな、教えてやるから」
と言ってくれた。嬉しいけど、二人の邪魔はしたく無いな。
「夏休みの内しか、ゆっくり見て上げられないからおいで」
「じゃあ、鞄持って来るね」
と言って、一度自分の部屋へ戻る。僕は嬉しくて、自分でもニヤけているのがわかってしまった。
二人は静かに集中して勉強をしている。ノートを広げながら、チラリと星凪先輩を盗み見る。
中学生の頃から知ってるけど、高三の星凪先輩は大人だ。姉さんも大人に見える。耳に髪を掛けながら、ノートを捲る姿は絵になる。
「昴?」
星凪先輩が僕の頭を撫でる。
「勉強に集中して」
僕が上目遣いで
「はい」
と返事をすると
「良い子」
って褒めてくれた。
きゅんっ
*****
姉さんの朝はいつも早い。学校に行って、自習室で勉強するからだ。僕も誘われた事があるけど、星凪先輩も一緒に勉強しているって聞いて遠慮している。
その代わり、僕は毎朝姉さんの弁当を自習室まで届けている。姉さんの時間に合わせると、お弁当が間に合わないから。
そっと自習室に入ると、姉さんと星凪先輩が隣り合わせで座って勉強していた。姉さんがわからない所を聞いているのか、二人の肩が近くて羨ましかった。
ずきん、、、
*****
放課後
「昴くん!」
と声を掛けられて振り向くと、同じクラスの笹山さんがいた。
「あの、、、。今、付き合ってる人、いますか?」
誰もいない廊下で、いきなり聞かれた。
「えっと、、、いないけど、、、」
「じゅあ!好きな子は?」
「あ、、、」
「、、、あー、、、いるんだ。そっか、残念、、、」
「ごめん」
何に謝ったのか、わからないけど。
「あれ、昴」
「あ、じゃあ、これで!」
笹山さんは星凪先輩を見ると慌てて去って行った。
「告白された?」
「付き合ってる人がいるか聞かれて、、、」
「いるの?」
星凪先輩が綺麗に笑う。
「いえ、、、」
「好きな人」
?。
僕は星凪先輩の顔を見る。
「いるって言ってた」
「聞いてたんですか?」
「そこだけ、聞こえて来た」
視線を落として
「そうですか、、、」
(聞かれちゃった、、、)
と言うと
「ちょっと来て」
僕の手を引き、角を曲がって階段の防火扉の影に連れて行く。
「どんな人?」
聞かれても、どう答えたら良いかわからない。
星凪先輩は、姉さんの彼氏だ。絶対バレてはいけない。
「昴?」
優しい声だな、、、。
「言えない?」
僕はコクンと頷く。
「そっか、、、」
しばらく一緒にいてくれた。
「、、、いつから好きなの?」
「中学から」
「初恋?」
「初恋は別の人です」
「、、、告白しないの?」
足元のタイルを見ながら
「彼女がいるから」
答える。
あ、、、。
「それでも、諦められないんだ」
「はい」
「叶わない恋なら諦めれば?」
ずきん、、、
「諦められるなら、早く諦めたいです、、、」
僕の好きな人は、星凪先輩なのに、、、。星凪先輩本人に諦めればって、言われるなんて、、、。
「その人を諦めるまで、俺と付き合おうか?」
はぁ?
「えっと、、、何を言ってるのか、ちょっと、、、」
わかりません、、、。
「俺と付き合ってる間に、その人の事、忘れられるかもよ」
いやいやいや、、、待って、理解が追いつかないよ。だって、星凪先輩は、僕の好きな人で、姉さんの彼氏だよね。姉さんの事、裏切る気なの?
「昴の好きな人、男の子でしょ?さっき、彼女がいるって言ってた」
(気付かれて無いと思ったのに、しっかり聞かれてた、、、)
「好きな相手が男の子なら、その子を忘れる為に俺と付き合っても良いよね」
「でも、星凪先輩、受験生ですよね。余計な面倒事、抱え込まない方が良いと思います」
「俺は大丈夫、優秀だから」
、、、まぁ、確かにそうだけど、、、。
でも、姉さんは?星凪先輩が浮気してるってわかったら、姉さんはどうなっちゃうの、、、?しかも、弟と浮気なんて、姉さんが可哀想だよ。、、、やっぱりダメだ。
「僕、大丈夫です。星凪先輩も、受験に集中して下さい」
ペコリとお辞儀をして、階段を降りる。
僕は姉さんも星凪先輩も好きだ。だから、姉さんが悲しむ事はしたく無いし、星凪先輩にも誠実でいて欲しい。
僕が我慢すれば良いだけなんだ。
*****
「俺の昴に好きなヤツがいる、、、」
「あんたでしょ?」
「違う、、、ソイツには彼女がいるらしい」
「えー、、、。昴にそんか相手いるかなぁ、、、。あ、でも、恋愛対象男子なんだね、わかって良かった良かった」
美月は星凪を元気付ける。
「俺だって、ずっと昴の事好きだったのに、、、。なんで、、、」
「あんたが早く告白しないからでしょ?」
「去年は、昴受験生だったし」
「昴が受験終わったら告白すれば良かったじゃない」
「無理だよ。俺のハートはガラスで出来てるんだから、、、」
「バカね、、、。他の人の物になったらどうするのよ」
*****
11月の半ばが過ぎると、姉さんと星凪先輩は午前授業になった。受験を控えているから、学校の授業も終わり後は受験勉強に専念する。
僕が夕方学校から帰ると、二人は仲良くリビングで勉強していて、邪魔をしないように僕は静かに自分の部屋に行く。
たまに聞こえて来る二人の声に、ちょっと心を乱されながら、僕は僕の気持ちに気付かないフリをする。
12月になると流石に、星凪先輩も自宅で勉強する様になり、家に来る事は無くなった。
淋しいようなホッとするような、でもやっぱり淋しくて堪らなかった。
僕にはこの会えない時間が必要だった。星凪先輩の姿を見たり、声を聞くと心が揺らいでしまう。星凪先輩が僕に微笑んだ訳でも無いにドキドキしたり、名前を呼ばれて嬉しくなる様な感情は捨てたかった。
そうで無ければ、僕は星凪先輩が欲しくなる。姉さんの彼氏なのに、いつも側にいたくなるなんて、よく無い感情だ。
*****
姉さんは、ちゃんと希望の大学を合格して春から大学生になる。星凪先輩も都内の大学に合格したらしい。
卒業式で、やっと星凪先輩の顔を見る事が出来た時は嬉しかった。まだ、星凪先輩に会って無かったから、すごく久しぶりに感じた。
国公立大学の発表が終わり、姉さんと星凪先輩の入学する大学も決まった頃、星凪先輩が家に遊びに来た。僕は二人の邪魔にならない様に、静かに自分の部屋にいた。
「昴?星凪がケーキ買って来たから、一緒に食べよう?」
僕はドアを開けて
「僕も一緒でいいの?」
と姉さんに聞く。
「星凪も呼んでるよ」
二人の邪魔をするみたいで、遠慮していたけど、星凪先輩が誘ってくれたなら一緒に食べたい。
「じゃあ、僕がコーヒーを入れるよ」
「ありがとう、星凪、喜ぶよ」
コーヒーを入れると言っても、インスタントコーヒーだけど。姉さんと僕と、来客用のカップを出してコーヒーを入れる。お盆に載せて、リビングに運ぶと星凪先輩がいた。
「また、背が伸びました?」
暫く見ない内に、背が高くなったみたいだ。
「受験終わって、寝てばかりだったからかな?」
と言って笑うと
「コーヒーありがとう。ケーキ選びな」
と言ってくれた。
「姉さんは?」
「私はショートケーキがいいな」
「星凪先輩は?」
「俺は残った方で良いから、食べたいの選びな」
僕に気を遣ってくれるのが嬉しい。
僕はチョコレートケーキにした。
「じゃ、俺はモンブランね」
お皿にケーキを取り出して、フォークを添えて配る。
「やっと、受験終わったよ」
「長い間お疲れ様でした」
「暫く自由を満喫しないと」
三人でのんびりケーキを食べ、コーヒーを飲んだ。 大学の入学式の話になったり、バイトの話になったりして星凪先輩の声を沢山聞いた。
「ご馳走様、コーヒーお代わりする?」
僕は食器を片付けながら、二人に聞いた。
食器を洗いながら、お湯を沸かし、二人分コーヒーを入れる。僕はリビングにコーヒーを運ぶと
「じゃあ、僕は部屋に戻るね。ごゆっくり」
と言って、お盆を下げる。
本当はもっと一緒にいたいけど、二人の邪魔をしたらいけないから。
それに、星凪先輩といる時間が長ければ長い程、僕は星凪先輩を大好きになる。
*****
暫くして、ドアをノックしながら、星凪先輩が僕の名前を読んだ。
「昴、ちょっと良い?」
僕はドアを開ける。
「どうしたんですか?」
「その、、、ちょっと話がしたくて」
「良いですよ」
「中に入れてくれないの?」
「あ」
僕は入り口を広く開けて、招き入れた。
「あれ?姉さんは?」
「友達から連絡あって、出掛けた」
星凪先輩がゆっくり部屋に入って来る。
「どうぞ、どうぞ」
先輩は僕のベッドに腰掛けて、隣をポンポンと叩いた。僕はちょっと間を開けて座った。
「前にさ、好きな子がいるって言ってたけど、どうなったの?」
その話しだったのか、、、。
「特に何も、、、」
「まだ、諦めて無いの?」
「、、、はい」
「あれから半年位経つのに?」
「ずっと片想いですから」
「相手、彼女いるんでしょ?」
「はい」
「やっぱり、そんなヤツ辞めて、俺と付き合おう」
「星凪先輩、姉さんと付き合ってるんでしょ?」
僕は、はっきりと言った。
「二股なんてダメですよ、、、」
言葉にして、ちゃんとケジメを付けないといけない。僕は星凪先輩の恋人の弟なんだ。
「付き合って無いよ?」
「え?」
「あれ?」
二人で顔を見合わせる。
「だって、中学から仲が良いし、姉さんが好きだから高校も、生徒会も追い掛けて入ったんじゃ無いの?」
「え?違う違う」
「?じゃあ、何でいつも一緒にいたんですか?」
「あー、、、昴がいるから?」
星凪先輩の顔が赤くなる。
「美月とは気も会うし、他にも色々あるんだけど、美月と一緒にいると昴の話し聞けるじゃん」
僕の顔も赤くなる。
「それに、昴の家に来たり昴に会えるし、昴と話しも出来る」
「でも、姉さんは星凪先輩の事好きかも」
「それは無い」
「どうして断言出来るの?もう告白されたの?」
「いや、美月の好きな相手は、俺の兄貴だから」
「、、、お兄さん、いたんですか?」
「一つ上にね。美月は兄貴に憧れて中学の生徒会に立候補したし、高校も追い掛けて、高校の生徒会も追い掛けて入ったんだ」
「え、、、姉さんが?」
「美月も昴と一緒で諦めが悪いのかな?」
「、、、人を好きになるとか、嫌いになるとか、自分ではコントロール出来ないから、、、」
「そうだね、、、確かにそうだ。俺も、何だかんだ、昴に好きな人がいるってわかっているのに、諦められない」
「そうなんですね、、、」
、、、ん?今、なんて?
僕はもう一度聞きたくて、星凪先輩の顔を見た。
「ん?」
「あの、今のちょっとわからなかったです。もう一度」
「、、、俺はね、昴と初めて会った時から好きだったんだ」
星凪先輩が苦笑いをした。
僕の頭は処理が追いつかないのか、フリーズした。
「だからね、昴が辛いのイヤだし、俺は昴と付き合いたい、、、。彼女がいるヤツなんて辞めなよ。辛いだけだろ?」
星凪先輩の手が伸びて来るのがわかり、星凪先輩の顔を見る。
フリーズした僕の頬を星凪先輩が触る。
「昴?大丈夫?」
「大丈夫、、、と、思います」
「俺じゃあ、だめかな?」
僕は今まで、何を我慢していたのか、何の為に我慢していたのかわからなくなった。
「え?両思いだったの?」
星凪先輩の瞳を見る。両方の瞳を交互に見ると、瞳が綺麗で見惚れてしまう。
「両思い?」
星凪先輩は、口に出すと理解したのか
「昴、俺が好きだったの?」
もう一つの手も頬に添える。
僕は瞬間、恥ずかしくて身体を後ろに反らせた。星凪先輩が支える様に背中に手を回す。
「昴?」
「あの、、、」
「昴の好きな人って、俺だったの?」
ブワッと顔に血液が集まる気がする。恥ずかしくて死にそうだった。
「俺と付き合おうよ、、、」
星凪先輩が、僕を抱き寄せて言う。
「あの、えっと、、、。うあ?」
星凪先輩の身体が密着する。身体の胸の辺りが隙間無くくっついて、溶けて一緒になっちゃうんじゃ無いかと思う位気持ち良い。
星凪先輩は、何も言わずに僕を抱き締めていた。
抱き締めたまま、僕の側頭部に頭をスリスリ擦り付ける。何だか可愛いな。
「昴」
僕は、ちょっと落ち着いて来て、星凪先輩の背中に手を回す。星凪先輩が耳元で
「ん、、、」
と声を洩らす。
「昴、返事貰ってない、、、」
耳元で囁かれた。ゾクゾクっとした瞬間、僕が咄嗟に身体を離そうとしたら、星凪先輩は更に強く抱き締めた。まるで、僕を逃さない様に、、、。
「好き、、、」
ワザと耳元で囁いている。僕は、星凪先輩の背中に回した手で、星凪先輩のシャツをぎゅっと握る。
「昴?」
名前を呼ばれただけなのに、僕は変な声が出そうになる。真っ赤になって、星凪先輩の肩に額を押し付けると、先輩が頭を撫でてくれた。
星凪先輩が、そのまま身体を後ろに倒すから、僕は先輩の上に覆い被さる様になる。
先輩の心臓の音が規則正しく聞こえる。トクトク聞こえる音が気持ち良くて、ウットリする。
「はぁ、、、ダメだ、、、」
(ダメ?)
僕は星凪先輩の顔を見上げる。星凪先輩は、もう一度僕を抱き締め、ゴロンと体勢を変えた。
(え?)
「昴が可愛すぎて困る、、、」
僕を上から見下ろしてそう言うと、ゆっくり顔が近づいて来た。
僕がぎゅっと目を瞑ると、額にチュッとキスをされた。星凪先輩の唇がそっと離れると、緊張が解れて力が抜けた。
星凪先輩が上から覆い被さる様に抱き締め
「ね、返事聞かせて、、、」
と言う。
僕は、星凪先輩を抱き締めて
「僕も大好きです。付き合って下さい」
と答えた。
*****
大学生になってから、星凪先輩は家に来なくなった。
でも、バイトを地元で選んでくれたから、僕はちょくちょく覗きに行く。
夕方から夜まで、月曜日と木曜日、金曜日に駅前の商店街にあるカフェでバイトをしている。僕は学校の帰りにいつも、星凪先輩がいないか覗いてから帰る。
でも今日は、お小遣いを貰ったばかりだから、奮発して星凪先輩のバイト先でコーヒーを飲んで帰ろう。
改札を出ると姉さんと知らない人が前から歩いて来た。
姉さんは僕に気付いて手を振る。一緒にいる人は誰だろう、、、。
「昴!」
僕が隣の人を見ていたから、姉さんが
「私の弟の昴です」
と男の人に紹介してくれた。
「昴、星凪のお兄さん」
「え!カッコ良い、、、」
姉さんの周りには、カッコ良い人が多いな、、、。
「今晩は」
と言う笑顔が、少し星凪先輩に似ていた。この人が姉さんの好きな人なんだ。、、、デートかな?
「昴、今日はご飯食べて帰るから、遅くなるね」
姉さんは少しご機嫌だった。相手の人を見たら何だか良い雰囲気。
「じゃあ、僕も星凪先輩と帰ろうかな、、、」
と言うと
「今、私達も行って来たよ。忙しそうだったけど、9時には終わるって!」
「ありがとう、姉さん達も楽しんでね」
星凪先輩のお兄さんは、少し頭を下げて挨拶をした。
暫く見ていたら、二人で手を繋いで歩いて行くから、付き合ってるのかな?と思った。
お店に入ると、レジに星凪先輩がいた。僕は目が合うと恥ずかしくなって、そそそとレジに寄る。
「いらっしゃいませ」
星凪先輩が優しい声で言ってくれる。自分の顔が赤くなるのがわかる。
メニューを見ながら、蜂蜜ラテを頼む。
「サイズはどうしますか?」
と聞かれて
「Lサイズでお願いします」
「かしこまりました」
、、、カッコ良い、、、。
「あの!」
星凪先輩が、どうしたの?って顔をする。後ろに待っている人がいないのを確認して
「今日、一緒に帰りませんか?」
ちょっとびっくりした顔をしてから、嬉しそうに
「9時に終わるから待ってて」
て言ってくれた。
僕は、1番奥の席を選ぶ、でも、ちゃんと星凪先輩が見える席。
蜂蜜ラテを飲みながら、教科書を出す。チラリとカウンターを覗くと大学生の女の子が一人いた。一緒に仕事をしているみたいだ。
彼女は、何かと星凪先輩に近寄りちょっかいを出している。
星凪先輩は愛想が良いから、彼女とも楽しそうにしている。
ずきん、、、
思えば、僕は外の世界の星凪先輩を知らない。いつも姉さんの隣にいて、学校か家で会うだけだった。仕事中の星凪先輩はカッコ良いけど、知らない人みたいだ。
彼女が星凪先輩の肩に手を掛けた、、、。僕は、見ちゃいけないと思って、教科書を見る。でも、気になって仕方が無かった。
彼女が星凪先輩の耳元に顔を寄せて、内緒話をしているみたいだった。
それから僕は星凪先輩を見る事が出来なくなった。
来る時はすごく嬉しかったのに、今は、来なければ良かったと後悔している。
*****
カフェは9時までだったから、僕は閉店前に片付けをして店を出た。星凪先輩は9時まで仕事だから、店の外で待つ事にした。
出て、直ぐの場所だと迷惑になりそうだから、少し離れた場所で待つ。
星凪先輩が出て来たと思ったら、さっきの彼女が追い掛けて来て、先輩と腕を組む。先輩と目が合った途端頭が真っ白になった。
僕はため息を吐いて家に向かう。星凪先輩は追い掛けて来ない。彼女を説得してるのかも、、、。
もう一度ため息を吐いて、空を見上げる。何も無い。商店街の灯りで、空は黒いだけだった。
トボトボ歩いていたら、後ろから星凪先輩が追い付いて来た。
「昴」
僕は星凪先輩の顔を見る。
「用事があるみたいだったから」
ボソッと言う。
「一緒に帰ろうって誘ってくれた、、、」
「うん、、、でも、何と無く、、、」
あの人と仲良さそうだったから、、、。
先輩が手を繋いでくれた。指先だけ、、、。
僕の指先を握って、角を曲がる。
家とは方向が違う。商店街を外れ、住宅街を少し歩く。小さな公園があった。
公園の入り口の自販機で、コーヒーを2本買う。
ベンチに座る様に促され、コーヒーを貰う。
「怒ってる?」
「怒ってないです」
「どうして帰っちゃったの?」
「なんか、、、見たく無かったから、、、」
「、、、ごめん」
「星凪先輩は別に悪くないでしょ?」
「でも、、、」
僕は話しを変えたくて
「星凪先輩のお兄さんに会いました。カッコ良いですね」
星凪先輩の顔を見て笑う。
「そうかな?」
「姉さんと一緒に、星凪先輩の店に行ったって言ってました」
「昴が来る前に店に来た」
「二人でご飯を食べに行くみたいでした」
「そうなんだ」
「笑った顔が星凪先輩に似てました」
「、、、」
「お兄さんと仲が良いんですか?」
「星凪先輩より一つ上ですよね?」
星凪先輩は何も答えない。どうしたんだろうと顔を見ると
「俺の兄貴の事気に入った?」
と聞いて来た。
「ダメだよ。もう、美月と付き合ってる。今日は初めてのデートだって」
「だから、姉さんいつもと違ったんだ」
「、、、昴が兄貴を好きになってもムダなんだ」
「???、、、何で僕が星凪先輩のお兄さんを好きになるんですか?」
「、、、だって、兄貴の事、気に入ったみたいだから」
「どうしてそんな事になるんですか?」
「色々知りたいみたいだし、カッコ良いって言ったから、、、」
「星凪先輩のお兄さんならカッコ良いでしょ?」
星凪先輩は、コーヒーの缶をそっと置いて僕を抱き締めてくれた。
「昴と付き合ってるのは、俺だからね?」
「はい、、、」
「他の男の事、褒めないで」
「他の男って、、、お兄さんでしょ?」
「そうだけど、、、ちょっとイヤだなって、、、」
「それなら僕だってさっきイヤだった、、、」
「ごめん」
「仕事中も、星凪先輩の事触ってばかりだし、耳打ちしたり、腕組んだり、、、。今まで僕が知らなかっただけで、ずっとそうだったのかと思うと、、、」
ため息が出た。言っても仕方の無い事を話しているって自覚している。
「ごめんなさい。仕事だから仕方ないよね」
僕は、星凪先輩からちょっと離れた。
「もう、先輩のバイト先には行かないよ。仕事の邪魔になるし、こんな気持ちになりたく無い。、、、急に行ってごめんなさい」
僕達は、何だか上手く出来なくて沈黙ばかりが続いた。
「遅くなるから帰ろう、、、」
時計を見ると9時半を過ぎていた。僕はまだ高校生だし、制服だったから早く帰らないと、、、。
二人で歩いているのに、星凪先輩と距離を感じて淋しかった。
星凪先輩が手を握ってくれた。僕は素直になれないし、上手に出来ないから少し安心した。
「星凪先輩、、、好きです、、、」
「うん、、、」
「ヤキモチ妬いてごめんなさい、、、」
「うん、、、」
二人でゆっくり歩いた。不意に涙が溢れて
「でも、やっぱりヤダな、、、」
歩きながら泣いた。
「星凪先輩が他の人に触られるのも、仲良くするのも見たく無いよ、、、」
制服の袖口で涙を拭く。
「でも、ヤキモチ妬く自分もイヤだ、、、」
「ごめん」
星凪先輩は、僕の手を握ってくれた、、、。反対の手で涙を拭っているのがわかった。
*****
先輩はカフェのバイトを続けている。僕はお店には行っていない。
「兄貴と美月、順調らしいね」
「この間、お兄さん、挨拶に来ました。ちゃんと挨拶してから二人で旅行に行きたいからって」
僕は高校2年生になって、星凪先輩に勉強を見て貰っている。夏休み、お互い時間もあるし、来年は受験が待っているから、、、。
星凪先輩は、文句も言わずに僕の勉強に付き合ってくれる。僕の部屋で、自分の勉強をしながら、午前二時間。お昼を食べて二時間、おやつを食べて二時間。
僕は一人では勉強出来ないし、すごく有難い。
「星凪先輩?」
「うん?」
「お昼、オムライスでも良いですか?」
「え?オムライス、、、食べたい、、、」
「じゃあ、今日はオムライスにしましょう」
「大変じゃ無い?」
「姉さんがいたら大変だけど、二人分なら大丈夫です」
「そうなんだ」
「三人分はいっぺんに出来ないから」
「オムライス、何年も食べて無いな、、、」
星凪先輩が嬉しそうに笑う。
12時まで勉強して、二人でキッチンに移動する。
僕は玉ねぎをみじん切りにして、ソーセージをスライスする。星凪先輩がウロウロするから落ち着かなくて
「リビングで待っていてください」
と言うと
「イヤだ、此処にいたい」
と言う。包丁とか火があるから危ないのに、、、。
星凪先輩は、横で洗い物をしてくれた。使わない調理器具を洗っている。大した量じゃないのに、洗い物が一つ出ると、スポンジで洗う。次の洗い物が出るまで、泡の付いたスポンジを持って待っている。可愛い、、、。
僕がオムライスに卵を乗せると
「おお!」
と声を上げる。もう、可笑しくて可笑しくて、、、。
二人分のオムライスを作り、ケチャップと一緒にリビングに運ぶ。
「あ!スプーン、スプーン」
とキッチンにスプーンを取りに行き、二人分の水も準備する。お盆に乗せてリビングに行くと、オムライスにハートが書いてあった。定番と言えば定番だけど、やっぱり嬉しい。
「俺の気持ち」
「作ったのは、僕ですけどね」
よく見ると星凪先輩のハートは少し、歪で失敗していた。僕のは綺麗なハート。こんな所も、僕が先輩を好きになった理由かも知れない。
「頂きます」
と手を合わせてスプーンを持つ。ハートを崩すのが勿体無くて、端から食べる。
先輩は、真ん中からガッと掬うと大きな口で食べた。
「うまーい!」
と言ってくれた。
「バイト先のあの人ね、、、」
「?」
「昴がヤキモチ妬いた、、、」
(ああ、、、あの彼女)
「バイト辞めたよ」
「え?どうして?」
「うーん、わからないけど先週から見ないなって思っていたら、辞めたって」
「そっか、、、」
「たまにはお店においでよ」
「、、、(うー、、、ん)」
「その、、、バイト先のみんなに紹介するから」
「え?」
僕はスプーンを持ったまま、固まった。
「みんな昴に会いたいって、、、」
「え?」
「あんな事があったから、俺、付き合ってる人がいるってアピールしまくってるんだ。そしたら、みんなが会いたいって」
「でも、、、僕、大丈夫かな、、、」
「何が?」
「女の子じゃないから、、、」
「もう、みんな知ってるよ」
「え!」
「ただ、ごめん。昴の事、職場で彼女って言ってる、、、から、、、。昴、イヤかな、、、」
「、、、星凪先輩、、、」
「後さ、、、その、先輩ってヤツ、、、そろそろ辞めない?」
僕の顔が赤くなる。
「はい、練習」
星凪先輩が、向きを変えて正座する。僕も釣られて正座した。
星凪先輩は僕の両手を掴んで
「星凪って言って」
「う、、、星凪、、、」
恥ずかしくてどこを見たら良いかわからない、、、。瞼を思いっきり閉じる。
唇にチュッとされた。
「え?」
「はい、もう一度」
「星、、、凪、、、」
チュッ
「はい、もう一度」
星凪の顔が近付いて来る。ゆっくりゆっくり
「星凪」
自然に瞼が閉じて、星凪の唇を待ってしまう。
チュッ
チュッ、、、。
「昴、大好き」
星凪が抱き締めてくれた。
「僕も星凪が大好き」
僕からもキスをした。
僕は、星凪が大好きなんだ。
美月ちゃんは夏休みに、星凪兄と旅行に行きました。




