ヒロインはピュア☆ピュア
思いつきの短いお話しです。
ピュアリナはピンクのふわふわ髪とあめ玉みたいな金色の瞳の女の子。
12歳の時に女手ひとつで育ててくれた母を事故で失ったが、親身になってくれた近所の人達に助けられながら日々がんばって暮らしていた。
それが一変したのは15歳の時。
近所のパン屋の手伝いを終えていつも通り売れ残りのパンを貰って帰れば、見た事の無い立派な馬車が家の前に留まっている。
馬車から出てきた高そうな服を着た不機嫌そうな男に
「ピュアリナとはお前か?」
と聞かれたのでそうだと答えると、そのまま腕を掴まれて馬車にのせられ、知らないお屋敷へ連れていかれた。
そこで初めて父親だと言う男爵に会ったのだが、父の話など母からは全く聞いたことは無かったし、男爵と自分は顔どころか髪の色も目の色も違う。
正直半信半疑だが身寄りも無い平民の子どもが貴族に逆らえる訳もなく、現状を受け入れるしかなかった。
それから3か月、辛うじて読み書きができるだけだったピュアリナは貴族として最低限ギリギリの学習や礼儀作法を叩き込まれ、王立学院へ入学させられる事となる。
入学直前、屋敷に連れてこられてから会うのはこれで2度目の男爵は
「お前を引き取ってやった恩を返すのだ! その顔と体で今年入学する王子か高位貴族を誑しこんで来い!」
と嫌な笑いを浮かべながら命じたのだった。
「――でも、そのタラシコ?タラシコン?っていうのがわからないんです! 男爵様は質問する間もなくお部屋を出て行っちゃったし、お顔と体を使って学校でする事らしいんですけど、お屋敷のメイドさんや執事さんも知らないのか教えてもらえなくって……」
王子様やコウイ……好意?校医?とにかく貴族様に関係あることのようだが、ついこないだまで平民の孤児だったピュアリナには雲の上の方々の事など想像もつかない。
「なので、先生!タラシコンってなんですか?」
ハキハキと元気いっぱい手を上げて聞くピュアリナに、優しい笑顔を湛えたまま黙って話を聞いてくれていた年配の教師は
「――――なるほど。わからない事を恥ずかしがってそのままにせず、ちゃんと聞けたのは偉いですね、ピュアリナ様。」
「えへへ……はい!」
小さい頃から母には「わからない事じゃなくて見栄や意地を張ってわからないままにする事が恥ずかしいのよ。」と言われてきた。
なんだか母の事も褒めてもらったようで嬉しい。
「ですが、お答えする前にもう少し詳しいお話を聞かせていただく必要があるようです。この後、寮の部屋に帰って学用品類を置いてから学園長室に来ていただけますか?」
「はい、わかりました!よろしくお願いします!」
花丸満点笑顔でお返事をしたピュアリナはホッとした。
王立学園の生徒は基本的に貴族ばかり。
3か月前まで平民だったピュアリナに知りあいなどいる筈もなく、爵位によっては気軽に話しかけるのはマナー違反になると聞いていたので誰にも聞けずに困っていたのだ。
だから入学式の後、教室で色々説明してくれた教師が「ここまで、何かわからない事や質問はありますか?」と言ってくれて本当に助かった。
――――そう、これは入学式直後の事。それぞれの教室でガイダンスを受けているまっ最中の出来事である。
「では、他に質問などは無いようですのでこれで新入生ガイダンスを終わります。」
最後まで穏やかな微笑みを浮かべたままの教師だったが、暖かい慈愛の目を向けられているピュアリナ以外の生徒の顔色は悪い。
「――そうそう、今後の予定ですが“若干”変更があるかもしれませんので、皆様お家へのご連絡は“今しばらく”お待ちくださいね?」
教室にいる全員が力いっぱい頷いた。
その後、悩みが晴れたピュアリナは足取りも軽く教室を出て行ったが、同じクラスだった王子は王族らしい微笑みを浮かべたまま固まっていた。
騎士団長子息は目と口かっぴらいたままピュアリナの出て行った扉を凝視し、宰相子息は頭を抱えて机に突っ伏している。
やはり同じクラスだった王子の婚約者である侯爵令嬢は
「マジか……ヒロインがここまでピュア系アホの子とか想定外なんですけど……」
と誰にも聞こえないような小さな声で呟いたという。
――――とりあえず、乙女ゲー転生悪役令嬢無双は始まりそうに無い。
ヒロインはとてもいい子だったので、その後学園長を後見に、先生の養子になって幸せにくらしました。
男爵は、ええ、叩いたら埃が出てきたそうなので然るべき感じになったそうです。