第一節 大記録会と、約束のパーティー
12月25日、クリスマス当日。
外の空気は澄んで冷たく、吐く息が白く空に溶けていく。けれど、リンの家のトレーニングルームは、朝から熱気に包まれていた。
今日は、4人が長い時間をかけて準備してきた「大記録会」の日。
これまで積み重ねてきたトレーニングの成果を、ひとつひとつ確かめるように挑戦していく、特別な一日だ。
ホワイトボードには、今日の記録種目が整然と並んでいた。
•リズム体幹・全力チャレンジ
•スクワット・連続回数
•プランク保持時間
•開脚・柔軟性チェック
•腹筋・限界チャレンジ
•ベンチフォームチェック(クロール・背泳ぎ)
「じゃあ、始めようか」
ハルの合図で、4人の記録会が幕を開けた。
リズムに乗せた腕立て、ぶれずに体幹を支えるプランク、柔軟性を測る開脚。
どの種目も、春のころに比べて見違えるほど成長していた。
「さち、腹筋……しっかり割れてきてるね!」
「ユキの肩のラインもすごいよ。ほんと、水泳の選手みたい」
「リンのI字バランス、足の先まできれいに伸びてる……!」
「なんだか、みんな本当に変わったね……うれしいな」
最後は、さちが腹筋ベンチに腹ばいになり、クロールのフォームチェック。
横に置かれたタブレットには、スイミングスクールで撮った自分の泳ぎの映像が再生されている。
「ここの手の動き、前よりずっとスムーズになってる」
リンが体操の視点で、肩の可動域や骨盤の安定感について具体的なアドバイスをくれた。
フォームを見直すだけじゃない。
今日の記録は模造紙に記され、トレーニングノートにもていねいに書き込まれていった。
こうして、“大記録会”は大成功で終わった。
──
午後になると、ジムの空気が静かに冷えはじめた。
汗を拭き、着替えを終えた4人は、リビングへと移動する。
そこには、クリスマスパーティーの準備が整っていた。
テーブルの上には、キャサリンが用意した料理やスイーツ。そして、さちの母・真由美が手作りして持参した煮込み料理やサラダが彩りを添えていた。
「本当に、たくさん作ってきてくださったんですね」
キャサリンが目を輝かせる。
「いえいえ、うちの子がいつもお世話になってますから。感謝の気持ちです」
真由美が少し照れくさそうに笑った。
そのとき、玄関から長身の男性が現れた。
短髪で落ち着いた笑顔のその人物に、キャサリンが声をかける。
「紹介するわ。夫のマーク・ハリソンです」
「こんにちは。娘のリンがお世話になっています。日本語、少しだけ……でも、がんばってます」
マークはたどたどしくも丁寧に頭を下げた。
「マークさん、ようこそ。娘さんにはこちらこそ、助けられてますよ」
あかねが柔らかく返す。
「まさか、本当に家族ぐるみのパーティーが実現するなんて」
たくみも思わず目を細めた。
リンはと言えば──
「この前、テレビ電話でパパと話してね。パパも来られるなら、みんなの“パパとママ”も一緒にって」
ちょっとはにかみながら、でも誇らしげに話していた。
リビングには笑顔と、香ばしい料理の香りが広がっていく。
記録会という目標。
そして、約束していた家族みんなでのクリスマスパーティー。
努力は絆を生み、絆は成長を引き寄せた。
その夜、リンの家には笑い声がいつまでも響いていた。




