第二節 エントリーの決意
放課後、さち、ハル、ユキの3人はスイミングスクールへ向かっていた。入り口では、いつもの笑顔のコーチが出迎えてくれた。
「ちょうどいいところに来た。伝えたいことがあるんだ」
そう言って、コーチは3人に一枚ずつプリントを手渡す。
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市民水泳大会 12月開催決定
一般・小学生・中学生の各部門で出場者を募集します
※初心者チャレンジ枠あり
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「ついに正式発表か!」
ハルが嬉しそうに声を上げた。
「今年も一般の大会として開催されるんですね?」
ユキの問いに、コーチはうなずいた。
「そう。今年は“初心者チャレンジ枠”が新設されたんだ。水泳歴が浅くても出場できる。さち、挑戦してみないか?」
少し驚いたように目を見開いたさちは、数秒の沈黙ののち、小さくうなずいた。
「……はい。出たいです。挑戦してみたい」
その言葉に、ハルとユキが自然と笑みを浮かべ、そっと背中を押すようにうなずいた。
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その夜、さちは夕食を終えると、プリントを手に母・真由美のもとへ行った。
「市の大会、出ることにした」
「……そっか」
真由美は紙を見つめてから、ゆっくり微笑む。
「そう思えるようになったんだね。さち、本当に強くなった」
「……ううん、強くなれたのは、仲間がいたから」
少し照れくさそうに、でも誇らしげに答えると、さちは筆箱を取り出し、エントリー用紙に自分の名前を丁寧に書き込んだ。
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翌日、スイミングスクールの練習を終えたさちは、ハルとユキと一緒にリンの家を訪ねた。玄関先にリンが飛び出してくる。
「Welcome back! 今日の練習、どうだった?」
「さち、ついに市の大会にエントリーするって」
ユキが嬉しそうに報告する。
「Wow! That’s great! Really proud of you, Sachi!」
「ありがとう。ちょっと緊張するけど……やってみようって思った」
「じゃあ、フォームチェックのとき、私もアドバイスするね。肩とか、可動域、体操視点で見てみる!」
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トレーニングルームに入り、モニターにさちの泳ぎの映像が映し出される。
「ベンチにうつ伏せになって、動きを再現してみて」
ハルの指示で、さちは腹筋ベンチにうつ伏せになり、クロールのフォームをゆっくり繰り返す。
「このとき、肩の可動域が足りないと、水の“キャッチ”が浅くなるの」
リンが自分の体で動きを示しながら解説する。
「どうすればもっと動かせる?」
さちが尋ねると、リンは優しく手を添えて肩甲骨の動かし方を伝えた。
「こうやって意識すると、ローリングも自然になるよ」
さちは数回試してみて、ふっと息をつく。
「おお……少しだけ、水を押せる感覚がつかめてきたかも!」
「Great!その感覚、忘れないでね!」
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その日のトレーニングは、通常のメニューに加えて、フォームの細かな確認とリンのサポートが加わり、濃密で充実した時間になった。
「じゃあ、明日も頑張ろう。大会までもうすぐだよ」
「うん。“今の自分”を信じて、しっかり泳ぎ切る!」
笑顔を交わし合う4人。
それぞれの思いが、ひとつの目標に向かって重なっていく。
冬の空気の中でも、その決意だけは、あたたかく、強く燃えていた。




