第一節 仲間のために、できること
「……さち、今日はお休みです」
担任の先生の朝の一言に、教室が一瞬静まり返った。
「えっ?」とハルが小さく声をもらし、ユキとリンも同時に顔を上げる。
「どうしたのかな……」
「昨日まですごく元気だったよね」
「風邪かな……?」
3人は顔を見合わせた。目は、ほんの少し驚きに見開かれている。
「あんなにトレーニングしてても、風邪ってひくんだね……」
ハルがぽつりとつぶやいた。
「それだけ、がんばってるってことよ。身体、限界だったのかも」
ユキが、昨日のさちの様子を思い出すように目を細めた。
「とにかく、今日はさちのぶんも、ちゃんとがんばろう」
リンのまっすぐな言葉に、3人は静かにうなずいた。
1時間目が始まると同時に、チームトレノの3人は行動を開始した★。
ハルはいつも使っているルーズリーフの束から、余白の多いページを手際よく分けた。
「このページに1時間目と2時間目、ユキ、お願い」
「うん。じゃあ、私は3時間目と4時間目ね」
「私は、さちがもらえなかった配布プリントをまとめておくわ」
リンはファイルを取り出し、丁寧に名前を書き入れて分類を始めた。
板書にはいつもより少し時間がかかったけれど、3人は一言も文句を言わず、それぞれの役割を集中してこなした。
そして5時間目、学級活動の時間。
「みんな、11月半ばに行われる『成果報告会』の準備を始めます」
担任の先生が、前に出て話し始めた。
「このクラスのテーマは、“地域の伝統とその未来”です。他の地域と比べながら、自分たちの住んでいる街の歴史や文化を調べて、まとめてもらいます。班に分かれて、模造紙やスライドで発表できるようにしましょう」
教室がざわつき、クラスメートたちは班分けの相談を始める。
だが、誰もチームトレノの4人を誘おうとはしなかった。
「トレノの4人は、もうチームだもんね」
「うん、いつも息ぴったりだし」
それが“当たり前”のように受け入れられている空気だった。
ハル、ユキ、リンの3人は、小声で相談した。
「やっぱり、さちを交えて決めたいよね」
「うん。誰が何を調べるかも、一緒に決めたい」
「じゃあ、先生に伝えよう」
3人は手を挙げ、担任に声をかけた。
「先生、私たちの班は4人チームです。でも今日はさちがお休みなので、明日までに話し合って、報告します」
ユキが代表して伝える。
先生は少し驚いたように目を見開き、やがて笑顔になった。
「そうか、ありがとう。チームトレノの結束は素晴らしいね。もちろん、それでいいぞ」
その返事に、3人は顔を見合わせてにっこりと笑った。
放課後。
トレーニングを終えた3人は、それぞれの役割をこなしながら準備に取りかかった。
「プリントとメモ、ファイルに全部まとめたよ」
「ルーズリーフも、読みやすいように色分けしておいた」
「お見舞いだから、お菓子とかも少し持っていこうか?」
ハルがバッグを整理しながら言う。
「さち、喜ぶかな……」
ユキが少し不安そうに呟く。
「喜ぶに決まってるよ。さちにとっても、わたしたちにとっても、チームトレノは“ひとりも欠けちゃいけない”から」
リンのその言葉に、ハルもユキも力強くうなずいた。
「じゃあ、行こう。さちに会いに」
日が落ち始めた街を、3人は歩き出した。
さちの不在を、ただの“欠席”にしないために。
チームとして、友達として、心からの思いを届けるために──。




