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絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種  作者: たまに何かを書く人
【第7章】重なる過去とつながる未来

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第五節 静けさのなかで

校外学習の翌週。

チームトレノの4人は、リンの家のトレーニングルームでいつも通りのメニューに励んでいた。


「ねえ、この前のペンダント作り……ほんと良かったよね」

ユキが笑顔で言う。


「うん。あれ見るたびに思い出す。歩いて行ったことも含めてさ」

ハルは首元のペンダントを指先で軽く弾く。


「日本での思い出のひとつって感じ」

リンもうれしそうにうなずいた。


記念写真を見返しながら、博物館の展示や刻印を悩んだ時間も、今ではすっかり笑い話だ。


季節は10月の終わり。日が落ちるのも早くなり、トレーニング後は汗が引くころには肌寒く感じるようになっていた。


「さち、今日は宿題やばいって言ってたよね」

「うん、家庭科……ボタン付けのやつ」

「私、それもう終わったー!」とハルが小さくガッツポーズ。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

「明日も授業あるしね」


4人は汗を拭きながら荷物をまとめ、玄関へと向かった。



自宅に戻ったさちは、キッチンで夕飯の支度をする母・真由美の隣に腰かけた。


「今日もリンの家でトレーニングしてきたよ」

「そっか。帰り、寒くなかった?」

「うん……ちょっと寒かったかな。でも、みんなと動いてると不思議と元気になるんだよね」


真由美は微笑みながら、黙ってさちの話に耳を傾けていた。


夕飯を終えると、さちは自室に戻った。着替えもせず、ベッドに腰かけて机に向かう。


家庭科の宿題は、「ボタンを3つ縫い付けること」。


「うぅ……苦手なんだよね、こういうの……」

と呟きながら、針に糸を通す。


ゆっくり、慎重に。一針一針進めるうち、汗の引いた体が冷えてきた。肩に上掛けをかけながら、2時間ほどかけてようやく縫い付けが完了。


「……できたぁ……」


さちは立ち上がり、シャワーを浴びてからベッドにもぐり込んだ。



翌朝。

「……う……ん……」


目を開けた瞬間、さちは違和感を覚えた。頭が重く、体は鉛のように動かない。


「さち、大丈夫?」

ドアをノックする音とともに、真由美が入ってきた。


「……ちょっと、だるいかも……」


おでこに手を当てると、熱があるのがわかる。体温計は案の定高めの数値を示していた。


「今日は学校、お休みしよう。お母さん、連絡してくるね。冷蔵庫にうどんのつゆと麺、別に入れてあるから。食べたくなったら温めてね。できるだけ早く帰るから……ゆっくり休んでて」


真由美はそう言い残し、仕事へ向かった。



静かな部屋に、外を吹く風の音だけが響く。

さちは布団の中で、天井をじっと見つめていた。


「……今日は、みんなとトレーニングできない……」


寂しさと悔しさが入り混じり、自然と涙がこぼれた。

嗚咽もすすり泣きもない。ただ、静かに──ぽろり。


いつの間にか眠っていたさちは、昼過ぎに目を覚ました。


「……頭痛、なくなってるかも」


体も少し楽になってきた。空腹を感じて台所へ向かう。


冷蔵庫を開けると、言われた通り、つゆと麺が整然とラップで包まれていた。

鍋に移し、弱火で温める。湯気が立ち上り、食欲をそそる香りが広がった。


丼によそい、箸を取ってつぶやく。


「……いただきます」


つゆのやさしい塩気が舌に染み、柔らかい麺が喉を通るたび、心まで温かくなるのがわかった。


(……お母さん)


責めるでも、押しつけるでもない。

いつもそっと、必要なだけを残してくれる。


支えてくれているのだと、心から感じた。


胸の奥がふわっと熱くなり、気づけば、一粒の涙が頬をすべっていた。


声も出さず、ただ静かに流れるその涙は、

きっと──感謝のしるしだった。


「……ありがとう、お母さん……」


さちは小さく呟き、再び箸を持った。

ひと口、またひと口。今度はしっかりと噛みしめながら。


食べ終えるころには、身体だけでなく、心の中にも少し光が差していた。



食器を片づけ、部屋に戻る。

さちはベッドの下から水入りのダンベルを取り出した。


「……ちょっとだけ、やってみようかな」


握った手に、戻ってくる力と、そばにいてくれる人のぬくもりを感じながら──

小さく、静かに、呼吸を整える。


挿絵(By みてみん)


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