第三節 秋風とチームの約束
10月に入り、空は高く、風は澄んでいた。
通学路の並木道では色づき始めた葉がゆっくりと舞い、空気にはほんのりと金木犀の香りが混じっていた。
「秋、だねぇ……」
スイミングスクールの帰り道、さちがふとつぶやく。
「うん。汗はかくけど、夏よりずっとトレーニングしやすい!」
ハルが笑いながら、バスタオルを肩にかけて応える。
スイミングに放課後のトレーニング――。それらは4人の生活の一部として、完全に馴染んでいた。「習慣」というより、「日常」と呼ぶ方がふさわしかった。
春にトレーニングを始めた頃と比べて、さちの体つきは明らかに引き締まっていた。
肩や背中にはうっすらと筋肉のラインが浮かび、腹筋もしっかりと割れ目が見えるほどに。
全身の動きにも無駄がなく、しなやかで力強さを感じさせる。
その姿は、小学生とは思えないほど鍛えられていた。
「最近、腕のサイズ測った?」
ユキがさちの二の腕を軽くつつく。
「この前、お母さんがメジャー持ってきて測ってくれたよ。1センチ伸びてた!」
「最近のトレメニューも、最初の頃よりずっとハードなのに、もう“普通”にできるようになったよね」
リンが感心したようにうなずく。
「でも……最近、やたらお腹すかない?」
「めっちゃわかる!」
「朝練した日の昼食、足りないもんね!」
4人は顔を見合わせて笑い合う。
「でも、無理に食事を減らすのは違うと思うんだよね」
さちが真剣な表情で言った。
「うん。私たち、小学生だし。まだ体をつくってる途中だもん」
ユキも静かに続ける。
「いっぱい食べて、いっぱい動く! それがチームトレノの基本だよ!」
ハルが胸を張る。
「Agreed. バランスよく、Strong body & Happy mind!」
リンが両手でガッツポーズを作り、4人は笑顔になった。
その日のトレーニング後。マットの上で水筒のフタを開けながら、さちがふと思い出したように言う。
「そういえば、来週の校外学習、楽しみだね!」
「うん、小学生最後の遠足だもん!」
ハルが声を弾ませる。
「行き先は東京だよね。国会議事堂の見学、ちょっと楽しみ」
ハルが目を輝かせる。
ユキがメモ帳を広げて確認する。
「リン、日本での遠足は初めてだよね。私たちでいろいろ案内するから!」
リンは嬉しそうに頷いた。
「楽しみ! Let’s go exploring, Team トレノ!」
校外学習を前に、学校では準備が進んでいた。
学級活動の時間になると、教室中がにぎやかになる。
「はいはい、バスの座席は~……あ、トレノの4人はセットで決まりだよね?」
「うんうん、あの4人はバラすと不自然すぎて逆に困る!」
周囲のそんな声に、4人は思わず笑ってしまった。
「なんか……自然に“いつも一緒”って思われてるね」
さちがくすっと笑う。
「でも、それって……うれしいよね」
ユキが静かに言った。
「見学後は、自由行動だって。どこ行くか、班で決めるんだよね」
さちが言うと、ハルが手を挙げるようにして提案した。
「私たち、ペンダント作りに行こうって話してたよね?」
「そうそう。博物館で体験できるって! 記念にもなるし、絶対楽しいよ」
「じゃあ、決まりだね」
トレノの4人は、移動手段にもこだわった。
「路線バスじゃなくて……歩いて行こうよ。せっかく東京に来るんだし、トレーニングにもなるし!」
ユキの提案に、全員が賛成した。
班決めや座席割りでは、誰もが「チームトレノはそのままで」と暗黙の了解で受け入れていた。
他の班が4人以外で自然に構成され、担任の先生も笑いながらこう言った。
「君たちは固まってる方が安心だね」
校外学習当日が、ますます楽しみになってきた。
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そして迎えた当日。
クラスメイトたちはバスの前に集合し、わいわいと話し合っていた。
「おはようございます!」
4人そろって元気よく挨拶すると、担任の先生がニヤリと笑った。
「お、来たなチームマッスル女子!」
「せんせー! ちがうよ、“チームトレノ”だってば!」
「はっはっは、すまんすまん!」
笑い声がクラスに広がる中、4人と仲間たちが円陣を組む。
「小学生最後の遠足、思いっきり楽しもう!」
「おーっ!」
さわやかな秋風が吹き抜ける中――
彼女たちの足取りは、これから始まる一日への期待と、変わらない友情に満ちていた。




