第二節 ひみつのトレーニングルーム
転校して数日が過ぎたある日。
さちはだんだんとクラスに慣れてきた。特に、よく声をかけてくれるハルとユキとは、昼休みに一緒に遊んだり、帰り道に話したりするようになっていた。
「さちって、運動好きって言ってたよね?」
ハルが言った。
「うん。体育とか走るのは好き。でも、自信があるわけじゃないんだ」
「でも、運動が好きってだけで、才能あると思うなー!」とユキ。
「うち、トレーニングしてるんだけど、今度見に来る?」
「トレーニング? えっ、何それ、部活?」
さちは目を丸くした。
「違うよ! 自主トレ! スイミングスクールのあと、うちの部屋で筋トレしてるの」
「えー!? なんでそんなことしてるの!?」
ハルとユキは顔を見合わせて笑った。
「うーん、楽しいから!」
「あと、強くなれるのって、気持ちいいんだよ」
さちは少し考えてから、ぽつりとつぶやいた。
「……ちょっと、見てみたいかも」
その日の放課後。
さちはハルとユキの家に招かれた。玄関をくぐると、明るくて居心地の良さそうな家だった。
「おじゃましまーす……」
「あら初めまして、いらっしゃい!」と2人の母・あかねがやさしく出迎えてくれた。
2階の姉妹の部屋に入ると、そこは想像とはちがっていた。
窓際にはヨガマットが敷かれ、小さなダンベルやトレーニングチューブのほか、腹筋ベンチやストップウォッチ、ホワイトボードに書かれたメニュー表まである。
「まるでトレーニングルームみたい……!」
「でしょ! ここがうちの“秘密基地”!」
「さちも、ちょっと体動かしてみない?」
その言葉に、さちは少しだけ迷った。でも――
「うん、少しだけなら……!」
それが、“トレーニングの物語”のはじまりだった。